真っ暗な部屋の中でディスプレイの光に恍惚としてばかりもいられないので、毎夜のようにランニングをしている。ipodを充電器から抜き取り、お気に入りのプレイリストをループ設定して、首に長いタオルを巻きつけて、かかとが履き潰された運動靴をひっかけ、夜の海へと漕ぎ出していく。最近知ったが、僕は近所でも有名な不審者らしい。前の家の奥さんが夜中に走る僕をたまたま目撃したようだ。イヤホンからかすかな爆音をもらしながらスッスハッハと足を引きずるように走る姿はさぞ珍妙だったことと思う。こんな習慣を続けていると、目が慣れてくるのか、多少の月明かりさえあれば、街灯などなくとも地面を見失うことはなくなる。住宅街を離れて田園地帯にさしかかると、その圧倒的な光景に目を奪われる。月明かりが一面の稲穂を照らし、その稲穂たちが大きな風で一斉になびく。本当に海のようだ。まるでトトロの世界風景みたいで、なんて美しいんだろう。で