ウィトゲンシュタインの愛人 作者:デイヴィッド・マークソン発売日: 2020/07/17メディア: Kindle版デイヴィッド・マークソンによるこの『ウィトゲンシュタインの愛人』は、何らかの理由で地球上で最後の一人になった女性が、淡々とその生活と過去のことを記していく自伝風小説だ。「人類最後の一人系」小説とか映画ってそう謳っておきながらも誰かが出てくるものだが、本作の場合そういうことはなくずっと独り言である。 ただ、普通の自伝ではない。版元の紹介に〈アメリカ実験小説の最高到達点〉とあり*1、最高到達点かどうかは、実験小説界隈にスキーのジャンプのように明確な計測が(僕の知る限りでは)存在しているわけではないので不明なところもあるが、とにかく実験的小説であることは確かである。というのも、女性はかなりの教養と美術的素養のある人物であることがその語りからは伺えるのだけれども、何十年にも及ぶ孤独な放