「白雪姫」をはじめ、童話や昔話の原典をたどると実は残酷な話が多い....というのは、けっこう知られていると思います。 では、残酷な童話を現代小説として創作すればこうなるのではないか。 安部公房の「砂の女」(新潮文庫)を読んで、最初に思ったのがそれでした。ただし、母が娘の美しさを妬んで殺そうとするとか、内臓を食ってしまいたいとか、グリムのような素朴な残酷は出てきません。 広大な砂浜の寒村。都会から昆虫採集にきた平凡な教師の男が、足元の砂が崩れるように、深い穴の底の異世界に閉じ込められます。そこに暮らす一人の女。 残酷とは、簡略化すればわたしたちの常識から外れた行為、もしくは出来事です。そして童話の原典は直裁に、虚飾を剥いで真実を提示する残酷物語です。 この小説に殺人は出てこないけれど、語られるのは常識を否定した出来事の連続と常識の闘い。その過程が、健全な社会常識の中で生きているわたしたちの在