<冷戦後、自由主義と民主主義の理念が世界を覆うように思われた。しかし、実際にはイスラーム過激派が台頭、米欧は内部に深い亀裂と分裂を抱えている。このようなちくはぐな状況を池内恵・東京大学教授は「まだら状の秩序」と呼ぶ。コロナの夜が明けた時に世界秩序はどう変わっているか。論壇誌「アステイオン」92号は「世界を覆う『まだら状の秩序』」特集。巻頭言を全文転載する> 冷戦が終結した時、三〇年後の世界がこのようなものになっていると、誰が予想しただろうか。フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』で、自由主義と民主主義が世界の隅々まで行き渡っていく、均質化した世界像を描いた。それに対してサミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』で、宗教や民族を中心にした歴史的な文明圏による結束の根強さと、それによる世界の分裂と対立を構想した。 いずれの説が正しかったのだろうか? 確かに、世界の均質化は進み、世界の隅々まで到達