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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (7)

  • 恋はごみ箱 - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにわたしたちの身辺から恋の芽が完璧に摘まれた。摘まれ尽くした。ぺんぺん草も生えやしない。 恋はこのような世界にも存在する。なんなら燃え上がっている。わたしもそのような話をたくさん聞いている。しかしそれらの種は疫病の前に蒔かれ、疫病の前に息づいていたものである。恋はだいぶん原始的なものだから、フィジカルな接触が禁じられた疫病以降の世界では難産になるのだろう。 もちろん恋はプラトニックなものでもある。精神的な活動のみで完結しうるものでもある。しかしそれは相互作用をもたらさない。しばしば一方的に誰かを「応援する」「奉仕する」というようなものだ。わたしはそういうものを好きではないが、世界はそれをも恋と呼ぶので、だから疫病下の世界でも恋は発生しているのだ。たとえばガラスとアルミニウムの小さく薄く四角なデバイスを通して。 し

    恋はごみ箱 - 傘をひらいて、空を
  • セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を

    仕事の都合で別の業種の女性と幾度か会った。弊社の人間が、と彼女は言った。弊社の人間が幾人かマキノさんをお呼びしたいというので、飲み会にいらしてください。 私は出かけていった。私は知らない人にかこまれるのが嫌いではない。知らない人は意味のわからないことをするのでその意味を考えると少し楽しいし、「世の中にはいろいろな人がいる」と思うとなんだか安心する。たいていはその場かぎりだから気も楽だし。 彼らは声と身振りが大きく、話しぶりが流暢で、たいそう親しい者同士みたいな雰囲気を醸し出していた。私を連れてきた女性はあっというまにその場にすっぽりはまりこんだ。私は感心した。彼女は私とふたりのときには同僚たちに対していささかの冷淡さを感じさせる話しかたをしていた。 どちらがほんとうということもあるまい。さっとなじんで、ぱっと出る。そういうことができるのである。人に向ける顔にバリエーションがあるのだ。私は自

    セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を
    susue
    susue 2019/09/18
  • みっともなくうろたえたい - 傘をひらいて、空を

    最近彼女ができまして、と彼は言った。私はおめでとうと言って拍手をした。 私は他人が誰かと親密になった話を聞くと高揚し、その人の肩をばんばんたたいて、「いいぞもっとやれ」と言いたくなる。祝福の気持ちにしては盛りあがりすぎなので、他人の私生活に関する話が好きなだけなんじゃないかと思う。下世話なのだ。 彼はでも、と付けたした。でも、この年になるとなんだかいろいろスムーズで、ちょっとかなしくもあるんですよ。 どういう意味でしょうと訊くと、彼は言う。 彼女とは仕事の関係で知りあったんですけど、すてきな人だなって思って、連絡先を渡すじゃないですか。で、メールを出したら感じのいいメールが返ってきて、何回かやりとりして、事に誘う。桜の時期だったから、少し散歩して観たりする。また事に誘う。「あなたと一緒にいると楽しい」という意味のことを伝えて反応をみる。嫌じゃなさそうだからもうちょっと踏みこんでみる。そ

    みっともなくうろたえたい - 傘をひらいて、空を
    susue
    susue 2014/08/30
  • 十五歳までにしておくべきこと - 傘をひらいて、空を

    私が中学生だったころ、誰かとつきあっている女の子は、ときどき自転車に乗らずに学校に来ていた。男の子の自転車の後ろに乗せてもらって帰るためだ。彼女たちは少しはずかしそうに、でもどこか誇らしげに、幼い「彼氏」の肩に手をかけて河川敷を走っていった。ときどきどちらかが何か言い、ふたりで笑っていた。何を話しているのかな、と私は思った。とってもうれしそうだ。私もいつかああいうことをするのかしら。 十九になったとき、仲の良かった男の子が川の近くに住んでいた。私は彼に訊いた。自転車もってる、あのね、自転車の後ろに乗せてほしいの、そういうのやってみたかったの。 彼は親切な男の子だったので、もちろんそうしてくれた。春の終わりの晴れた日の、風の弱いきれいな昼下がりに。でもそれはただの二人乗りだった。その日はただの春の日で、私たちがしたことはただのデートだった。 私はありがとうと言った。私はかなしかった。私はもう

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    susue
    susue 2013/10/30
  • 被初恋の人 - 傘をひらいて、空を

    あんまり知らない人から、それもちょっと悪くない感じの人から好きですって言われたら、マキノどう思う。彼がそう訊くので私は少し考える。どうって、相手によるけど、嬉しいかな。でも相手のことよく知らないんだよね、それならまずはお話をしなくてはね。事に行きましょうと言うよ。あるいはお茶、お酒など。 僕もそう思った、と彼は言った。でもずいぶん勝手が違ったんだ。それからなぜか携帯電話を一度手に取り、操作せず鞄に戻し、話しはじめた。 彼はよく知らない女性から好きですと言われ、持ち帰って検討した。まずは話そうと思って受けとった電話番号にかけると、彼女は出なかった。折り返しもなかった。半月ばかり経ってから突然電話があった。ごめん仕事が忙しくて、と彼女は言った。それで、なんの用だったの? あなたが僕に用事があると思って、と彼は言った。だからかけたんだ。そうなんだ、と彼女は言った。彼らは少しのあいだ沈黙した。彼

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    susue
    susue 2011/08/17
  • 間がもたないデートと精神的な内臓 - 傘をひらいて、空を

    私が電話に出るなり、あのさ、彼氏とどんな会話する、と彼は訊いた。彼氏によると私はこたえた。相手によって話題は変わる、友だちと何しゃべってんのって訊くのと同じで、具体的な内容を答えられる質問じゃないね。 めんどくせえ女だなあ、今までの誰かひとり適当に見繕って答えてくれってことだよ、空気読め、と彼は言った。なんで私があなたの吐いた空気を読む義務があるのと私は訊いた。彼は楽しそうに笑った。彼は会話の中で軽くやりこめられるのが好きだ。 私は携帯電話を耳に当てたままベッドに寝そべって話す。まずは好きって言うよね。そんなん一秒で終わるだろと彼は言う。二文字じゃん。わかってないなと私は言う。好きにもいろいろバリエーションがあるの。褒めるとか。人によってはなに着ててもまずは褒めてくれる。なにも着てなくても褒める。どうかすると電話に出ただけで「相変わらずかわいいねえ、声がとても」とか言う。 狂ってると彼は言

    間がもたないデートと精神的な内臓 - 傘をひらいて、空を
    susue
    susue 2010/07/18
  • 新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を

    友だちの家のPCの動作がおかしいというので見にいった。だいぶ古くて起動に十分もかかる状態だったので、さしあたり彼女が必要としているDVDの再生ができるようにクリーンインストールすることにした。 彼女の仕事用の携帯電話が鳴り、彼女は私にことわって出た。はい、いつもお世話になっております。いえいえ、はい、なるほど、担当がそのようなことを申しましたか。 彼女は五分ほど電話で話しつづけた。ほとんどは相槌だった。いろいろな種類の、さまざまな重さの、一定以上の温度を保った相槌だ。彼女はそのあと、仕事にしてはいささか親しげに短く笑って、いいえ、いいんですよ、と言ってから電話を切った。 私はBIOSを確認し、それを覗いた彼女はなんだか怖そうな画面、とつぶやく。怖くないよ、これはWindowsの下に入っているソフトなんだよと私は説明する。 ディスクがかりかりと音をたてて書きこみをはじめる。私は彼女の出してく

    新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を
    susue
    susue 2010/06/27
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