並び順

ブックマーク数

期間指定

  • から
  • まで

1 - 31 件 / 31件

新着順 人気順

日経クロステックの検索結果1 - 31 件 / 31件

  • 日本における「名寄せ」と「照合」の黒歴史

    健康保険証、銀行口座、年金記録――個人のマイナンバーに別人の情報がひも付けられるトラブルが後を絶たない。多くの事案に共通するのは、自治体や関係機関の職員が氏名や生年月日などを基にマイナンバーや住民データを照会した際に、誤って同姓同名の人の情報を引き出してひも付けてしまうというケースだ。 こうした情報のひも付けをする際、職員が住民データの照合や突合、本人確認に使うのが「氏名」「生年月日」「性別」「住所」、いわゆる基本4情報といわれるものだ。 だがこの4情報は、コンピューターによる自動処理とは絶望的に相性が悪い。例えば氏名は「邊」「邉」など旧字・異体字の揺らぎや外字の処理が煩雑なうえ、婚姻による改名もある。よくある氏名の場合、氏名も生年月日も同一というケースが頻発する。住所は時期によって変わるうえ、人によって書き方が「一丁目四番」から「1―4」まで一意ではない。 こうした曖昧な識別符号を代替す

      日本における「名寄せ」と「照合」の黒歴史
    • 「要件定義をやめよう」の真意、普通にやると金と時間が無駄になるだけ

      「要件定義をやめないといかんね」――。ある勉強会が終盤に近づいた頃、隣席の参加者がこうつぶやいた。それを聞いた周囲の参加者がうなずいた。驚いたことに自分も「おっしゃる通り」と同意してしまった。 なぜ驚いたかというと、「要件がすべてを決める」「じっくり時間をかけるべき」と教わってきたからだ。日経コンピュータ編集部に配属された1985年以降、取材先の情報システム部長やソフトハウスの幹部を取材した際、「情報化で重要なこと」を問うと、たいていこう言われた。だから「いわゆる最上流工程が大事」という記事をたびたび書いてきた。 勉強会に登壇した講演者たちが「要件定義をやめよ」と言ったわけではない。しかし隣に座っていた参加者は、講演の趣旨を「要件定義をやめよ」という一言に集約した。同じ話を聞いてきた筆者を含めた参加者はすんなり納得したわけだ。 失敗につながる要件定義の実態 DX(デジタルトランスフォーメー

        「要件定義をやめよう」の真意、普通にやると金と時間が無駄になるだけ
      • 事業会社とコンサルが技術者吸い込む SIerの人手不足が危ない

        1人の転職活動に10社以上が内定を出すほど、ITエンジニアの争奪戦が激化している。背景には、事業会社やコンサルティング会社が採用を強化していることがある。しわ寄せが行くのは中堅・中小のベンダーだ。生き残るすべを見つける必要がありそうだ。 パーソルキャリアが発表した2022年12月の「エンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率は、12.09倍と全職種でトップだった。前年同月比で2.21ポイント増、前月比で1.64ポイント増と人気に拍車がかかっている。 2023年1月のITエンジニアの転職求人倍率は11.17倍と前月比で0.92ポイント下がった。それでも全体平均の2.34倍を9ポイント近く上回っている。

          事業会社とコンサルが技術者吸い込む SIerの人手不足が危ない
        • 防波堤が前触れなく一夜で倒壊、3年前の調査で「問題なし」

          宮城県気仙沼市の気仙沼漁港で、防波堤が延長50.3mにわたって一夜にして海上から消えた。防波堤を支える鋼管が折れ、海中で倒壊していた。県が2018年に実施した老朽化調査では、健全度に問題はないと判定していた。 21年11月2日午前6時50分ごろ、地元の漁業関係者が小々汐(こごしお)防波堤の倒壊に気づき、漁港を管理する県に通報した。県気仙沼地方振興事務所水産漁港部によると、地元の人は「前日の午後5時半ごろまで異変はなかった」と話しているという。 小々汐防波堤は、延長81mで幅約4m。岸から30.7mの区間は、コンクリートブロックを積み重ねた重力式の構造で、1976年に完成した。 倒壊したのは、77年に延長した50.3mの区間だ。この区間は、地中に打ち込んだ直径約700mmの鋼管で堤体を支えるカーテン式防波堤だ。港外側の鋼管の前面に取り付けたプレキャストコンクリート(PCa)板で波を防ぐ。港外

            防波堤が前触れなく一夜で倒壊、3年前の調査で「問題なし」
          • 「ハードだけ売ってほしい」、自動車部品メーカーに突き付けられた異変

            「ハードウエアだけを売ってほしい」。最近増えているのが、自動車部品メーカー(サプライヤー)に対する自動車メーカーからのこうした要求だ。フランスValeo(ヴァレオ)やドイツZF、同Bosch(ボッシュ)など大手サプライヤーも、そうしたケースが増えていることを認める。 背景にあるのは、電気自動車(EV)化の先に見据える、ソフトウエア定義車両(SDV)化や自動運転(AD)化の存在だ(図1)。SDV化やAD化では、クルマにおけるソフトウエアの重要性が増し、自動車メーカーはその主導権を握りたいと考えるようになるからだ。

              「ハードだけ売ってほしい」、自動車部品メーカーに突き付けられた異変
            • 波紋広がるGmailガイドライン、国内企業から相次ぐ利用者への「お願い」に感じる不安

              神奈川県教育委員会が2024年1月9日に開始した公立高校の出願システムでトラブルが生じている。利用者が米Google(グーグル)のメールサービス「Gmail」のアドレスを登録しても、手続きに必要なメールが届かないというものだ。神奈川県公立高校の募集案内によれば、出願期限は1月末。1月末までにトラブルは解消されず、県教育委員会はGmail以外のアドレスを使うよう呼びかけたり、メールアドレスを貸し出したりしている。手続きができなかったり、完了通知などのメールが届かなかったりした受験者やその家族は、気が気でないだろう。 筆者がこのトラブルを知ったとき、「まだ1月なのに」という疑問が頭をかすめた。グーグルは2024年2月に、メール送信者向けのガイドラインを適用する予定だったからだ。メール送信者のガイドラインとは、グーグルが2023年10月に発表した、Gmailの個人利用者に届く迷惑メールを減らすた

                波紋広がるGmailガイドライン、国内企業から相次ぐ利用者への「お願い」に感じる不安
              • 日本のPMP資格者数は世界5位、その力を生かせているのか

                「5人のボランティアが米国で始めたPMI(プロジェクト・マネジメント・インスティテュート)は世界最大のプロフェッショナル・コミュニティーになった。今なお成長を続けており、中でもアジア・パシフィック(AP)は最速の伸びを示している」 来日したPMIのソヒュン・カン アジア・パシフィック・リージョナル・マネージング・ディレクターはこう切り出した。PMIが認証した「プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)」と呼ぶ資格の保有者は全世界で160万人いて、このうち68万人がPMIの会員になっている。APの42カ国(中国とインドを除く)で見ると、PMPが14万人で会員が6万2000人だ。 APの中で最も多いのは日本で、PMPが4万4000人で会員が1万3000人。さらに1万3000人のうち、6000人はPMI日本支部という地域組織の会員にもなっている。4万4000人は中国、米国、カナダ、イン

                  日本のPMP資格者数は世界5位、その力を生かせているのか
                • 京大病院がマイナカード保険証利用に「NO」を突き付けたワケ

                  2021年3月から開始予定だった、医療機関などでマイナンバーカードを健康保険証として利用する「オンライン資格確認」。相次ぐトラブルを受け、厚生労働省は本格稼働を約半年後に延期した。だが、トラブル発覚以前から医療機関は導入に後ろ向きだった。医療機関の負担が過大なだけでなく、少なくとも現段階では医療機関側がメリットを見いだせる状況にないからだ。 「当初、京大病院では導入しないと判断した」。京都大学医学部付属病院で医療情報企画部長を務める黒田知宏教授は、こう振り返る。 黒田教授は情報科学が専門で、2001年から京大病院の情報システムを担当する。システムやネットワークに詳しく、マイナンバーカードの保険証利用について厚労省担当者らに質問するなどしてやり取りを重ねてきたが、2019年12月に「導入しない」と判断した。 受付対応が外来診療時間に終わらない 当初「NO」と判断した理由は、導入によって病院受

                    京大病院がマイナカード保険証利用に「NO」を突き付けたワケ
                  • ダイハツ不正の真因は「技術力不足」、トヨタ出身経営者が見抜けぬ訳

                    スピード開発である「時短開発」をこなし切れない開発設計部門の「技術力不足」が不正を招いた。厳しい開発日程による「時間不足」によって短期開発ができずに認証部門が不正を行ったという調査書の見方を、自動車の開発設計の経験者は否定する。(出所:日経クロステック、「ミラ イース」の写真:ダイハツ工業) 結論から言えば、ダイハツ工業が不正に手を染めた真因(問題を引き起こした本当の原因)は「技術力不足」にある。それを許したのは管理職の機能不全およびリスクに対する経営陣の機能不全だ。そして、少なくとも34年間、不正を継続し隠蔽し続けても問題にならなかったという現実が、同社の不正行為を正当化した──。これが専門家への取材を通じて得た、ダイハツ工業の不正問題の「真相」である(図1)。 改めて、第三者委員会による調査報告書(以下、報告書)の見方は表層的なものにすぎないと指摘しておく。そのわけは、社員が「本当の事

                      ダイハツ不正の真因は「技術力不足」、トヨタ出身経営者が見抜けぬ訳
                    • ランサムウエア被害のならコープ、身代金は支払わずシステム再構築に2カ月超

                      2022年10月、ならコープがランサムウエア攻撃の被害を受けた。業務システム群が暗号化され、店舗と宅配関連サービスに支障が出た。2023年1月10日時点で侵入経路の特定には至っていない。最終的に身代金は支払わず、過去のバックアップから自力でシステム復旧を目指した。とはいえ、ソースコードから再構築するなどの手間で再稼働に2カ月超を要した。 2022年10月9日早朝、生活協同組合のならコープが奈良県内で運営する10の店舗すべてで混乱が生じていた。午前9時の開店に向けて準備していたところ、POS(販売時点情報管理)レジや商品の受発注に使う端末などがネットワークに接続できなくなったのだ。店舗のスタッフは本部に連絡してトラブルが発生している旨を伝え、指示を仰いだ。 その頃、別の異変も起こっていた。複数の店舗や本部、物流センターなどでプリンターが勝手に大量の印刷を始めたのだ。そこにはランサムウエア(身

                        ランサムウエア被害のならコープ、身代金は支払わずシステム再構築に2カ月超
                      • 警察がランサムウエア被害のデータを復旧、どうやって高度な暗号化から復元したのか

                        国内におけるランサムウエア(身代金要求型ウイルス)被害が相次ぐなか、被害者救済に明るい兆しが見えてきた。警察庁がランサムウエアによって暗号化されたデータの復旧に成功したというのだ。日本経済新聞社の報道によれば、ランサムウエアの一種「LockBit(ロックビット)」の被害に遭った3社で、警察庁が暗号化されたデータを元の状態に戻すことに成功したという。 警察庁サイバー捜査課は報道内容に関する日経クロステックの取材に対して2023年1月、ランサムウエア被害組織のサイバー特別捜査隊による捜査の過程でデータの復旧に複数件成功したことを明らかにした。サイバー特別捜査隊は2022年4月に発足した、重大なサイバー攻撃への対処を担う国の捜査機関だ。 ただ、多くのランサムウエアはインターネット通信の暗号化に使うTLS/SSLで採用されるAESなど、高度な暗号化技術を利用している。暗号化を解除する鍵(復号鍵)を

                          警察がランサムウエア被害のデータを復旧、どうやって高度な暗号化から復元したのか
                        • 神奈川県公立高入試のネット出願にGmailが使えず、原因特定の難航で復旧に1カ月

                          2024年1月、約5万人が使う神奈川県のネット出願システムでトラブルが起きた。受験生がアカウント登録にGmailのアドレスを使うと、メールが届かなくなった。ネット出願システムの設定の不備で、Gmail側がスパムと判断した可能性が高い。県教委は設定を見直してトラブルが解消したとみられたが、翌週にも再発した。対応は難航し、復旧まで実に1カ月の期間を要した。 「志願者や保護者、中学校関係者らにご迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げる」――。神奈川県教育委員会の担当者は、県内の公立高校入試の出願に使う「神奈川県公立高等学校入学者選抜統合型インターネット出願システム(以下、ネット出願システム)」で2024年1月9日から継続して発生したトラブルについてこう謝罪する。 神奈川県は2024年度から公立高校入試の出願方法を、従来の紙からインターネットに切り替えた。ネット出願は各地で取り組みが広まっており

                            神奈川県公立高入試のネット出願にGmailが使えず、原因特定の難航で復旧に1カ月
                          • 「取得したいIT資格」は登録セキスペが1位、AWSの6連覇ならず

                            「IT資格実態調査」を2023年10月から11月にかけて、日経BPの技術系サイト「日経クロステック」で実施。編集部が選んだ50種類のIT資格について、アンケート形式で保有状況や役立ち度合い、今後の取得意向を調べた。IT資格実態調査は2017年から毎年実施しており、今回は7回目に当たる。 5年ぶりに情報処理安全確保支援士が返り咲く 今回はIT資格の取得意欲を見る。アンケートで、50種類のIT資格の中から「これから取りたいと思うIT資格」を最大3つ選んでもらった。 最も多くの回答を集めたのは「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」で、229人の回答者のうち47人が取得したいと回答した。回答者全体に占める回答率は20.5%である。第1回IT資格実態調査で回答率1位を得たが、第2回の2018年以降からは「AWS認定各種(ソリューションアーキテクトなど)」が毎年1位だった。今回、5年ぶりに1位の座

                              「取得したいIT資格」は登録セキスペが1位、AWSの6連覇ならず
                            • 「こんな受講者は嫌だ」、自動車ソフト技術者のリスキリング講師に聞く

                              無邪気に宣言するのはいいけれど、本当にできるのか――。自動車業界で活発化するリスキリング(学び直し)の動き。自動車メーカーや部品メーカーは機械(メカ)技術者をソフトウエア技術者へと転身させる計画を次々に打ち出す。研修プログラムをこなすことで、時代が求めるスキルを手に入れられるらしい。 メーカー側は「できる」と言う。なぜならソフト技術者を増やすための研修を用意したから。「とりあえず受けて」と上司から指示されてこなす研修に身が入らない筆者は、どうしても疑ってしまう。実態を知りたくて、リスキリングの研修を提供する側を取材してみることにした。 話を聞いたのはAKKODiSコンサルティング(東京・港)。リスキリング研修のサービスなどを提供する企業で、自動車メーカーや部品メーカーにも顧客が多い。公表しているところでは、デンソーの転身プログラムを支援する。 AKKODiSコンサルティング常務執行役員兼最

                                「こんな受講者は嫌だ」、自動車ソフト技術者のリスキリング講師に聞く
                              • 三菱電機と富士フイルムHDに聞く、サイバー攻撃被害の教訓とその後の対策

                                従来の境界型防御は、最新の攻撃手法には無力だった――。サイバー攻撃の被害企業は、事件を転機にセキュリティー対策を大きく転換させた。被害企業が得た苦い教訓とその後の対策は、多くの企業にとって参考になる。 「セキュリティー対策は常に進化させる必要があると痛感した」。三菱電機の三谷英一郎常務執行役CIO(最高情報責任者)は、4年前の2019年にサイバー攻撃の被害に遭った教訓をこう語る。 同社は2020年1月、不正アクセスの被害を受けたと発表した。防衛省による2021年12月の発表によれば、三菱電機から流出したファイルの中には、防衛に関連するものが2万件あり、その中には安全保障に影響を及ぼす恐れのあるファイルが59件含まれていたとする。 攻撃者は2019年3月、ウイルス対策ソフトなどの脆弱性を突いて三菱電機の中国拠点に侵入し、その後に日本拠点にも侵入するなど不正アクセスの範囲を広げていった。「(当

                                  三菱電機と富士フイルムHDに聞く、サイバー攻撃被害の教訓とその後の対策
                                • 10年前からプロジェクトの成功率がさっぱり上がらない理由

                                  「近年のシステム作りについて、10年前と比較して成功の割合は上がっていると思われますか?」 こういう質問を2023年11月12日、受けた。「PMI Japan Festa 2023」という講演会で50分ほど話をした際、オンラインで聴講された方が書き込んだ質問だ。時間の関係で当日は2つの質問に答えただけで終わってしまった。後ほど事務局がすべての質問をまとめたファイルを送ってくれたので、回答文を書き込んで事務局に送り返した。 冒頭の質問には次のように答えた。 「あくまでも勘ですが、プロジェクトの成功率は変わっていないのでは。つまりさほど高くはないということです。成功の定義にもよりますが。システム作りのテクノロジーがこれだけ進歩したにもかかわらず成功率が上がらないのは積み重ねがないからだと考えています。そのつど最新の開発手法に飛びつきますが、それ以前の経験や知見やハウツーが引き継がれず、同じよう

                                    10年前からプロジェクトの成功率がさっぱり上がらない理由
                                  • AI同士が対話して高度なマルウエアをつくり出す、「自律型エージェント」の脅威

                                    前回は特殊な指示を与えるなどの方法で想定外の挙動を引き起こす「異常系アプローチ」について詳しく見た。異常系アプローチは攻撃者にとって実施のハードルが比較的低い一方で、防御側も対策を講じやすい。 これに対し、対策を打ちにくい脅威が「正常系アプローチ」である。特別な指示を使わず、質問の手法を工夫することによってガードレールを迂回する。具体的には、悪意を伏せた質問で「ChatGPT」に「気付かせず」に回答させる。筆者は3つの手口に分類する。 悪意を伏せて気付かせない 1つ目は「タスクの細分化」である。不適切な質問でも、小さな要素に分解すれば悪意は薄れる。要件を細かなタスクに分解し、各タスクに対応する質問を1つずつ答えさせることで目的を達成する。 2つ目は悪意が伝わる表現を言い換える「表現のステルス化」だ。例えば「ランサムウエア」ではなく「ファイルを暗号化するプログラム」と言い換えて悪意を隠蔽する

                                      AI同士が対話して高度なマルウエアをつくり出す、「自律型エージェント」の脅威
                                    • 「EVシフト」幻想を疑え、欧州や中国すらHEVを認めている現実

                                      2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の達成に向けて、電気自動車(EV)シフトの必要性が叫ばれている。Touson自動車戦略研究所代表で自動車・環境技術戦略アナリストの藤村俊夫氏は、「EV1本に絞ることは危険。重要なのは、グリーン電力の拡大とグリーン燃料の早期開発・導入による既存車も含めた二酸化炭素排出量(CO2)の削減だ」と説く。業界の壁を越えて、求められている対策は何か。「日経クロステック ラーニング」で「2030年目標必達、政府と産業界が採るべき脱炭素戦略」の講師を務める藤村氏に聞いた。 欧州を中心に電気自動車(EV)シフトの機運が高まっています。 藤村氏:本当にEVシフトの機運が高まっているのか疑問だ。 まずはメディアの報道を真に受けないほうがいいと忠告しておきたい。十分な理解もないまま欧州メーカーの表明をうのみにし、EVが世界的に売れているとあおっているよ

                                        「EVシフト」幻想を疑え、欧州や中国すらHEVを認めている現実
                                      • ランサムウエア被害の大阪の病院、初動から全面復旧まで2カ月間の全貌

                                        大阪急性期・総合医療センターは2022年10月、ランサムウエア攻撃の被害に遭った。電子カルテなどが暗号化され、外来診療や各種検査の停止を余儀なくされた。ランサムウエアの侵入口は給食委託事業者のVPN装置だった。攻撃者はパスワードの辞書攻撃などを駆使し、拡散を図ったとみられる。4日前のバックアップデータは残っていたが、復旧には2カ月を要した。 「電子カルテが動かない」。2022年10月31日午前6時38分ごろ、大阪急性期・総合医療センターでは、入院患者を診る病棟担当の看護師などからこのような声が相次いだ。原因はランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃だった。電子カルテシステムをはじめとした院内システムのデータが暗号化されてしまった。 大阪急性期・総合医療センターは病床数が800超に及ぶ大型病院である。地域の医療を支える重要な役割を担うが、ランサムウエア攻撃の被害で外来診療や各種検査、救急患

                                          ランサムウエア被害の大阪の病院、初動から全面復旧まで2カ月間の全貌
                                        • 「プロマネは絶対に技術者でなければダメだ」、この妄想がDXを失敗させる元凶だぞ

                                          「プロジェクトマネジャー(プロマネ)は絶対に技術者でなければダメだ」と言い張る技術者が多くて困る――。これは私の前々からの認識だ。何で絶対に技術者でなければダメなのか、もう意味が分からない。最近はそんな「信念」を抱く技術者は少なくなったのではと思っていたが、そうでもないらしい。ついこの間もX(旧Twitter)でつぶやいたら、反発の声が随分寄せられた。本当に相変わらずだな。 プロマネは絶対に技術者でないとダメと言う技術者は、なぜそんな妄想に陥ってしまうのだろうか。「システム開発プロジェクトなのだから、そのマネジメントは技術者しか務まらない」と思っているのだろうか。それとも、いずれ自分がプロマネになりたいと思っているので「よそ者」にそのポジションを取られるのが我慢ならないのか。あるいは、システム開発の現場を知らない連中があれこれ指図するのは勘弁してほしいということなのかもしれないな。 そんな

                                            「プロマネは絶対に技術者でなければダメだ」、この妄想がDXを失敗させる元凶だぞ
                                          • 営業部長の罵声に負けた設計課長

                                            足を踏み外した瞬間 C社は先代社長が技術畑だったこともあり、堅実な設計に定評があった。その分、設計部門では保守的な考えが根強かった。この姿勢に不満を持っていたのが、営業部長だ。彼は「顧客の要求を全て引き受ける」ことこそがビジネスの鍵であると考え、強気の受注方針を採った。そして、それが功を奏して売り上げが拡大。営業部門の発言力は、社内でも抵抗できる者がいなくなるほど強大になっていった。 営業部門は注文を受ける前に「できるかできないか」を議論するようでは、新たな注文は取れないと考えていた。まずはどんな依頼でも受注した上で技術を開発し、顧客が望む製品を造るべきだという姿勢だった。これに対し、設計部門は高い技術力を持ってはいるが、安請け合いを極端に嫌う風土があった。 設計部門は決して技術的な挑戦から逃げているわけではなかった。営業部門からの受注可否の打診に対し、現在の技術力など客観的な状況を踏まえ

                                              営業部長の罵声に負けた設計課長
                                            • 三菱電機は不正撲滅に何が必要か?顧客を見るトヨタの開発と技術者の正当な評価

                                              品質不正(以下、不正)の真因(問題を引き起こした本当の原因)は、設計目標値のいいかげんな決め方にある。そして、その設計目標値をクリアできない技術開発力の低さが性能不足を生んだ。にもかかわらず、出荷して収益を確保したいという設計部(工場)の思惑が、不正の動機となった──。 日経クロステックの既報の通り、これが取材から導き出された三菱電機による不正の真因と動機だ。同社の不正を調査した外部調査委員会の調査報告書(以下、報告書)はこの点について一切触れていない。不正の再発を防止したいのであれば、三菱電機はこの真因から決して目を背けてはならない。 では、不正の再発を防ぐために、具体的にはどのような手を打てばよいのか(図1)。 その設計目標値に「根拠」はあるか 開発設計の専門家が指摘するのは、妥当性のある設計目標値を設定することだ。例えば、三菱電機の業務用エアコンの開発設計では、新モデルを企画する際に

                                                三菱電機は不正撲滅に何が必要か?顧客を見るトヨタの開発と技術者の正当な評価
                                              • 出荷を死守せよと言われ、追い詰められた品質保証の課長

                                                ジェムコ日本経営 本部長コンサルタント、経営学修士(MBA)、大阪産業大学 経営学部商学科 非常勤講師 足を踏み外した瞬間 有り余る人員を確保している工場は、恐らく少数だろう。現実には人員をなかなか確保できず、ぎりぎりの状態で生産を行っている工場が多い。そうした工場では病欠や出張などで誰かが不在になると、たちまち業務が回らなくなってしまう。さらに言えば、作業者は常に過負荷になっていて有給休暇を取ることもかなわず、モチベーションの低下や退職者の増加など、悩ましい問題を抱えているものだ。 D社の工場も例に漏れず、ぎりぎりの人員で生産活動を続けていた。特に出荷検査を担当している品質保証課では、検査員の人数が生産計画から算出される必要人員よりも1人少なかった。検査員の誰か1人でも欠勤すると、出荷検査が間に合わなくなってしまう。そのため、検査員の資格を持った課長や部長が欠勤者の穴埋めをすることが半ば

                                                  出荷を死守せよと言われ、追い詰められた品質保証の課長
                                                • 通常業務を2年間免除、ダイキンは企業内大学で「Π型人材」を徹底育成

                                                  「DX銘柄2023」の1社であるダイキン工業は、新入社員をDX(デジタルトランスフォーメーション)人材に育て上げることに心血を注いでいる。対象の社員には、2年間通常業務を受け持たせず、AI(人工知能)の基礎知識や活用法を勉強させるほどの徹底ぶりだ。 人材育成を担うのは、ダイキン工業の企業内大学「ダイキン情報技術大学」。2017年12月に設立し、2018年4月には新入社員100人を受け入れた。2023年4月時点で累計390人の卒業生を送り出している。 これほど大規模な新人教育に踏み切った背景には、危機意識があった。ダイキン情報技術大学設立当初、空調の組み込みシステムや基幹システムを担当する人材はいたものの、情報系の技術者は全従業員の1%ほど。「DX人材の争奪戦は激しく、中途採用も難しい」と、ダイキン工業の下津直武テクノロジー・イノベーションセンターデータ活用推進グループ主任技師は当時を振り返

                                                    通常業務を2年間免除、ダイキンは企業内大学で「Π型人材」を徹底育成
                                                  • 成果物を出せずに「報酬ゼロ」の例も、準委任契約に「成果完成型」

                                                    契約が途中で解除された場合に、報酬をどれだけ得られるのかは、多くの受注者にとって気になる問題だ。民法には、発注者が受けた利益の割合に応じて部分的に報酬を支払う規定がある。ただ、発注者が利益を得なければ、報酬ゼロもあり得る。 中日本高速道路会社が発注した設計業務で、人材不足や業務難航などを理由に履行期限までに完了しない案件が、この1年ほどの間に相次いでいる。その中には、契約解除に至った例もある。トップライズ(新潟市)、日発技研(松江市)、丸栄調査設計(三重県松阪市)が手掛けた計5件の業務だ(資料1、2)。

                                                      成果物を出せずに「報酬ゼロ」の例も、準委任契約に「成果完成型」
                                                    • コードを極力いじらない開発こそ正義

                                                      「システム開発とは結局のところコーディング、と思われているようですが大間違いです」 つい先日、海外のソフト開発者と組んで仕事をしているプロフェッショナルとやり取りをした際、こう指摘された。「ソースコードを修正するには」という言い方をしたところ、「原則としてソースコードはそのまま使う。いじらない」と正されてしまった。 そのプロの説明はこうだ。今やシステムを開発することは事業や組織の開発と表裏一体である。こういう事業をやりたい、こんな組織にして動きたい、という構想がまずある。構想を支えるシステムを用意するために、世の中にあるクラウドサービスやパッケージソフトウエア、オープンソースソフトウエアなどを組み合わせ、実際に動かしてみて、必要があれば構想も含めて調整していく。これが開発である。 どうしても足りないコンポーネントを用意するためにコードを書くことはあるが、利用者の細かな要求を受け入れてクラウ

                                                        コードを極力いじらない開発こそ正義
                                                      • ソニーが挑むソフト設計工程の改善、欠陥リスクを発見する「パターン」とは

                                                        開発時間が限られる中でも、開発工程の上流から効率的に品質をつくり込むことで、ソフトウエアのQCD(品質・コスト・デリバリー)をより良くしたい――。筆者らが所属するソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(SGMO)は、この考えで設計の改善に取り組んでいる。SGMOはソニーの子会社で、ゲーム機の「PlayStation5」や愛犬ロボットの「aibo」、テレビの「ブラビア」、デジタルカメラの「α(アルファ)」「VLOGCAM」、医療機器などを製造している。それらの製品に組み込むソフトウエアの役割やQCD向上は近年ますます重要になっている。 ソフトウエア開発では実装やテストの工程で欠陥が見つかり手戻りが発生すると、QCDに悪影響を及ぼす。上流工程である設計において、後工程で顕在化するかもしれない欠陥リスクを見つけて対処しておくのが望ましい(設計の段階では後工程で欠陥が顕在化するか

                                                          ソニーが挑むソフト設計工程の改善、欠陥リスクを発見する「パターン」とは
                                                        • 「トヨタ流 勝ち残る設計」

                                                          連載趣旨 トヨタ自動車はなぜ強いのか。その理由は「トヨタ生産方式(TPS)」にあると、これまで頻繁に語られてきました。生産現場のムダ・ムラ・ムリを徹底的に追及して改善するゲンバの方法は製造業の模範となり、競合他社のみならず、他の業界までが導入する取り組みとなっています。 しかし、TPSに勝るとも劣らない、いや、それ以上に高い競争力を磨いたものがあります。それが、設計です。設計力が伴っていなければ、いくら生産現場でムダを削っても、優れた製品を形にすることはできません。 では、トヨタの設計は何が違うのでしょうか。まず、トヨタは「トヨタ車を選ぶお客様は安全と安心を購入する」と考えています。そのため、安全と安心を最優先した上で、品質と性能の目標を立てていきます。前段がなく、いきなり品質と性能の目標を立てる多くの企業とは一線を画す考えを持っていると言えるでしょう。これは、「トヨタらしさ」とは何かと、

                                                            「トヨタ流 勝ち残る設計」
                                                          • 優秀な人材はなぜ辞めるのか?退職前提での人材マネジメント

                                                            「学生に人気のコンサルタントであっても、大手企業であっても、せっかく獲得した人材が数年で辞めてしまう」――。最近は優秀な人材ほどこうした傾向が強まっていると言われています。 従来の発想のままいくら引き留めようとしてもうまくはいきません。あまり極端な方法をとると、辞めずにコツコツ働く社員をないがしろにすることにもなりかねません。いま、多くの企業の人事担当者は、こうした課題に頭を抱えています。 優秀な人はなぜ辞めるのか、辞めてどこに向かうのか――。この課題に長く取り組んできたドルビックスコンサルティングの車谷貴広氏はその理由は3つあると指摘します。彼・彼女らは、(1)自律的なキャリア選択を望み、(2)評価や処遇の公平感・納得感を求め、(3)自分が「成長する機会」を欲しています。これら3点のどれか1つでも欠けていると、業種や企業規模にかかわらず辞めてしまうというのです。 見方を変えると、この3つ

                                                              優秀な人材はなぜ辞めるのか?退職前提での人材マネジメント
                                                            • 人は間違えシステムは故障する、羽田衝突事故で専門家が語った安全の基本

                                                              2024年1月2日に羽田空港で起きた航空機衝突事故。現在、国の運輸安全委員会による事故調査が行われている。現時点で原因は明らかになっていないものの、航空業界で一般的とされる、人に依存した管制の在り方などが問題視されている。こうした中、安全学が専門の明治大学名誉教授で鉄道総合技術研究所会長の向殿政男氏は、安全を考える上では、「人間とハードウエア(システム)は協調していくべきだ」と語る。今回の航空機事故を例に、安全の基本的な考え方について同氏に聞いた。(聞き手は長場景子=日経クロステック/日経ものづくり、中山力=日経クロステック)

                                                                人は間違えシステムは故障する、羽田衝突事故で専門家が語った安全の基本
                                                              • 業績が良い会社の開発マネジメントはどのような姿か

                                                                開発戦略の視点 開発戦略は、経営・事業の目標・方針に基づいて設定した、開発機能全体の目標とその達成に向けた方針です。その立案に際しては、「製品・サービス戦略」「組織・人材戦略」「投資戦略」という視点から詳細に検討します。 「製品・サービス戦略」では、中長期的な経営目標を達成するために必要となる製品・サービスの創出計画立案に取り組んでいきます。商品・サービスロードマップの立案、技術ロードマップの立案などが、この視点に含まれます。 「組織・人材戦略」では、製品・サービス戦略の実行に適した組織の構築、有能な人材の採用・育成に向けた中長期的な計画立案に取り組んでいきます。技術人材ロードマップの立案、技術組織構築・獲得計画の立案などがこの視点に含まれます。 「投資戦略」では、製品・サービス戦略の実現において必要となる各種経営資源の適切な投入計画の立案に取り組んでいきます。研究開発投資計画の立案などが

                                                                  業績が良い会社の開発マネジメントはどのような姿か
                                                                1