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増田文芸の検索結果41 - 45 件 / 45件

  • 早稲田行きの荒川線がほとんど空っぽなまま夜の王子駅に入ってくるのを見..

    早稲田行きの荒川線がほとんど空っぽなまま夜の王子駅に入ってくるのを見ると、東十条の夜を思い出す。 真夜中に電話をかけてくるのはだいたい振付師で、出ると必ず「寝てた?」と聞く。こちらが寝ていたとしても別に対応を変えようとはしていない。挨拶がわりに今どこと聞くと、永福町のアパートからかけていることもあれば、聞いたこともない名前の街にいることもあった。 新潟の燕市から夜中の二時過ぎにかけてきた日、東十条にクルド料理のレストランができたのと振付師はいった。半分寝ながら「ああ、ああ」と返事しているうちに、翌週の夕方に同行することになっていた。 レストランは駅近くの雑居ビルにあった。細い階段を登ると、青い壁に赤を基調としたタペストリーがかけられ、トルコ製らしいランプが天井から吊るされた店内は薄暗かった。 二人とも果実の蒸留酒を飲みながらピーチ味のシーシャを吸って馬鹿話をした。振付師は蔦の模様がついたノ

      早稲田行きの荒川線がほとんど空っぽなまま夜の王子駅に入ってくるのを見..
    • 尾久は奥

      東京の中でもなぜ北側はコロナウイルスの感染者が少ないのか話題になってたが、行ってみたらそれはあたりまえのことだとわかる。わりと店が多い田端新町の大通りを夜に歩くと、週末でも人がほとんどいない。隅田川を挟んで足立区との境にある尾久(おく)まで行くと、さらに静かで薄気味が悪いくらいだ。 西尾久にいる女の所へ通っていた頃、なんでわざわざここに住んでるんだと聞いたことがある。 「別に。静かだから」 突き放したようなものの言い方をする女だった。こちらから迫っていくと拒むことはなかったが、いつもどこか醒めている感じがした。身体を繋いだ後にも余韻というものがなくて、すぐにテレビをつけたり、ベッドを降りて煙草を吸ったりした。そのわりには定期的に連絡をしてきてこちらの予定を尋ねるのは向こうの方からだった。 そういうこともあるんだろう、と思って漫然と関係を続けるくらいには自分は打算的だったし、未熟でもあったわ

        尾久は奥
      • 毎秒144個の檸檬を射出可能な梶井基次郎

        毎秒144個の檸檬を射出可能な梶井基次郎を沿岸部に配備してビタミンCの不足を補い、御歳暮で貰ったカルピスの原液を燃料にして太平洋の横断を図る。貸したまま返ってこない猫の手に想いを馳せて、ハートのうつわを浴槽に沈める。浦島太郎、浦島太郎、おはようございます。ハートのうつわが浮かんできた。浦島太郎、浦島太郎、おはようございます。さっそく猫の手が片方返ってきた。U字磁石をブラウン管テレビの側面に当てると、2009年のニュースが映し出された。「国連軍は昨夜未明、栽培中のプチトマト4個の奪還に向けてプラトンメールの使用を承認しました」これは大変な事になった。自分も動かざるを得ないかもしれない。

          毎秒144個の檸檬を射出可能な梶井基次郎
        • 「オメガラーメンって知ってる?」 彼は突然そう言った。私は驚いて彼の顔..

          「オメガラーメンって知ってる?」 彼は突然そう言った。私は驚いて彼の顔を見た。彼は真剣な表情で私を見つめていた。 「オメガラーメン?なにそれ?」 私は聞き返した。彼は少し笑って言った。 「コーラベースの黒いスープのラーメンだよ。すごく不思議な味で、一度食べたら忘れられないらしい」 「コーラベース?それ美味しいの?」 私は疑問に思った。彼は首をかしげて言った。 「分からない。でも、試してみたいと思わない?」 彼はそう言って、私にチラシを見せた。チラシには、オメガラーメンという店の写真と住所が書かれていた。 「この店、今日までしかやってないんだよね。明日から閉店するらしい」 彼はそう言って、私に期待した目で見た。 「どう?行ってみようか」 私は迷った。オメガラーメンという名前も、コーラベースのスープも、気になるけど、今日までしかやってない店に行く意味があるのかなと思った。 でも、彼がこんなに興

            「オメガラーメンって知ってる?」 彼は突然そう言った。私は驚いて彼の顔..
          • クソ野郎

            その昔、ある国にシンデレラ(灰被り)というクソ野郎がいました。どうしてシンデレラというのかと言いますと、彼女は母親の葬儀で自身の頭に遺灰をかけたのでありました、その様子から灰被りと呼ばれており、本名を失ったのです 妻に先立たれた夫もまたクソ野郎で、葬儀の翌日には三つ歳下の女を騙し、身体を重ね、結婚まで 決めてしまいました。そうして、シンデレラには 血の繋がっていない姉と妹が出来たのです 姉もまたクソ野郎でした、シンデレラの家に来て 数日経つや、「離れがあった方が便利じゃないかしら」と庭にあったシンデレラの母親の墓と墓のそばにあった樹齢何百年の木を伐採し、離れの建設を強行しました。 そんな、クソ野郎の一家にある日城から舞踏会の知らせが届きました。が、姉はシンデレラが読む前に「お前が行けるわけねぇだろ」と知らせを破いてしまいました。「最初から行くつもりなんかねぇよ。地獄にでも行った方がマシだ」

              クソ野郎