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或ル日ノ記憶: 序 頭がおかしくなってしまった。 聡明な母に対してそう感じたことが一度だけ、ある。私... 或ル日ノ記憶: 序 頭がおかしくなってしまった。 聡明な母に対してそう感じたことが一度だけ、ある。私が中学を卒業する年の1月、高校受験を直前に控えて塾から家に帰宅すると、そこには新しい家族が待っていた。 空(そら)とすでに呼ばれていたそれは、黒い毛並みに茶色の眉が愛らしいダックスフンドだった。父が獣医であったため、飼いきれなくなった患畜の子供を育てることになったらしい。 時期もあり、最初は少し厄介くらいに思っていたが、彼が母や私の日々の生活の垢を落とす存在になるのにそう時間はかからなかった。特に母と彼の絆は、私とのそれを越えてしまったように思えた。好物の餌を与えているときの母の表情は、いつもより少し柔らくなったことを覚えている。 あまり手のかからなくなった私よりも、孫のような感覚で愛犬の面倒を見ている事が多くなるのは自然だったのか。母にとっては、もう1度子育てができることが幸福だったのかも
2018/02/25 リンク