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フランスで中上健次について考えたこと
冠詞を持たない日本語話者の僕たちは、ほかの様々な文法的な仕組みに頼ったり表現の工夫を凝らすなどし... 冠詞を持たない日本語話者の僕たちは、ほかの様々な文法的な仕組みに頼ったり表現の工夫を凝らすなどして、定性や特定性をはっきりさせようとする。たとえば、総称的に物語概念を語りたいのであれば、「物語というもの」という言い方をすればいい。さらに、それが新奇なコンセプトであるのだとすれば、「物語」や〈物語〉のように括弧でくくってみたり、いっそ「ナラティブ」のような外来語に置きかえてみたり、そのようなふりがなを従来の語に当ててみたりすることもできる。そうして言葉遣いになんらかの新鮮味を与えることで、いつもとは違う話をしていることを示すことができる。少なくとも外見上は新奇な話をしているつもりでいることができる。あるいはその反対に、わからないのにわかったつもりでいることができる。ところが、中上は基本的にそのような工夫の手続きは踏まない。ただ、物語を物語としてのみ語り、その曖昧さゆえの揺れ幅を思考のバネにす