岸田文雄首相が2027年度に防衛費と関連経費で国内総生産(GDP)比2%とするよう指示し、翌29日、自民党安倍派を中心に党内には歓迎する声が広がった。首相は閣僚の辞任ドミノで苦境に立つだけに、今回の指示には党内世論に応える姿勢をアピールする狙いが透ける。だが、財源確保策を巡って政府・与党内に意見の対立があり、年内決着を目指す議論は曲折が予想される。 求心力回復へ 岸田首相自ら「根回し」 「大きな進展だ」。安倍派の安全保障・防衛プロジェクトチーム座長を務める大塚拓衆院議員は29日、国会内で記者団にこう語り、首相指示を歓迎した。自民党国防族からも「首相から明確な指示が出たことは大切だ」(小野寺五典安保調査会長)と評価する声が相次いだ。 岸田政権で防衛力強化と積極財政の旗振り役を…
単身女性の住居費は平均6・1万円、収入に占める住居費の割合は約4割――。横浜市男女共同参画推進協会が単身で暮らす女性15人にヒアリング調査を実施したところ、住居費負担が重く、厳しい生活を送っている実態が浮かんだ。国の調査では、一般的な住居費負担は年収の2割ほどだ。女性の場合、非正規雇用が多く収入が低いことや、安全面の懸念から家賃が高くなりやすい上、行政の支援が乏しいことが背景にあるとみられる。同協会は「家を確保するために必死で働き、食費を削る生活が『健康で文化的』と言えるのか。見えにくい貧困に光を当てたい」とし、今後大規模調査をして、実態を政策提言につなげる考えだ。 東京都立大の阿部彩教授による研究「相対的貧困率の動向:2019年国民生活基礎調査を用いて」によると、20~64歳男女の世帯構造別貧困率は、母子世帯が25・2%と最も高く、単身女性が24・5%と続く。国の調査によると20年度、フ
記者が購入した「日本国紀」単行本初版と上下巻からなる文庫版。下巻の付箋は誤りが放置されていたり、記者が気付いたりした単行本からの修正箇所=吉井理記撮影 やはり書いておくべきだろう。単行本に続いて文庫版も売れ行き好調、作家・百田尚樹さんの「日本国紀」(幻冬舎)の「南京大虐殺」否定論だ。中国による香港やウイグル族らへの弾圧が報じられる今である。自国の過去の人権じゅうりんに向き合わず、他国のそれを批判していいのだろうか。1次資料や研究者の取材に基づき、否定論を検証する。【吉井理記/デジタル報道センター】 「南京大虐殺はフィクションです」 「否定論を語る人の特徴は虐殺を記録した1次資料、つまり当時南京で事件の渦中にいた外国人の記録類はもちろん、日本軍の戦闘詳報や将兵の陣中日記などを無視することです。この本も相変わらずですね……」 深々とため息を漏らすのは南京事件研究の第一人者で都留文科大名誉教授、
ウクライナから避難したコンゴ民主共和国出身のパイラ・クリスベルさん=ポーランド南東部プシェミシルで2022年3月1日午後1時36分、三木幸治撮影 ロシア軍による侵攻を受け、ウクライナに住むアフリカなど出身の外国人労働者、留学生らも隣国に続々と避難している。人生を一変させられた彼らに今、人種差別の不安が広がりつつある。 「本当に長い旅だった」。ウクライナ国境近くのポーランド南東部プシェミシル。駅の片隅で1日、パイラ・クリスベルさん(33)が立ち尽くしていた。 武装勢力による略奪が続く祖国、アフリカ中部コンゴ民主共和国を離れ、12年前、ウクライナ第2の都市ハリコフに移り住んだ。現地で技術を身につけ、ITエンジニアとして働いた。 だがロシア軍は2月24日からハリコフにミサイル攻撃を開始。パイラさんは翌朝、「このままでは死ぬかもしれない」と感じ、スーツケース一つで住み慣れた町を飛び出した。 車で首
「倒そう、制圧、制圧」。手袋をはめた制服姿の入管職員が、収容されていた日系ブラジル人男性を6人がかりで押さえ込み、「痛い、痛い」と叫ぶ男性の腕をねじり上げた。「痛いじゃねーんだよ」「うるさい、静かにしろ」。職員の大声が響き渡る。これは、男性が東京入国管理局(現・東京出入国在留管理局、東京都港区)に収容されていた際に職員による暴行でけがをしたとして、国に損害賠償を求めた裁判で東京地裁に提出された証拠のビデオ映像だ。入管収容施設で外国人が職員に暴力を振るわれたと訴える裁判が相次いでいる。入管の収容施設で、何が起きているのか。前編と後編に分けて伝える。【上東麻子/デジタル報道センター】(後編はこちら) 暴行を受け負傷したとして国を提訴 訴状などによると、2018年10月5日、東京入管に収容されていた日系ブラジル人、アンドレ・クスノキさん(35)は入管職員から、茨城県牛久市にある入国者収容所「東日
伊谷周一さんが被爆した旅館跡の近くで、位牌を手にした長女の柴田杉子さんが言った。「来たよ。お父さん」=広島市中区で2021年10月14日、山田尚弘撮影 繁華街の朝はきりりと冷え込み、ビールケースを積んだトラックの往来が絶えない。10月、広島市中区堀川町。米軍が76年前の夏に原子爆弾を投下した午前8時15分に合わせ、柴田杉子さん(58)=鳥取市=は位牌(いはい)をぎゅっと握りしめた。「来たよ。お父さん」。漆黒の位牌には白い字で「不核院堅持日周居士(ふかくいんけんじにっしゅうこじ)」と刻まれている。鳥取の原水爆禁止運動をリードし、4年前に88歳で逝った父の、そして記者の私が初めて出会った被爆者の戒名だ。 伊谷(いだに)周一さん。太平洋戦争末期の1945年8月6日、「不核」の人は鳥取市の旧制中学に通う16歳だった。経理官を養成する陸軍経理学校予科を受験するため試験会場の広島に前日入りし、宿泊した
「基地あるがゆえに起こるさまざまの被害公害や、取り返しのつかない多くの悲劇等を経験している県民は、復帰に当たっては、やはり従来通りの基地の島としてではなく、基地のない平和の島としての復帰を強く望んでおります」 沖縄の本土復帰を翌年に控えた1971年11月17日、琉球政府(後の沖縄県)トップの屋良朝苗(やらちょうびょう)主席は米国統治下にあった沖縄から東京へと向かっていた。その手にあったのは復帰に対する要望をまとめた132ページの「建議書」。そこには、住民約9万4000人(推計)が犠牲となった45年の沖縄戦を経て、米国統治による人権抑圧に苦しんできた沖縄の人たちが求める復帰の「理想」がつづられていた。 だが、屋良主席が政府や国会に建議書を届けようと羽田空港に降り立ったちょうどその頃、日米が6月に調印した沖縄返還協定の承認案を自民党が衆議院の特別委員会で抜き打ち的に強行採決。この特別委での可決
新吉原遊郭で幕末の1849年、遊女16人が共謀して自らが働く店に火を付け、直後に「自首」した事件。前編では事件の裁判記録をもとに、遊女たちが置かれた過酷な環境など放火にまで追い込まれた事情に迫った。後編はまずリーダー格遊女・豊平の日記に焦点を当て、事件のきっかけとなったある出来事と、豊平の心の動きをひもときたい。そして16人に下された裁きとは――。 【牧野宏美/デジタル報道センター】 リーダー格遊女が感じた絶望 13歳で遊女になって以来、14年間奉公を続け、店で最上位の序列に上り詰めた豊平。1850年に年季が明けることになっていたが、佐吉はそれを阻止しようとたくらむ。事件の2年前の47年9月、玉芝という若い遊女が店から逃げようとしたのを捕らえた際、佐吉が玉芝にうその証言をするよう迫ったのだ。「豊平からお金をもらい、逃げるようそそのかされた」と。玉芝は当初戸惑ったが、佐吉に大きな鉄ついで頭を
自民党総裁選で菅義偉氏(左)と手を取り合う岸田文雄自民党新総裁。「グリーン」を主要政策に掲げた菅氏に比べ、岸田氏はエネルギーや環境政策への言及は少なかった=東京都港区で9月29日(代表撮影) 4日召集の臨時国会で新首相に選出された自民党の岸田文雄総裁。新内閣ではエネルギー政策が原発回帰に転じるとの見方が広がっている。「原子力ムラ」とつながるキーマンが要職に就くためだ。河野太郎前規制改革担当相や小泉進次郎前環境相が主導した菅義偉前政権下の再生可能エネルギー重視の路線はどう軌道修正されていくのか。 「事実上の甘利内閣」 歓喜する電力業界 「エネルギー政策に通じた人が多く登用されている。やりやすい」。新政権の布陣が明らかになるにつれ、電力業界の幹部からはこんな歓迎の声が上がる。 業界が最も歓迎するのは甘利明幹事長の誕生だ。麻生派ながら総裁選で岸田氏を全面支援し、安倍晋三元首相が実質率いる細田派と
平井卓也デジタル相は28日の閣議後記者会見で、自身とデジタル庁事務方ナンバー2がNTT幹部から受けた接待の代金を遅れて支払った問題について、「その場で会計してくれるような店ではなかった」と釈明した。「一般的な意見交換であって、大臣規範に抵触するものではない」と強調した。一方、NTTの澤田純社長は28日の記者会見で、接待の会合は「デジタル技術について意見交換したい」との平井氏の申し出がきっかけで設定されたことを明らかにした。 平井氏と赤石浩一デジタル審議官(当時は内閣官房イノベーション総括官)らは2020年10月と12月、NTT子会社が運営する会員制の高級レストランで接待を受けた。28日の会見で平井氏は「一般のレストランならともかく、社員食堂でしょ。チェックはしない」と述べる一方、「早く支払っておけばよかった」とも語った。
新型コロナウイルス対策について語る西塚至・東京都墨田区保健所長=同区で2021年9月2日午後2時4分、神足俊輔撮影 新型コロナウイルスの第5波によって感染者が急増した東京都内で、8月にコロナによる死者や重症患者がゼロだった自治体がある。墨田区は8月中旬以降、入院を待たされる感染者も出ていない。コロナ病床を感染の拡大や感染者の特徴に合わせて確保・運用する戦略を実行してきたからだという。各地で医療体制が逼迫(ひっぱく)する中、どうしてそれが可能だったのか。病床確保の観点から「墨田モデル」を探った。 墨田区の対策会議の資料にある病床の一覧には、見慣れない言葉が記載されている。「回復者病床」と「疑似症病床」だ。コロナ病床がない民間の病院にも設置されている区独自の制度で、感染症指定医療機関の都立墨東病院などにあるコロナ病床を有効活用するために考案された。 「症状が回復し、感染性(他人にうつす可能性)
東京五輪の閉会式が行われている国立競技場で打ち上がる花火=東京都渋谷区の渋谷スカイから2021年8月8日午後8時43分、手塚耕一郎撮影 東京オリンピック・パラリンピックには、いくらかかっているのか。大会組織委員会、東京都、国がそれぞれ支出し、関連経費を含めて3兆円を超すとの試算もある。無駄なく、適正な使われ方をしているのかについて、全体を見通してチェックする機関がないことを懸念する声がある。 契約詳細は非公開 「経費膨張の懸念の声を多くの方からいただいている」。5月に開かれた衆院文部科学委員会で立憲民主党の斉木武志氏がオリパラの関連費について疑問を投げ掛けた。追及の材料にしたのは、複数の内部告発で得たという43会場の運営業務委託費の資料だ。これを基に「高すぎる」と追及すると、組織委の布村幸彦・副事務総長は「個々の契約の詳細については公開をしていない」などと答えた。 大会経費は2013年の「
「年を取った時、自分もバス停でひとりポツンと座っている姿が浮かぶんです」。東京都渋谷区のバス停で今年11月、路上生活者の女性が男に頭を殴られ死亡した。その境遇を、自分と重ね合わせる女性がいる。山野恵美さん(38)=仮名。大学卒業以来、非正規雇用の仕事を転々とし、5年間の路上生活も経験した。今年夏には、新型コロナウイルスの影響で日雇いの仕事も失った。菅義偉首相は目指す社会像に「自助・共助・公助」を掲げるが、行き場を失って路上に迷い出る女性たちの姿が、その目に見えているのだろうか――。事件を「ひとごとと思えない」と語る女性に、話を聞いた。【木許はるみ/統合デジタル取材センター】 「全くひとごとと思えない」 デモ会場での叫び 事件が発生したのは11月16日午前4時ごろ。渋谷区幡ケ谷のバス停のベンチに座っていた路上生活者の大林三佐子さん(64)が、近所の酒店従業員、吉田和人被告(46)=傷害致死罪
「野党は全て党内手続き済みです。自民党はどうなのですか」 「政府だって大きな責任を負っています。何がハードル、問題なんでしょう」 今月5日、参議院予算委員会。舟山康江議員(国民民主党)が戦後補償問題に関して政府に迫った。よく通る声で、迫力のある内容だった。私は空襲被害者など民間人戦争被害者に関する補償問題について10年以上取材している。この問題で首相の答弁を聞いたのは6年ぶりのことだ。 「東京大空襲」だけでない「東海道大空襲」 今から76年前の今日3月10日、アメリカの戦略爆撃機であるB29およそ300機が、東京・隅田川沿岸を無差別爆撃した。爆撃自体は2時間程度で終わったが、折からの強風もあって火災が広がった。犠牲者は8万人とも10万人ともされる。「東京大空襲」である。歴史の教科書に記され、広く知られているだろう。しかし米軍による大規模な無差別爆撃はこれが終わりでなく、始まりだった。大阪や
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