ブックマーク / hatekamome.hatenablog.com (26)

  • 『女たちの沈黙』 - かもめもかも

    女たちの沈黙 作者:パット バーカー 早川書房 Amazon 10年にわたったトロイア戦争の最後の年。 トロイアの近隣都市リュルネソスが、ギリシア連合軍によって滅ぼされた。 目の前で夫や弟たちや同胞を殺されたリュルネソスの王妃ブリセイスは、囚われて奴隷となる。 彼女の主となったのは、まさに彼女の目の前で虐殺劇を繰り広げた、ギリシア軍の英雄アキレウスだった。 予想に反してアキレウスは床の中では残忍では無かったが、ブリセイスは最初の晩、自分の中のなにかが死んだことに気づく。 すさまじく過酷で恐怖に満たされた最初の数日をなんとかやり過ごし、これからは自分と同じように「戦利品」として囚われた他の女たちと共に、新たな日常を築いていくのだと考えていた矢先、ことは起こった。 ギリシア軍の総大将アガメムノンが、アキレウスに思い知らせるために、ブリセイスを無理やり自分のものにしてしまったのだ。 怒ったアキレ

    『女たちの沈黙』 - かもめもかも
  • 『目で見ることばで話をさせて』 - かもめもかも

    目で見ることばで話をさせて 作者:アン・クレア・レゾット 岩波書店 Amazon 無音。耳が聞こえない人のことをよく知らない、耳が聞こえる人は、そう思うにちがいない。わたしたちの生活は静寂に包まれているって。でも、ちがう。気持ちも心も元気で楽しいときに、わくわくしながら前を向いていると、ちっとも静かなに感じない。楽しいとき、わたしの心はハチのようにブンブンにぎやかだ。つらいときだけは、なにも感じず悲しみでいっぱいだから何の音もしなくなる。ちょうど今みたいに、母さんとふたりきりで家にいるときは。 主人公は11歳の少女メアリー。 彼女は耳が聞こえないが、そのことを特に苦にしている様子はない。 苦しんでいるのは別のこと。 彼女の目の前で、兄のジョージが事故で死んでしまって以来、信仰について、母や身近なあの人この人について、いろんなものや人の見え方が変わってきてしまったのだ。 元々彼女は結構おしゃ

    『目で見ることばで話をさせて』 - かもめもかも
    oljikotoushi
    oljikotoushi 2022/08/04
    スリルもサスペンスもたっぷりなんですね!気になるので読んでみたいです!
  • 『住所,不定』 - かもめもかも

    住所,不定 (STAMP BOOKS) 作者:スーザン・ニールセン 岩波書店 Amazon 主人公はもうすぐ13歳になる少年フィーリックス。 彼はママと呼ばれたくない母親アストリッドと二人でバンクーバーで暮らしている。 バンクーバーのどのあたりか…、○×の近くとか、誰それの家のそば…などと説明するのは難しい。 なぜって、寝る場所はその日によって違うから。 二人が暮らしているのはキャンピングカーの中で、公園の駐車場や、人気が無くなった夜の工事現場など、その日によって落ち着き先は変わるというわけ。 スマホの充電ができるコンセントがあれば助かるし、近くにトイレがある方がいいに決まっているが、そうそうラッキーなことばかりは続かない。 もちろんこれは一時的なこと。 ずっとこんな暮らしをしていくつもりはなかった。 アストリッドの仕事が見つかるまで、どこか手頃な家賃のアパートが借りられるまで…。 けれど

    『住所,不定』 - かもめもかも
  • 『血を分けた子ども』 - かもめもかも

    血を分けた子ども 作者:オクテイヴィア・E・バトラー 河出書房新社 Amazon トリクは人間の男に卵を産みつける。 男は自分の体内でトリクの卵を温め育て、やがて出産する。 一方人間の子どもは、人間が地球で生活していたときと同じように女の腹から生まれ出る。 男女が共に出産を体験するようになると、互いのジェンダー観は変わるのだろうか? そんなことを考えながら読んだ表題作「血を分けた子ども」は、1984年度にネビュラ賞、1985年度にはヒューゴー賞とローカス賞ノヴェレット部門を受賞している作品だというのだが、それから長い年月を経た現代においても、十分にみずみずしく新鮮な驚きを与えてくれる。 謎の伝染病が原因で、人間は言葉を失い、コミュニケーション能力が著しく低下した世界。 社会は荒廃し、人々が互いに憎しみ合う、そんな社会に希望はあるのか…。 1984年にヒューゴー賞の最優秀短編部門を受賞した「

    『血を分けた子ども』 - かもめもかも
  • 『嵐の守り手』ついに完結! - かもめもかも

    “アイルランド出身の作者がアイルランドを舞台に、アイルランド神話をモチーフに書いたアイルランドファンタジー” 嵐の守り手 1.闇の目覚め 作者:キャサリン・ドイル 評論社 Amazon 『嵐の守り手1.闇の目覚め』 両親の故郷であるアランモア島を訪れたフィオンは、父方の祖父が、キャンドルに「天候」を閉じこめ、それを燃やすことで過去と現在を行き来する能力を持つ<嵐の守り手>であることや、自分がその後継者であることを知った。 そしてまた<嵐の守り手>が代々、アイルランドのアランモア島地下に眠る闇の勢力を抑える役目を果たしてきたことも。 <闇の女王>魔導士モリガンが、まもなく目覚めようとしていることも。 嵐の守り手 2.試練のとき 作者:キャサリン・ドイル 評論社 Amazon 『嵐の守り手2.試練のとき』 <嵐の守り手>の後継者であるはずのフィオンは、魔法が使いこなすことができなかった。いずれ

    『嵐の守り手』ついに完結! - かもめもかも
  • 『他者の苦痛へのまなざし』 - かもめもかも

    他者の苦痛へのまなざし 作者:スーザン ソンタグ みすず書房 Amazon 原題は“Regarding the Pain of Others”。 2003年2月にアメリカで出版され、同年7月に早くも日語翻訳版が出版されたことでも話題になっただった。 とはいえ私がこのを最後まで読み通したのは、今回が初めて。 このが出た当時、確かに一度は手に取ったことがあったと思うのだが、あの頃はまだヴァージニア・ウルフのことも名前だけしか知らず、書の冒頭で長々と引き合いに出されている 『三ギニー』も読んだことがなかった。 そしてまたなによりもソンタグが、NATOによるセルビア空爆を積極的に支持していることがネックになって、読み進めることができなかったと記憶している。 もちろんそうしたソンタグの姿勢は、当時の世論の中でも特別なものではなく、むしろ圧倒的多数の知識人たちが同じような立場であったわけだけ

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  • 『パープル・ハイビスカス』 - かもめもかも

    パープル・ハイビスカス 作者:チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 河出書房新社 Amazon アディーチェのデビュー作がついに翻訳された。 特別お気に入りの作品に巡り会ったあとに、その作家の昔の作品を読むと、ちょっと見劣りしてしまって…ということは、仕方が無いことだとはいえ時々ある。 でもことアディーチェに関してはその心配は無用だった。 語り手である少女カンビリの回想という形で進んでいくのは、イギリス人宣教師の下で教育を受け、原理主義的なカトリック教徒となった裕福な実業家を家父長とする家族の崩壊の物語だ。 もっともこれを単なる崩壊で終わらせないところが、アディーチェのアディーチェらしさではあるのだが、読んでいてとてもつらい物語であることは確かだ。 カンビリと兄のジャジャと兄妹の母を苦しめる父親のユジーンは、いくつもの品工場を持つ裕福な実業家というだけでなく、ナイジェリアの民主主義擁護し、

    『パープル・ハイビスカス』 - かもめもかも
  • 『あの図書館の彼女たち』 - かもめもかも

    あの図書館の彼女たち 作者:ジャネット・スケスリン・チャールズ 東京創元社 Amazon ナチス占領下にあったパリのアメリカ図書館の状況など、実在の人物や史実を下敷きにして語られるフィクション。 物語の舞台は1939年~40年代のフランス・パリと1980年代のアメリカ・モンタナ州のフロイド。 二つの時代、二つの街をつなぐのは、オディールという女性だ。 1939年のパリ。 オディールは警察署長の父の反対を押し切って、パリのアメリカ図書館に司書として就職する。 娘が結婚して安定した生活を送ることを親が望んでいることは十分承知していたが、オディール自身は安定のためには、自立と自活は必要だと考えているのだった。 彼女の良き理解者は双子の片割れレミー。 もっともオディールの方は、弁護士養成学校を中退して軍隊に志願したレミーの決意を応援できずにいたのだが…。 図書館で共に働く仲間たちや、個性豊かな利用

    『あの図書館の彼女たち』 - かもめもかも
  • 『サリー・ジョーンズの伝説』 - かもめもかも

    サリー・ジョーンズの伝説 (世界傑作童話シリーズ) 作者:ヤコブ・ヴェゲリウス 株式会社 福音館書店 Amazon 物語は今から100年前、熱帯の嵐の夜にはじまる。曽野と、アフリカの熱帯雨林の奥深くでゴリラの女の子が生まれた。月はもちろん、星ひとつまたたかない真っ暗な夜のことだった。それゆえ村の長老は、生まれた子が数々の不幸にみまわれるだろうと、予言した。 こんな書き出しで始まるのは、スウェーデンの作家がゴリラの半生を描いた絵だ。 お母さんの背中におぶさって移動していたほど幼いころに、密猟者によってとらえられ、競りにかけられたその子は、トルコの象牙商人に買われるのだが、関税の支払いをけちったその商人は、その子を乳母車にいれ、生まれたばかりの赤ん坊に見せかけてヨーロッパ行きの客船に乗せたのだった。 偽造パスポートにはジャングルで行方不明になったアイルランド人宣教師夫婦の娘、サリー・ジョーン

    『サリー・ジョーンズの伝説』 - かもめもかも
  • 『山羊と水葬』 - かもめもかも

    山羊と水葬 作者:くぼたのぞみ 書肆侃侃房 Amazon 北海道に生まれて育った偶然を「運命」と読んでいいのかどうか、わからないまま東京に移り住んで長い時間が過ぎたという著者が、三人称を用いて語るのは、北の大地で育った子ども時代、ジャズに魅せられた青春時代、アフリカに寄せる想い、詩のこと、クッツェーのこと、アディーチェのこと。 このは間違いなく、翻訳家であり、詩人であるくぼたのぞみさんのエッセイ集なのだが、読み心地はまるで一篇の長編小説のよう。 浮かんでくるのは北の大地をいきいきと駆け回るするどい観察眼をもつ女の子と、戦後の新開地の農村にあって、周囲の男尊女卑の風潮に抗って、家庭内では息子も娘も平等に育てると固く決意して信念を貫いた母の姿。 J・M・クッツェーの『少年時代』の最初の章に、少年の母親が「この家の囚人になんかならない」「わたしは自由になる」といって自転車を手に入れる話が出てく

    『山羊と水葬』 - かもめもかも
  • 『「その他の外国文学」の翻訳者』 - かもめもかも

    「その他の外国文学」の翻訳者 白水社 Amazon たとえば、図書館に行ったとしよう。 あなたがまず足を向けるのはどの棚だろうか? 私の場合、まず向かうのは新着コーナー、ここでお目当ての新刊を手に入れた後、おもむろに文学の単行が並ぶ棚へ。 図書の分類法で言えば、文学は900番台。 たいていの場合は910番台日文学を素通りして翻訳棚に向かう。 当然のことながら、翻訳棚の中で一番沢山の場所を占めているのは、930番台の英米文学なのだが、ここも素通りしてしまうことが多い。 ドイツ940・フランス950・スペイン960・イタリア970・ロシア980を横目で見ながら、向かうのは990番台のその他の諸文学。 この990番台には結構、掘り出し物が多いのだ。 その「その他の」コーナーをチェックし終えた後に、少し離れたところにある920番台の中国文学・その他の東洋文学コーナーへと向かって、中国SFや韓国

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  • 気になる3月刊行本 - かもめもかも

    とっても気になっているけれど、まだ入手できていない新刊。 正直とてもすぐには追い切れないが、いずれ御縁がありますように。 編集者とタブレット (海外文学セレクション) 作者:ポール・フルネル 東京創元社 Amazon 英詩に迷い込んだたち: 性と文学 作者:松舞,吉中孝志 小鳥遊書房 Amazon ひとりの双子 作者:ブリット ベネット 早川書房 Amazon この道の先に、いつもの赤毛 作者:アン タイラー 早川書房 Amazon 風の港 (文芸書) 作者:村山早紀 徳間書店 Amazon 悪い弁護士は死んだ 上 〈ベックストレーム警部シリーズ〉 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 悪い弁護士は死んだ 下 〈ベックストレーム警部シリーズ〉 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 春 (新潮クレスト・ブック

    気になる3月刊行本 - かもめもかも
    oljikotoushi
    oljikotoushi 2022/03/31
    どの作品も気になります!読んでみようと思います!
  • 『ふしぎなロシア人形バーバ』 - かもめもかも

    ふしぎなロシア人形バーバ (世界傑作童話シリーズ) 作者:ルース エインズワース 福音館書店 Amazon (あら、かもめ通信さん、またまたロシアのお話なの?)と思ったあなた! 実はちがうのです。 この物語を書き上げたのは、イギリスの作家ルース・エインズワースさん。 かべは白くて、やねは赤く、げんかんの右と左に、黄色いバラの植木鉢がおいてある四角いお家「バラやしき」を舞台にしたお話です。 それなら「バラやしき」はどこにあるのかって? じつをいうと「しあわせの国」にあるのです。 ふつうのひとは、そこをおとずれることはできません。 店で売れなかったおもちゃや、家のなかでどこかにいってしまったおもちゃがいく国だからです。 ここでおもちゃは、みんないっしょに、仲良く楽しくくらしているのです。 黒のえんび服をきたおじいさん、フレデリックはピアノの名人。 髪の毛と目の黒いルルは、フランスの女の人。 い

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  • 『王女に捧ぐ身辺調査: ロンドン謎解き結婚相談所』 - かもめもかも

    王女に捧ぐ身辺調査 ロンドン謎解き結婚相談所 (創元推理文庫) 作者:アリスン・モントクレア 東京創元社 Amazon 元腕利き英国諜報部員で頭脳明晰なアイリスと、鋭い観察眼と貴族の人脈を持つ戦争未亡人グウェン。 1948年、まだまだ戦争の爪痕が色濃く残るロンドンで、一見するとあらゆる面で対照的に見える二人が共同でたちあげたのはなんと結婚相談所。 それぞれのスキルを活かして調べ観察し、顧客にふさわしい相手を紹介する仕事は、順調に軌道にのるかと思われた矢先に殺人事件に巻き込まれて経営危機に!? …という事件の詳細が気になる方は、シリーズ第1作ロンドン謎解き結婚相談所を。 ロンドン謎解き結婚相談所 (創元推理文庫) 作者:アリスン・モントクレア 東京創元社 Amazon 無事に事件を解決し、あの事件をきっかけに、結婚相談所の名前は広まり、二人もちょっとした有名人に。 だからだろうか? 英国王妃

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  • 『14歳から考えたい アメリカの奴隷制度』 - かもめもかも

    14歳から考えたい アメリカの奴隷制度 (A Very Short Introduction) 作者:ヘザー・アンドレア・ウィリアムズ すばる舎 Amazon オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)の"Very Short Introductions" (VSI) は、歴史政治、宗教、哲学、科学、時事問題、ビジネス、経済、芸術、文化など、様々な分野の特定の研究領域やテーマを、専門家による分析や新しい見解を盛りこみながら平易に解説する入門書シリーズとして世界で広く知られている。 VSIのは、日でも岩波書店の「一冊でわかる」シリーズや、丸善出版の「サイエンス・パレット」として翻訳出版されているので、1つ2つ読んだことがあるという方もおられるだろう。 すばる舎の「14歳から考えたい」シリーズでもこれまでに『貧困』『優生学』『レイシズム』が翻訳出版されて

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  • 『韓国文学を旅する60章』 - かもめもかも

    韓国文学を旅する60章 (エリア・スタディーズ) 作者:波田野節子,斎藤真理子,きむ ふな 明石書店 Amazon 韓国の文学や文化に関心をもつ人に向けた、文学を手掛かりに韓国に旅立つための案内書 49人ものそうそうたる執筆陣が、古典から現代までの作家と作品について「場所」をキーワードに語りあげ、文学周辺の事情の理解を助けるコラムも収録しているといううたい文句のとおり、びっしりも字が詰まっていて、白黒ながら参考になる写真もあり、巻末の読書案内(書籍リスト)も充実している。 読み始める前は、巻頭に掲げられている地図を手がかりに、あの土地この土地と旅をする気満々だったのだが、作家の名前も地名も知らないことだらけなので、とりあえず今回は、最初からページを追って年代順に読んでいくことにした。 古典世界にはちょっと歯が立たない気がしたが、ここでも出てきた『王になった男』! やっぱりあのドラマは観てお

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  • 『あいたかったよ』 - かもめもかも

    あいたかったよ 作者:エルズビエタ,Elzbieta,ELZBIETA 朔北社 Amazon フロンフロンとミュゼット。 それが表紙のふたりの名前だ。 小川をはさんでお向かいさんのふたりは、 一日中いっしょにあそぶほどの仲良し。 たがいに「おとなになったら、けっこんしたい」と思っている。 ところがある日をさかいに、 ふたりは遊べなくなるどころか、会うことさえできなくなってしまう。 戦争がはじまったのだ。 小川のほとりにはいばらのかきねがはりめぐらされ、 フロンフロンのパパも戦場にかりだされていく。 フロンフロンはママに「どうして?」「どうして?」と問いかける。 やがて爆音がやみ、けがをしたパパが帰ってくる。 「せんそうはおわったの?」というフロンフロンの問いに対する パパのこたえは……。 単なるハッピーエンドで終わらない、 余韻ののこる絵だった。

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  • 『アリスとふたりのおかしな冒険』 - かもめもかも

    アリスとふたりのおかしな冒険 (児童書) 作者:ナターシャ・ファラント 徳間書店 Amazon 物語は11歳の少女アリスと、売れない俳優のパパ、バーニーとパパのお姉さんで画家のペイシェンスおばさんの三人が、住みなれた<さくらんぼ屋敷>を引き払う場面から始まる。 どうやら、4年前、アリスのママが病気で亡くなって以来、一家には定期的な収入がなく、代々受け継いできたこの<さくらんぼ屋敷>を手放さざるを得なくなったらしい。 もちろん、アリスはこの引っ越しに反対だったが、彼女はそんな自分の気持ちを決して口にはしなかった。というか、もともとアリスはたいして口をきかないのだ。 とはいえ、自分の気持ちをかくすことは、おそろしくへたではあったのだけれど。 チェーホフの 『桜の園』を彷彿させる冒頭のシーンの中で、アリスがひきこもりがちで、物語を読んだり書いたりしてばかりの女の子であることが紹介される。 そして

    『アリスとふたりのおかしな冒険』 - かもめもかも
  • 『火守』 - かもめもかも

    火守 (角川書店単行) 作者:劉 慈欣,池澤 春菜,西村 ツチカ KADOKAWA Amazon 人にはそれぞれ、空の上に自分だけの星がある。 その星になにかあって、光が届かなくなっなら、人は病気になってしまう。 もしも長い間、星が暗いままだったなら、命を落とす病気に。 その若者が世界の果てにある小島までやってきたのは、死に瀕した恋人の病を治すためだった。 島に火守がたった一人で暮らしている。 彼は大きなを持っていて、そのには全ての星の位置が印されているのだという。 火守なら、空に上がって星を治すことができると聞いて、若者は自分の命と引き替えに、愛する娘を助けて欲しいと願い出る。 年老いた火守は、若者の申し出を聞いて笑い、なにも死ぬことはなかろう、代わりにわしの仕事を引き継げと言うのだった。 中国SF『三体』のヒットで日でもすっかりおなじみになった劉慈欣が書いた物語を、新書サイズの

    『火守』 - かもめもかも
  • 『三十の反撃』 - かもめもかも

    三十の反撃 作者:ソン・ウォンピョン,矢島暁子訳 祥伝社 Amazon 主人公のキム・ジヘは、ソウルオリンピックが開催された1988年生まれ。 「ジヘ」は、この年に韓国で生まれた女の子に1番多い名前だ。 なにしろ同じクラスに「ジヘ」が5人いたこともあったぐらいだ。 ちょっと残念に思うこともあったが、結果的には私にぴったりの名前だった。 ときにはその無数にいるという匿名性の中に隠れられることが幸いだった。 自慢できることの多くない人生には、その方が合っている。 というのが、人の弁だ。 88万ウォン世代…… 大学を卒業しても定職に就けず、 非正規のアルバイトやインターンのわずかな収入 (88万ウォン、日円にして約8万4000円)で暮らす若者たち…の例に漏れず、 キム・ジヘは非正規職で働く30歳の独身女性だ。 半地下に暮らし、アカデミーでインターンをしながら、 大企業の正社員を夢見ている彼女

    『三十の反撃』 - かもめもかも