競技場にカイバル・アクバルザダ氏が現れた。目ざとく気づいたファンの間から、うねるようなざわめきと歓声が沸き起こる。立派な体格のカイバル氏は、力強い動きでひと息に馬の背に乗り、一気に駆け出す。 2020年12月初旬の金曜日、アフガニスタン北部の都市マザーリシャリーフ。カイバル氏が参加しているのは、アフガニスタン伝統の国技「ブズカシ」の試合だ。大きな試合は冬の間、金曜日の礼拝後に行われる。アフガニスタン北部の全域から集まった80人ほどの選手たちは、今、馬に乗って競技場の中央にひしめき合っている。泥とうめき声で埋め尽くされたこの中のどこかに、目指す「ボール」がある。ボールとは、頭部を切断し、内臓を抜いて縫い合わせた子牛あるいはヤギの死骸だ。 2017年3月16日、アフガニスタン、ダウラタバードで行われたブズカシの試合で、ヤギの死骸を奪い合う騎手たち。旧タリバン政権はブズカシを強制的に禁じていた。