疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにわたしたちの身辺から恋の芽が完璧に摘まれた。摘まれ尽くした。ぺんぺん草も生えやしない。 恋はこのような世界にも存在する。なんなら燃え上がっている。わたしもそのような話をたくさん聞いている。しかしそれらの種は疫病の前に蒔かれ、疫病の前に息づいていたものである。恋はだいぶん原始的なものだから、フィジカルな接触が禁じられた疫病以降の世界では難産になるのだろう。 もちろん恋はプラトニックなものでもある。精神的な活動のみで完結しうるものでもある。しかしそれは相互作用をもたらさない。しばしば一方的に誰かを「応援する」「奉仕する」というようなものだ。わたしはそういうものを好きではないが、世界はそれをも恋と呼ぶので、だから疫病下の世界でも恋は発生しているのだ。たとえばガラスとアルミニウムの小さく薄く四角なデバイスを通して。 し