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ゆず庵、おひとりさま
土曜日。今日はしゃぶしゃぶを腹いっぱい食べてやろうと思い、八月の日差しと蝉の声なか、電車に揺られ... 土曜日。今日はしゃぶしゃぶを腹いっぱい食べてやろうと思い、八月の日差しと蝉の声なか、電車に揺られ、ゆず庵に向かった。 席に着くと迷わず一番高い「黒毛和牛コース」を注文し、制限時間が始まるが早いか、薄切りの牛肉を箸で手繰り寄せ、それを軽く湯通ししてから、一気に頬張る。イクラ六貫、ウニ六貫を瞬く間に平らげる。うまい。食べる物が無くなったら、パネルでつぎつぎと新しいものを注文して、怪獣が街を壊す勢いで、黙々と食べ進めていく。タピオカミルクティーを一気に飲み干して小さなゲップをする。幸福だった。 ふと自分を、暴走するカオナシみたいだなと思った。食べても食べても満たされない感覚、いやそれよりももっと根源的な空虚感を覚えた。心にぽっかり大きな穴が空いたかのようだった。それに自分というものが、盲目にして貪欲にかられた哀れな消費者たるを感ぜずにはいられなかった。何だか急にどうでも良くなってしまった。周りの
2020/08/30 リンク