内戦で途絶えたカンボジアの伝統織物に魅せられて現地にわたり、20年かけて織物を復活させた友禅職人がいる。森本喜久男さん(66)。工房を設け、森を開墾して女性らの雇用を生み出し、村を復興させた。その彼が今、がんを患い、運命と向き合う。 森本さんが心を奪われたのはカンボジアの「絹絣(きぬがすり)」。すべての絹の原種とも言われる「クメールの黄金の繭」を素材に、横糸を何十種類にも染め分けて柄を作る。天然の赤紫の染料を使った精緻(せいち)な手作業は、170万人が死んだポル・ポトの虐殺と、それに続く内戦で途絶えていた。 1994年に初めてカンボジアを訪れ、2年後に一人で「クメール伝統織物研究所」(IKTT)を設立した。古老らへの聞き取りで手法を復元し、織り手が収入を得ながら技術を身につける工房を創設した。 蚕の餌の桑、染料になる植物、織り機などの資材――。村の自活には森の復活が欠かせなかった。2002