社会生物学と俗流進化論:ポップであることの功と罪 佐倉 統 (東京大学大学院情報学環;sakura@iii.u-tokyo.ac.jp) 通常科学と俗流科学と疑似科学の間に明確な線引きができないことは、すでにさまざまな論者によって指摘されている。このことはもちろん、通常科学と疑似科学が同じであることを意味するのではない。冷水と熱湯は連続しているが、両者の物理的特性や社会的機能は大きく異なる。それと同じことである。ここでは、1970年代に隆盛した社会生物学 (sociobiology) を題材に、通常科学と俗流科学の共通点と相違点を考察する。 社会生物学は、ダーウィン進化論の理論的枠組みで動物の社会行動の適応的機能を分析する学問領域である。1960年代から70年代初頭に基礎理論が整備された後、英語圏では70年代半ばから教科書化と制度化が進んだ。ダーウィン以来の課題であった利他行動の進化的要因