『破局』の主人公・陽介は、礼儀正しく、空気を読み、コミュニケーション能力が高い。これは一見すれば「常識的」な人物像にも思える。だが、恋愛相談をライフワークとしフェミニズムにも詳しい「桃山商事」の清田隆之はこれらの描写に、ミソジニー的な価値観を感じ取った。 作品から読み取れる、社会に偏在する女性蔑視的な価値観とマジョリティ男性の特徴、そして陽介の「奇妙さ」を考える。 “ハイスペ男子”の言動に宿る奇妙な手触り このたび第163回芥川賞を受賞した遠野遥『破局』は、大学4年生の陽介が母校で部活のコーチをしたり、好意を向けてきた後輩女子とセックスしたり、元カノと肉体関係を持って恋人にフラれたりする小説だ(これだけ聞いてもどんな小説かまったくイメージできないと思うが……)。 陽介は慶應(と思しき)大学の法学部に在籍しており、公務員試験を目指して日々勉強に励んでいる。また、高校時代に所属していたラグビー