わたしが恋人のことを好きなのは、彼があたらしい子どもを作ろうとせず、働くことが好きではなく、それでも秩序をもって生活しようと努めているからです。 彼は、帰ってくるとまず上着をコート掛けにかけて、きちんとブラシをかけます。スーツを脱いで、所定の位置のハンガーにかけます。ワイシャツとマスクと靴下は洗濯籠へ。部屋着に着替えたあと、手を洗います。厚労省の手の洗い方。どんなに疲れている日でもそうします。 丁寧な生活をするのは、生きるのが好きだからでしょうか。彼はよく、白くてつるんとした琺瑯のポットでお湯を沸かして、紅茶を淹れてくれます。わたしは、紅茶のことが好きなふりをして「紅茶飲むのって好き」って言います。でも、ほんとうはそうじゃない。形のいい琺瑯のポットに水を入れて、コンロに置いて、火をつけてあたためて、そのあいだに茶葉を選んで、湯気の立つ透明な湯を細いきれいな形の口からガラスのポットに注ぐ、砂