「旅と死についてのエッセイ」であると冒頭で述べられているが、本全体では「人生についてのエッセイ」といってもいい内容だ。とはいえいわゆる人生論の凡百な本と明確に違うのは、夢や目標が叶えば幸せになるという構えがないことで、著者が旅で発見したり達成することも「道しるべ」、「駅の発車案内板」(21頁)くらいの暫定的な位置を占めるにとどまる。その抑制にリアリティがある。 「生きている限りは続く面倒くささ」(34頁)と著者が書いているのは、そういった暫定解がどれも最終的な解決にならないということを引き受けているからだろう。「面倒くささ」の源の最たるものとして著者は「自意識」を挙げているが(33頁)、人生の美しい瞬間を記憶に留めておいて辛いときには思い出そうといったようなこと(16頁)も自意識無しにはできないだろうから、自意識の重みを脱するために自意識自身を跳躍させるとでもいうような辛い構造が人生にはあ