最近、事件報道で「被疑者は黙秘している」という表現をよく耳にする。刑事弁護の立場から言えば、ようやく日本でも「黙秘権」の重要性が理解されるようになってきた、と思える。とは言え、黙秘権ほど重要でありながら(憲法38条から直接導かれる権利であり、刑事訴訟法311条によって具体化されている)、理解されにくく、かつ行使されにくい権利も珍しいであろう。実際、ごく数年前までは、被疑者だけではなく、弁護士の多くでさえ、黙秘権の行使は困難、というより無理であると考えており、依頼者に黙秘権行使を勧めること自体が稀だったというのが実情であろう。さらに遡れば、黙秘を勧めるような弁護活動は、真相解明を目指す捜査の妨害だとして、弁護人が露骨に非難されたこともあった(ミランダの会への攻撃)。法廷の場で、「私は依頼者に黙秘を勧めるようなことはしない」と言い放った弁護士もいた。 きわめて奇妙なことである。憲法上の権利を行