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『ノマドランド』と、包摂を止めた社会|伊藤聡
セーフティーネットからこぼれ落ちた人びと 「ノマド(流浪民)って、昔の開拓者に似てるよね。アメリカ... セーフティーネットからこぼれ落ちた人びと 「ノマド(流浪民)って、昔の開拓者に似てるよね。アメリカの伝統だと思う」と声をかける主人公の妹。刺々しい会話の雰囲気を和らげるために気を遣ってかけた言葉のはずですが、主人公ファーン(フランシス・マクドーマンド)の苛立った表情からは、妹の発言はあきらかに余計だったことが伺えます。キャンピングカーで暮らすほかない状況を、周囲が「放浪癖」「自由を求める精神」等と都合よく解釈する、その手前勝手さと無理解。60代になっても屋根のある家に住めないとは、いったいどのような社会なのか、見ていると暗澹たる気持ちにさせられます。かつて主人公は教師の仕事をしていましたが、元教え子にばったり出会い、「先生はいまホームレスなの?」と訊かれる場面で、取り繕うように「ホームレスではない、ハウスレスだ」と答えるくだりも記憶に残ります。主人公は、社会の包摂機能、セーフティーネットか
2021/03/30 リンク