カレーの鍋を煮込むときには、「おいしくなあれ」と唱えるんです。 某老舗カレー専門店のオーナーと話をしていたとき、彼はそう言った。唱えながら絶えず鍋中をかき混ぜ続けるという。確かに彼の作る味わいには、ソースに独特のなじみがある。一方で僕はカレーの鍋を煮込むときには、弱火にしてふたをせず、できるだけ触らずにコトコトと煮る。鍋中の油脂分は水分と乳化し、滑らかで上品なソースができあがる。 インド人シェフにカレーの作り方を教わると煮込みの際は、「オイルがセパレートしたらOKよ」と説明されることが多い。確かに仕上がりのカレーの鍋は、表面にパキッと油脂分が分離している。 この手法については、仲の良いフランス料理のシェフに話したら、キョトンとして固まってしまった。僕自身も煮込み料理は乳化を目指したいと体が動いてしまうから、いわゆるインド料理然としたカレーを作るときには意図的に油脂分の分離を目指すことになる