「宮さんはシナリオは二の次で絵が先の人です」。 映画『君たちはどう生きるか』の雑誌インタビュー(※1)において、スタジオジブリ・プロデューサーの鈴木敏夫は宮﨑駿についてこう語った。 その「絵」を支えているのは宮﨑駿のずば抜けた視覚的な記憶能力で、日常のやりとりや旅先の風景、幼少期の記憶、そして毎月4〜5冊読んでいるという児童文学をはじめとした読書などが、その作品づくりの糧となっているという。鈴木敏夫はそんな宮﨑監督について「誤解を恐れずに言うと、宮﨑駿という人は、空想で描かない。全部見たものです。それのコラージュというのか、組み合わせが実に鮮やか」とも語っている。 その宮﨑駿が繰り返し読んでいた作品のひとつが、民俗学者・宮本常一(1907年–1981年)の『忘れられた日本人』(1960年、初版は未來社)だった。これまで宮﨑駿作品には民俗学的なモチーフと思われるものが表出することもあったが、