法律と道徳法律は「正しさ」を担保する、のではない。法律の許す範囲と正しさの範囲が寸分の狂いなく重なるなら、法改正という行為は存在し得ないからである。 もしも法律に間違いがないのなら、人間を奴隷として所有する行為は責められるようなものではなく、両手の親指の先、ふっくら盛り上がった桃色の肉と爪の間にゆっくり、深く、容赦なく裁縫針の先を押し込んでいく拷問も悪くない。違う。そうはならない、というのであれば、つまり我々の眼前にはしばしば「誤った法律」が現れていることになる。 しかし、法律における「誤り」とは何だろう。一瞬でもその点に思いを致せば、「法律と道徳は別物である」と単純に決めつけてしまうことは虚しい。両者の関係はまだらに重なっている程度だが、法律が道徳的な正しさ(を実現することへの欲求や信頼)を背景として一般国民に遵守されている実態を、真向うから否定する専門家は少ないのではないか。 司法は独