現代社会を考えるうえで試金石となる「ケア」の倫理。明治大学の岩野卓司先生が「贈与」の思想と「ケア」とを結びつけ、「来るべき共同体」の可能性を根源から、ゆっくりと探っていきます。 第3回は「あるヤングケアラー」と題し、ジョルジュ・バタイユに焦点をあてます。「贈与論は本質的にスカトロジーと密接な関係にある」とは……? あるヤングケアラー岩野卓司 ケアラー時代 1897年9月10日、フランス中部のピュイ゠ド゠ドーム県のビヨンという町にひとりの子どもが生まれた。 その子はジョルジュと名づけられたが、その生誕は不幸の始まりをも予告していた。彼の父はすでに失明していたが、それは梅毒の進行によるものであったからである。 ジョルジュが3歳のとき、病魔は進み、父は四肢の自由を失った。彼は母とともに父の介護をすることになったのだ。 肘掛椅子にくぎ付けにされた父は、人並みに便所に行けないので、腰かけたまま尿瓶に