「井出ってさ、ナイフ持ち歩いてんの?」 「中学の時から持ってたよ」 それがたぶん、Sとの高校での最初の会話だったと思う。高校2年でクラス替えがあった直後だった。Sと同じ中学出身で別の高校に行った井出(仮名)という男が危ない奴で、普段からナイフを懐に忍ばせては近隣のヤンチャな奴らを狙っているという噂だった。今から思うと、どんな奴なんだ、井出(仮名)、少年サンデーから飛び出してきたみたいな奴だな、井出(仮名)。 高校生男子は、ナイフが好きだ。そして、わけのわからん危険な男の話が好きだ。Sとはそれ以来話すようになり、仲良くなった。しばらくして、アブない井出くん(仮名)は何か全然違う理由で高校を退学になったと風の噂で聞いた。 高校を卒業してからも、一緒に東京に出たSとはしょっちゅう飲みにいっていた。遊ぶ場所はSの大学の近くの国分寺が多くて、そこらへんの何が入ってるのかよくわからない安酒を出す店で泥