前回お話しした日本型雇用システムは、前近代社会に由来する日本の伝統的な文化や価値観を継承したものだという説明が多くされています。はっきり申し上げますが、それは間違いです。もちろん、いかなる社会も過去を背負っていますから、伝統文化と全く無関係ではありません。しかし、近代工業分野の労務管理に関する限り、それは20世紀初頭から第1次大戦前後にかけて大企業を中心に成立し、その後戦時体制下で法制によって中小企業にも拡大され、さらに第二次大戦直後急進的な労働運動によって再確立し、最終的に1950年代に経営側が修正を加えることで完成に至ったシステムなのです。 始めに、皆さんがびっくりするような知識を披露しましょう。20世紀の初め頃、日本で工業化が軌道に乗りだした頃、日本の労働市場の特徴はその高い異動率でした。当時は熟練労働者になるためには一つの工場に居着いていてはダメで、腕のいい労働者ほど工場から工場へ