ブックマーク / toikimi.hateblo.jp (12)

  • ハヤさんの昔語り〔三〕~石工になった長太郎~(創作掌編) - かきがら掌編帖

    人から聞いたばかりの「セレンディピティ」という言葉を、受け売りで解説し始めると、 「舌をかみそうな言葉ですね」 カウンターの向こうでコーヒーを淹れながら、店主のハヤさんが言った。 セレンディピティは、18世紀のイギリスの作家ウォルポールの造語で、ペルシアの寓話『セレンディップの三人の王子たち』が語源となっている。 物語のなかで王子たちが旅に出て、途中で遭遇する思いがけない出来事を、機転によって幸運に変えていくところから、もともと探していなかった何かを発見し、その価値を見い出すことをセレンディピティというのだ。 おもしろそうに話を聞いてもらえて満足した私は、香り高いコーヒーをゆっくりと味わった。 「このあいだは、伊作とザシキワラシの話をしたので、今日は長太郎のことを話しましょうか」 ふと思いついたようにハヤさんが、前世で寸一という行者だったころの昔語りを始める。 △ ▲ △ ▲ △ ある日の

    ハヤさんの昔語り〔三〕~石工になった長太郎~(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/06/24
    もし私の人生が物語なら、私のセレンディピティは何だろうと思いました。思いがけず自分にとって大事な言葉に出会うことはあるけれど。もともと探していなくて、かつ価値を見い出したことは(まだ)ないかも
  • 父が少年だった頃 - かきがら掌編帖

    父が亡くなるひと月ほど前のことです。 私は、布団に横たわる父のそばに居て、テレビでも見ていたのだと思います。 どういうきっかけだったのか、父が思い出話を始めました。 少年の頃、1人で自転車に乗って遠出した話でした。 塩の効いたおにぎりと水筒を持ち、朝早く出発して、ずいぶん遠くまで行ってきたようです。 ところが話の中心は、どこへ行って何をしたという「冒険」の方ではなく、帰り道の出来事でした。 朝からの遠乗りで疲れていた父は、眠気と戦いながら自転車を走らせていましたが、とうとう居眠りをしたらしく、あっという間にバランスを崩して、自転車ごと転倒してしまったのです。 のどかな時代で、車や歩行者に接触することもなく、すり傷をつくったくらいで済んだのは幸いでした。 「道端で見ていた男の人たちに笑われて、恥ずかしかったな」 なつかしそうに笑って話す声を、私は相槌を打ちながら聞いていました。 そして、ふと

    父が少年だった頃 - かきがら掌編帖
  • ベール(創作掌編) - かきがら掌編帖

    ついさっき結婚を約束したばかりの僕と初音は、降りしきる雨のなかを歩いていた。 (あれ、いったい僕たちは、どこへ行こうとしているんだろう?) 傘を打つ雨音で、ふと我に返る。 フレンチレストランでプロポーズして、初音が承諾してくれたあと、極度の緊張から解放され、安堵感で夢心地になっていたらしい。 ほどなくして、あずまやのある公園に着いた。 傘をたたんで屋根の下に入り、ベンチに腰掛ける。規則的に植えられた木々の向こうに、高層ビル群の明かりが美しい。 横顔を見せたまま、初音が言った。 「昔話をひとつ、聞いてくれますか? 私の家に伝わる話で、母から娘へ、代々というより転々と、語り継がれてきた昔話」 唐突さにとまどいながら、僕はうなずいた。 △ ▲ △ ▲ △ 昔、ある村に古いお社(やしろ)がありました。 村じゅうの人びとが集まる秋祭りでは、夜通し、かがり火がたかれ、さまざまな奉納舞が行われます。 宝

    ベール(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/06/16
    その不思議な力には、正しい伴侶を見いだす目もそなわっているのだと思った。初音さんと僕がつつがなく幸せでありますように
  • 雨の日にながめる川、数えたカエル - かきがら掌編帖

    今週のお題「雨の日の過ごし方」 何度か引っ越していますが、いつも近所には川がありました。 さらさら流れる小川ではなく、車道と歩道に分かれた道路橋から見おろす川です。 現在も毎日のように、橋を渡って通勤しています。 雨の日にながめる川には、趣があります。 川面の波立ちと水の色が違う。雨量によっては水位も変わり、浮遊物が増えて、川の流れがいつもより速く見えます。音もきっと変化しているはずですが、車がひっきりなしに行き交っているため聞き取れません。 いつだったか、かなり大きな亀が浮かんでいるのを目撃したことがあります。泳いでいるのか、流されているのか、どちらともわかりにくいスピードで通り過ぎていきました。 雨の日の川は、普段より生き生きとして表情豊かですが、同時に、自然の荒々しさの片鱗をのぞかせているようでもあります。 さて、雨の日に生き生きするといえば、カエルです。 ひと昔前になりますが、数年

    雨の日にながめる川、数えたカエル - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/06/16
    田舎では時々、びっくりするほど大きなガマガエルに遭遇することがあって、なぜかそれを思い出しました。カエルは普段は隠れているから、いざ見ると新鮮で、不思議な生き物の感じがします
  • 常夜灯(創作掌編) - かきがら掌編帖

    幼い頃、星葉の部屋には小さなフクロウ型の常夜灯があった。 ドアの脇近く、コンセントに取りつけられたほのかな灯りは、暗闇の中で頼もしい見張り番だった。 夜中に目が覚めてしまったときは、フクロウにそっと話しかける。 「さみしい」 「こわい」 「いやだなぁ」 すると、いつも返ってくるのは、 「ホーホー、ホーホー、ここで守っているからだいじょうぶ」 という、やさしくユーモラスな声だ。 枕から頭をあげて見つめると、フクロウは首をかしげるようにうなずいてくれた。 それで星葉は安心して、眠りに戻っていけるのだった。 昼間はただのプラスチック製にしか見えないのに、夜になって部屋が暗くなると、生命を吹きこまれたように明かりが灯る。 父親の転勤で大きな町に移ったとき、引っ越し荷物のどこを捜しても、フクロウの常夜灯は見つからなかった。たぶん、夜が更けても明るいままの都会をきらって、森へ帰ってしまったのだろう。

    常夜灯(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/06/11
    星葉さんが男なのか女なのか、想像力が強いのか、それともふくろうは本当にいるのか、曖昧なところが好きだと思った。ふくろうはいると思う id:toikimiさん,解説ありがとうございます!!インスピレーションの石…!
  • ハヤさんの昔語り〔二〕~ザシキワラシ~(創作掌編) - かきがら掌編帖

    にぎやかな6名様が、財布を取り出し立ちあがるのを見て、私はほっとした。これでようやく、ハヤさんの昔語りを聞けるというものだ。 テーブルの片付けが済んだ頃合いを見計らって、コーヒーのお替りをオーダーする。 「ハヤさん、このあいだ聞かせてもらった雨ノ森のマヨイガの話だけど、あそこで出会った3人は、その後どうなったの?」 「ああ、お千代様と伊作と長太郎のことですね」 名前を知って、昔話の登場人物だった人たちに、血が通いはじめる。 私は、ハヤさんがコーヒーを淹れるのをながめながら、話の続きを待ちかまえた。 「あの時代、神隠しのような『魔』に出逢ってしまうことは、まさに一大事でした。無事に帰ってきたように見えても、そのあとで病気になって長いあいだ寝込んだり、さらには命を落としたりする危険さえあったのです。そこで、裕福なお千代様の家では、寸一を招いてお祓いの祈祷を行わせました。他の2人も呼び、定期的に

    ハヤさんの昔語り〔二〕~ザシキワラシ~(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/06/11
    土間にふたりの女の子がいるのが見えました。シンプルな描写なのに、奥深い味わいだなあと思いました
  • ハヤさんの昔語り~神隠し~(創作掌編) - かきがら掌編帖

    在宅の仕事が一段落つくと、近所の珈琲店に出かけるのが、私の楽しみのひとつだった。なるべく空いてそうな時間帯を選んで行くことに決めている。 店主のハヤさんは、親しくなると面白い話を聞かせてくれるようになった。 何と言っても彼は、自分の前世を思い出すことができるのだ。 世間には、輪廻転生してきた数多くの過去世を覚えている、という人も存在するらしい。 もちろん、私自身はまったく覚えていないし、ハヤさんが思い出せるのも、江戸から明治の時代を生きた「寸一」という人物のことだけだった。 寸一は寺に寄宿していた行者で、村の人びとが何かにつけ頼ってくるほど、不思議な力を持っていたようだ。 「私が子供のころ」とか、「学生だったころ」と言うように、ハヤさんはいつも、 「私が寸一だったころ……」 と前置きして、話し始めた。 △ ▲ △ ▲ △ 村で一度に三人もの神隠しがあった。 神隠しにあうのは若い娘が多いとい

    ハヤさんの昔語り~神隠し~(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/06/02
    怖い話かと思って読み進めたら違って、素敵なお話だった。わたしも心地よくだまされました
  • 『遠野物語』口語訳は原典への橋渡し - かきがら掌編帖

    柳田國男さんの文章が好きなので、口語訳には関心が薄かったのですが、ラジオ番組で紹介されているのを聞き、読んでみたくなりました。 口語訳 遠野物語 (河出文庫) 作者: 柳田国男,小田富英,佐藤誠輔 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2014/07/08 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (5件) を見る ちょうど『遠野物語』について書こうとしていたタイミングでもあり、こういう偶然に乗って正解でした。 『遠野物語』(原典)では、119話それぞれに番号が振られています。そして「題目」というページに、 神の始め  二、六九、七四 ザシキワラシ  一七、一八 天狗   二九、六二、九〇 河童      五五―五九 というように、主題と通番が紐付けられているのです。 「寒戸(さむと)の婆」という話があるのですが、「題目」は「昔の人」で、八、一〇、一一、一二、二一、二六、八四、と振って

    『遠野物語』口語訳は原典への橋渡し - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/05/31
    ちゃんと読んだことないけど、いつか読んで見たい本の筆頭「遠野物語」
  • 薬草園の匂い袋(創作掌編) - かきがら掌編帖

    礼美のお祖母さんは、薬草園を営んでいる。 昔は薬草だけを育て、煎じ薬や軟膏にして売っていた。土地の人たちは、どこか体の具合が悪いと、まず薬草園にやってきたそうだ。 時代の流れと共に、扱うのは薬草よりハーブが多くなって、今では「薬草園」といっしょに、「ハーブガーデン」という看板もかかげている。 お得意さまはレストランのシェフ、市場で材を仕入れたあと、新鮮なハーブを買いにくるのだ。 礼美は毎朝、学校へ行く前に、お祖母さんのところに出かける。2軒の家は隣り合っていて、道路に出なくても裏木戸を通って行き来ができた。 お祖母さんは夜明け前に起きて、1日分のハーブを摘む。種類ごとに袋詰めするのを、礼美は手伝っていた。摘みたてのハーブの香りが大好きなので、楽しい作業だ。 いっしょに朝ごはんをべ終えたころ、ひとりまたひとりと、お客さまがやってくる。その会話を聞いているのもおもしろかった。 「魚のいいの

    薬草園の匂い袋(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/05/19
    予感できるお祖母さんが素敵。お祖母さんの香草園にも小鬼みたいな不思議な存在がいそうだから、こそっと教えてもらってたりして、、とか空想してしまった
  • 小鬼と話す方法(創作掌編) - かきがら掌編帖

    ※ ひとつ前の掌編『新しい家~New Home~』の続きになります。 バルコニーというものは、家の内と外を分ける境界のひとつだ。小鬼が住むのにちょうどいい場なのかもしれないと、紀久代は思った。 朝、窓を開け、さり気なく姿を見せてくれる小鬼に、 「おはよう」 と、声をかける。 季節は初夏から夏へ向かい、雨と明るい晴天が繰り返されている。野原はあふれんばかりの生命力を誇っていた。 仕事に出るときは、「いってきます」。 帰ってきたら、「ただいま」。 小鬼が引っ越してきてから、なんとなく毎日が楽しい。 半世紀近い昔の記憶をさぐり、小鬼についてあれこれ聞いた話を思い起こしてみる。 子供の頃、かわいがってくれた近所のおばあさんは、昔話をたくさん知っていたし、その土地で起きた不思議な出来事にも精通していた。 「小鬼は人間のことばをしゃべらない。けれど、小鬼と話す方法はある」 と、紀久代に教えてくれたのだ

    小鬼と話す方法(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/05/17
    話せるなんて、ますます羨ましい!意外な展開でわくわくしました
  • 新しい家~New Home~(創作掌編) - かきがら掌編帖

    紀久代が引っ越してきたマンションの部屋には、ルーフバルコニーが付いていた。 とはいっても、その名から連想される高級なものではなく、建築基準法の斜線規制によって、建物の造りが途中から階段状なった結果、中途半端に広いバルコニーが出来てしまった、ということなのだ。 賃貸契約の仲介をしてくれた不動産屋さんは、 「ガーデニングや家庭菜園ができる花壇付きなんです。コンセプトマンションの走りだった物件ですよ」 と、目を輝かせたけれど、居住者は単身の勤め人が多く、せっかくのコンセプトも宝の持ち腐れになっているようだ。タタミ1畳ほどもある花壇の土は乾いてひび割れ、前の住人がガーデニングを楽しんだ形跡はなかった。 50歳を過ぎて想定外のひとり暮らし、右往左往して日々を過ごしているうちに、いつの間にか花壇には、どこからともなくやってきて根付いた野草が数種類、寄せ植えしたように生えていた。 同じ階の人たちの大半が

    新しい家~New Home~(創作掌編) - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/05/13
    最後が素敵でした。いいなあ
  • 今こそ『時の娘』 - かきがら掌編帖

    スコットランド出身の推理作家ジョセフィン・テイの歴史ミステリ『時の娘』(1951年発表)は、時を超えて永く読まれ続ける名作中の名作です。 英国史の予備知識がなくても、物語として、知的エンタテインメントとして、心から楽しめる1冊。 時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1) 作者: ジョセフィン・テイ,小泉喜美子 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1977/06/30 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 21回 この商品を含むブログ (71件) を見る 英国の薔薇戦争の昔、王位を奪うため、いたいけな王子を殺害した悪虐非道の王、リチャード三世。 捜査中不慮の事故に会い、退屈な入院生活を送るグラント警部は、ふと一幅の肖像画を手にした。思慮深い双眸。誰か判らないが、犯罪者の顔つきではない。 だが、これがあの悪人リチャード王のものだと知った警部に疑問がめばえた。 彼は当に伝説どおり

    今こそ『時の娘』 - かきがら掌編帖
    happysad88
    happysad88 2018/05/11
    馬をくれ代わりに王国をくれてやるbyシェイクスピアのイメージで固定されているから、これはぜひ読んで見たいな
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