このブログでは、聖徳太子や法隆寺に関する論文や研究書を紹介していますが、時代の見通しをつかむには当時の歴史状況を概説した論考も必要ですので、程良くまとめられた穏当な例をとりあげることにします。 川尻秋生「飛鳥・白鳳文化」 (『岩波講座 日本歴史 第2巻 古代2』、岩波書店、2014年) です。 古代史研究者である川尻氏は、古代にあっては仏教が大きな役割が果たしたことに注意したうえで、諸説がある仏教公伝については、「年紀はともかく、漢籍による修飾があっても(その指摘が正しかったとしても)、史実でないとは断言できない」と述べます。 これは妥当ですね。公伝などに関する記述を疑う人たちは、「中国の典籍の表現を使っているから、机上の創作であって史実ではない」と言いがちなのですが、これは、「自分の言葉で、見たもの、感じたことをありのままに書きましょう」という戦後の作文教育の弊害ではないでしょうかね。