『安部公房全集』(新潮社)に収められている、1950年代中盤から70年代くらいまでの、安部のシナリオ(映画・TVドラマ・ラジオドラマ)を読んでいると、当時の「表現」の手触りがわかってくる。安部の小説だけを読んでいたころには、そこまでは見えなかった。 安部の小説は当時もいまも一貫して人気があり、ちょっと文化系に傾きはじめた10代男子の多くが通過するマストアイテムだ。安部はまた世界的には劇作家として知られている。しかし映画や放送のためにもけっこうな量のシナリオを書いており、全集でそれを読んでいると、ややインテリ向けの小説や演劇よりもっとサブカルチャーに足をつけた安部の姿が見える。この人も寺山修司同様に、サブカルチャーのスターだったのだ。 安部公房の演劇やラジオドラマ、河原温(かわらおん)や岡本太郎の美術、勅使河原宏の映画といった戦後のモダンアート(なんなら武満徹の音楽も)は、「大衆的前衛」芸術