今回は,とくに学生や若い研究者のために,自らが取り組む研究の「内容」や「感動」を伝える基本的な技術を伝えたい。参考にするのは,有名なふたつの言葉である。 「風が吹けば桶屋がもうかる」―内容を伝える 一見,関係のないところに因果関係があることを示す言葉である。風が吹けば砂が舞い上がり,砂が目に入り,目が悪くなる人が増え,そのため三味線弾きで生計を立てる人が増え,三味線が売れる。三味線には猫の皮が必要だから猫が捕られ,それによってネズミが増え,桶がかじられる・・。したがって,風が吹けば桶屋がもうかる。 この文章の特徴は,風が吹けばという始まりから,桶屋がもうかるという結論まで,多くの段階を経て理解がつながることである。科学の内容を,初歩的部分であれ研究者と同じように「理解」してほしいと願うと,説明はどうしても多くの事実を積み重ねざるを得ない。研究者の卵を教育する教科書はまさに,このように書かれ