8/8の東京オリンピック閉会式の前半で、メダリスト、医師ら6人が日本の国旗を持って入場するシーンで、バックに流れたのは、映画『東京物語』の音楽であった。 その荘厳で静かなメロディは、国旗入場から掲揚に至る厳粛なムードにふさわしく、『東京物語』を観ていなかったり、あるいは記憶の彼方となっている人には、違和感なく受け止められたはずである。そして『東京物語』の音楽と気づいた人は、SNSで好意的なコメントをつぶやいていたりもしていた。 東京でのオリンピックに『東京物語』の音楽を持ってくるというのは、「東京つながり」というシンプルなわかりやすさではある。しかし、映画ファンではない人、とくに若い世代にアピールする選曲ではない。国旗入場の単なるBGMと感じられたことだろう。 ただ「世界に向けて」という意味で、多少の効果はあったと思う。小津安二郎監督の1953年の『東京物語』は、イギリスの映画雑誌「サイト