外国の小説の中には、さまざまな引用句がちりばめられている。最初にそのことを知ったのは、アガサ・クリスティやエラリー・クイーンの翻訳物を読んでいるとき、カッコでくくられた中に小さな字で書いてある(訳注:ルカ伝22章9節より)といった文言からだった。注解がなければ読み過ごしてしまうような言葉に実は深い意味がこめられていたり、登場人物が突然ラテン語をしゃべり出したり。引用句というのはおもしろいものだと思った。 やがて、欧米ではその場にもっとも合った格言・名言を引用できるのが一種の教養であると考えられていることを知るようになる。自分でも原文でミステリを読むようになったころ、辞書と一緒に引用句辞典を買い、それらしい言葉が出てきたら、索引から探してみるようになった。そのうち、引用句辞典を引くのではなく、「読む」ことがおもしろくなって、気の利いた警句や、人間に対する鋭い洞察を飽きず眺めたものである。 そ