その夜、僕は意気揚々と営業所へ帰還した。 総営収56,000円(税込)。 タクシーメーターには"東京タワー → 日光"の片道運賃と同じくらいの売上が記録されている。 我ながら驚異的だと思った。 営業したのはタクシー需要が少ない午前8時~午後6時にかけての10時間。 しかも、超長距離客に一度も遭遇せずにこの数字を叩き出した。 これがどれほど稀有で困難か……野球で例えるなら4打数4本塁打くらいの離れ業だろう。 僕が有頂天になるのも無理はない。 お前は途轍もないことをやってのけたぞ。 入社3カ月のド新人がやってのけたんだぞ。 頭の中ではもう一人の自分がそんなふうにはしゃいでいた。 僕は車を降りるなり喫煙所を目指した。 この快挙を誰かに言いたくてたまらなかった。 お客さんが少なくなる時間だけあって、灰皿の周りにはすでに人の輪ができている。 「おう、今日どうだった」 予想通り、いや、期待通りの挨拶が