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増田文芸の検索結果1 - 7 件 / 7件

  • 旅が終わる気がする

    私の故郷はとても寒い場所にあって、そこで大人になるまで暮らしていました。 事情があって町を出てから初めて、あぁ、私はここから本当に離れたかったのだなと気がつきました。 一人暮らしを始めた日は大雨警報が出ていて、ラジオからは空港で足止めになった人がインタビューを受ける声が聞こえました。 これから暮らす知らない街は嫌がらせのように道が入り組んでいて、番地の順番はひどく不規則でした。土砂降りの中、散々迷ってほうほうのていでアパートに辿り着いたとき、私は全身ずぶ濡れで、まるで服のままシャワーを浴びたかのようでした。 電気がまだ通っていなかったので部屋の中は真っ暗でした。ドアを開けると、安くて古い家特有の匂いがして、一歩進むごとに床がぎしぎし鳴りました。アパートの廊下の灯りに照らされて、自分だけの部屋に一人佇む私のシルエットが浮かぶのが見えました。 それを見た瞬間、お腹の底からわーっと力強いエネルギ

      旅が終わる気がする
    • もしも童話「おおきなカブ」がITのデスマプロジェクトだったら

      渋谷の雑居ビル。 ホワイトボード前に置かれたパイプ椅子にイヌ、ネコ、ネズミが一触即発の雰囲気で座っている。 扉が開き、慌てた様子の青年が入ってくる。 孫「お疲れ様です、すいませ――」 ネズミ「遅えよッ!!」 ネコ「!!」 イヌ「……ネズミさん、怒鳴るのはやめましょうって……」 ネズミ「……チッ」 孫「あの、本当、すいません。11時からって、皆さんにお約束してたのに……」 イヌ「ま、まぁ。とりあえず、ミーティングの報告をお願いします。もう2時間も押してるんで」 孫「は、はい! すいません、ではこちらの資料を…… あっ」 イヌ「どうかしましたか?」 孫「印刷した資料が1部たりなくて。……じゃあ、はい! 僕のは大丈夫なんで、業務委託の皆さんで、どうぞ!」 ネズミ「ッ……!」 イヌ・ネコ「……」 孫「はい、では皆さんお手元に資料ありますかね、お疲れ様です!」 ネズミ「……」 イヌ・ネコ「……お疲れ

        もしも童話「おおきなカブ」がITのデスマプロジェクトだったら
      • 木村一基の不撓の闘い

        藤井聡太棋聖が瞬く間に二冠、そして八段となり、世間は大きく湧いている。 けれど、ここでは、番勝負で敗れた木村一基九段の話をさせてください。 悲願は実る将棋ファンをやっていて一番辛かった瞬間は、と問われれば、2016年の第57期王位戦七番勝負第7局を挙げる。このシリーズ、通算6回目のタイトル戦挑戦となった木村一基八段(当時)が、羽生善治王位を相手に3勝2敗と先行し、悲願の初タイトルに王手をかけていた。しかし、第6局、第7局と木村は連敗する。またしても、悲願の初タイトル獲得はならなかった。これで木村は、あと1つでタイトル、というところで8連敗を喫した。あと一つは、どこまでも遠い。 いつもは負けた後も気丈に振る舞う木村だが、この日は様子が違った。記者の質問に言葉が詰まる。言葉が、出ない。結局、言葉を発さないまま、木村は右手を小さく振って質問をさえぎった。8度目の正直。期するものはどれだけだったか

          木村一基の不撓の闘い
        • 父とオナニー

          父子家庭で育った。 母30、父40、私3の時に母が死んだ。 それから父が女性と関係を持っていたかどうかはわからないが、 まじめで無口な人で職場にも女性は少なく、友人関係自体ほとんどなさそうなので、あまり考えられないと思う。 また収入面や生活リズムを考えると風俗に行っていたとも考えにくい。 朝早く会社へ行き定時でまっすぐ帰宅し、趣味といえば読書とちょっとした旅行くらいで、仕事と私の世話に父の後半生は費やされた。 父は漫画が好きで、私とも漫画の趣味がよく合い、ジャンプやアフタヌーン、モーニング、ガンガンなどを共有して読んでいた。 一方で父は甘い生活などの過激な漫画から本気の成年漫画まで多数持っていたし、私もそのうち過激な少女漫画やボーイズラブも読むようになった。 家に数多くの官能小説やアダルトビデオがあるのにもいつからか気づいていた。 趣味が合う部分がある一方で、狭い家で隠しきれるわけもないそ

            父とオナニー
          • 緊急事態宣言下のカツカレー

            週に何度かの出勤日を終え帰宅する途中、ふと駅前のとんかつ屋の張り紙が目についた 「夜限定カツカレー 1200円 豚汁おしんこ付き」 夜限定?このご時世で8時までしか営業できないことと関係あるのだろうか?でもとんかつ屋がカツカレーにしたって客の滞在時間は変わらないよな。等と思いながらも限定の二文字ととんかつ屋のカレーがどんなものか気になり来店 過去に一度来た事があるが相変わらず古く、ボロくもあるが老舗の空気も漂わせるいい雰囲気、カウンターキッチンとテーブル席が3つほどの小さな店だ。 こんな時期だからか一人客なのに四人掛けのテーブル席に通される。他の客は二名。一人は奥のテーブルで二本目のビールをあけている。たった一人で瓶ビール二本。そこらの飲み会で騒ぐためにビールを飲み、ビールしかアルコールを知らないオッサンどもとは違う、正真正銘にビールが好きなオッサンなんだろう。もう一人はちょうどカツカレー

              緊急事態宣言下のカツカレー
            • 彼氏に20年以上大事にしているぬいぐるみがバレた。

              共通の女友達が夕方私の家に来て、そのあとに彼が来て3人で鍋をした。 なもんで、その日の朝方、みんなが来る前に部屋を片付けているときは 「ベッドの下に隠しておけばいいか」と思ってしまったのだ。 友達とベッドに入ることはないから。 彼が泊まるなら、彼が風呂でも入っている間に いつも通りクローゼットに隠せばいい。 そう思ってしまったのだ。 自らシーツをめくって彼に披露してしまうぐらい、 私はこんなにもウッカリ者だというのに。 ぬいぐるみこと、わんころべえとは、恐らく小学校2、3年生からの付き合いだ。 近所の小さい夏祭りのバザーで売られていた犬のぬいぐるみ。 別に某漫画のキャラクターでもなんでもなくて、本当にただの犬のぬいぐるみ。 白くて茶色い垂れ耳、茶色のリボンを雑に首に巻かれた、 当時から既に「少し古い印象」が漂うぬいぐるみを、 私はわんころべえと名付けて大切にした。 毎日一緒に寝た。 怖い夢

                彼氏に20年以上大事にしているぬいぐるみがバレた。
              • 木の球体

                従兄が35歳で年収手取りで一千万くらいなのに未婚だから伯母から既婚者として結婚したくなるように刺激してくれって頼まれて、まあ俺も久々に会いたいなーと思って様子見てきたんだけど 別に浪費するでもなく、仕事と趣味だけで過ごしてて、その趣味が木材を丸く削って球体にする事らしい 最初は拳サイズだったんだけど最近はボーリングの球くらいのを作ってて、ツヤツヤに仕上げてる 見せてもらったらそれが本当に綺麗な球体で転がすとフローリングを滑らかにコロコロ転がるんだわ これどうすんの?みたいな野暮な事は聞かないけど、2LDKの一部屋がそれを置いたスチール棚で壁面全部埋まってるのはびびった その後Switchのスマブラやりながらしゃべったんだけど付き合ってる人もいなくて仕事も順調だし満足しちゃってるって言うんだわ 従兄が一瞬だけイラついたような声になったのは、俺が「ニスとか塗ったらもっとツヤツヤすんじゃね?」っ

                  木の球体
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