サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
GPT-4o
synodos.jp
教育データの利活用を進めるために何が重要なのか――先進的な取り組みを行う教育長へのインタビューから見える「コツ」と課題 川口俊明 教育学・教育社会学 教育 1.教育改革のトップランナー 筆者も何度か指摘してきたように、日本の教育行政はデータを活用することが「下手」である。学力調査を例に取ると、調査を行っている自治体こそ多いのだが、学力に大きな影響を与える家庭環境の情報を把握しておらず、成績がよいのはもともと社会的経済的な立地に恵まれた学校ばかりといった事態に陥りやすいのだ【注1】。断っておくが、筆者は新しく調査を行えと言いたいわけではない。わざわざ調査をしなくても、個々の自治体は学校のみならず、子どもやその家庭環境に関する情報を持っている。だからまず解決されるべきは、ほとんどの自治体で、個々のデータが相互に結びつけられること無く「死蔵」されてしまっているという問題だ。 ここで「ほとんどの」
イーロン・マスク氏がツイッターを買収し、従業員の大半を解雇したことは世界を驚かした。これによりツイッターは人の手によるツイートの調整、いわゆるキュレーションができなくなり、その結果リベラル系のニュースの流布が減ったと言われる。これは本当だろうか。また本当だとして人々はこの変化をどう思っているのだろうか。簡単な調査をしたので報告する。 結論から言うと、大量解雇の結果、確かにリベラル系のメディアの発信力が低下したと思われる。リベラル系メディアの記事のリツイート数が減る事例があり、また、人々の印象でもリベラル系が好む話題のツイートが流れてこなくなったからである。ツイッター社のキュレーションはリベラル系記事を推していたという巷間のささやきは事実のようである。 このツイート傾向の変化が好ましいか好ましくないかを尋ねると、人々の意見は半分に割れている。当然のことながら、政治的にリベラルの人は好ましくな
はじめに【注1】 2022年7月8日、参議院議員選挙の遊説中に安倍晋三元首相が凶弾に斃れた。現代日本政治を揺るがす大事件であった。安倍が担った政権は、憲政史上最長の在職期間を誇ったことからも明らかなように、安定的であった一方、2012年から始まった第二次政権は森友・加計問題などが表出したように、その強権的かつ縁故主義・恩顧主義的な統治手法が一部で「独裁」と呼ばれた。 折しも、昨今の国際社会では民主主義の後退と権威主義の台頭が叫ばれている。これに対し、日本の政治体制の権威主義化(独裁化)を指摘する声もなくはない【注2】。実際、3500人を超える専門家らが民主主義に関する多様なデータを収集・分析する多様な民主主義研究所(V-dem Institute)の自由民主主義の指標(市民の自由、法の支配、権力分立の度合いなどからなる)は第二次安倍政権以降低下した【注3】。 民主主義や権威主義といった統治
世の中には一見もっともらしく見えるが、よく考えると不思議な議論というものがしばしばある。「マイナス金利政策が導入されると、銀行は日銀に積んであるお金を引き出して貸出に回す」というのがその典型例だ。 ※上記の「通説」のどこがおかしいのか、マイナス金利での取引が実際はどのようにして広がっていくのか、ということについては下記の記事をご参照ください 信用乗数論は信用できるか――マイナス金利について考える https://synodos.jp/opinion/economy/24113/ 財政をめぐる議論にしばしば登場する「将来世代にツケを回すな」というフレーズも、これとよく似たところがある。もちろん、子や孫に借金を残すようなことをしないというのは「個人としては」大事な心掛けだが、社会全体で考えたときに、「将来世代にツケを回す」ことがはたして実行可能なのかということは、ひとまず立ち止まって冷静に考え
2022年9月8日、イギリスでは、女王エリザベス2世が逝去した。ちょうど日本では元首相の「国葬(儀)」をめぐって賛否が分かれていたため、イギリスで行われた国葬の品格と自国を比べる言説も多く見られたが、もともと民主国家においては、政治リーダーである首相と、政治権力を持たないことと引き換えに「象徴」となった君主とでは、位置づけも役割も異なる。 むしろ、その文脈ではなく、「民主社会における象徴君主」というものが、人々にどのようにイメージされ、描かれ、受容され、または物議をかもしてきたか、という文脈において、イギリスの象徴君主と日本の象徴君主を比較するほうが、本来の筋だろう。 筆者(志田)はちょうど10年前の2012年11月22日に、武蔵野美術大学で3つの映画を題材としながらこのテーマで公開座談会を行った。この内容は10年を経た2022年の今、多くの人に意義を感じてもらえる内容だと思われたため、「
コロナと気候変動は、都市空間のありかたを再考するものとなっています。コロナはオープンスペースの重要性を再認識させるものでした。また、気候変動はヒートアイランドと相まって、命の危険を伴うほどの酷暑をもたらしています。他方で、日本では都市再開発や公園の「活性化」のために、オープンスペースが変容していることが問題視されています。ネット署名サイトChange.orgには、複数の再開発反対の署名が立ち上がり、緑地・造園や環境アセスメントの研究者からも疑問の声があがっています。 本シリーズ「都市のオープンスペースはどうあるべきか」では、海外の都市の動向に詳しい研究者のお話をうかがうことで、こうした日本の現状を考えるためのヒントを得たいと思います。今回は、2022年9月、スイス在住の歴史研究者穂鷹知美さんに、ヨーロッパの視点や世界的な視座から、都市空間のありかたについてお話しいただきました(吉永明弘)。
基地問題は日本の国内問題か ―沖縄返還50年、改めて問う― 川名晋史 基地政治(Base Politics)、安全保障論 社会 #安全保障をみるプリズム 沖縄の基地問題は日本の国内問題だろうか。基地問題は米国の基地の問題なのだから、米国の問題ではないか。こう考える人も少なくないだろう。沖縄県知事や県議会も同じである。彼らは沖縄の基地問題を知ってもらうために度々、ワシントンDCに要請団を送っている。ところが、米政府や議会関係者からは、「沖縄の基地問題は日本の国内問題だ」と突き放されるという【注1】。このエピソードを耳にしたとき、それはずいぶんな話だと思ったが、よく考えると言い得て妙である。皮肉なことだが、沖縄の基地問題は今日、国内問題化してしまっている。 米国からみた日米安保条約と地位協定 そもそも基地の根拠条約となる日米安保条約は、日本が米国に基地を提供することを謳っているが、それをどこに
MMT(現代貨幣理論)はしばしば「トンデモ経済学」と評されるが、MMTを批判する側にもユニークな「トンデモ経済学」がある。その典型例のひとつは「利上げをすると国債暴落が起き、日銀のバランスシートが債務超過になる(なので、日銀は利上げができない)」というものだ。 一般に利上げをすると債券価格は下落するから(利回りは上昇)、利上げをすると国債価格に下押しの圧力が働くというところまでは正しい。だが、そこからさらに進んで、国債価格が下落して日銀のバランスシートが債務超過になるという話になると、話が途端にあやしくなる。そのために利上げができないという話になると、なおさらだ。 もっとも、日銀の「債務超過」は「国債暴落」や「ハイパーインフレ」と同様に訴求力のあるパワーワードなので、この話はさまざまな場面で繰り返し登場する。それが世の中の関心を引くためのネタの範囲にとどまっている限りにおいては面白いが、実
右足でアクセルを踏みながら、左足でブレーキをかける 東京電力福島第一原子力発電所(以下福島第一原発)事故後、子どもの甲状腺がんの増加を不安に思う福島県民の声が多く上がった。 福島県は、県民の不安を解消する目的(以下、「見守り」と呼ぶ)で、甲状腺がんやその疑いの有無を超音波機器でふるいわける検査(甲状腺がんスクリーニング。以下、甲状腺検査)を開始した。加えて県は、原発事故による放射線被ばくの子どもの甲状腺への影響を調べることを、甲状腺検査の目的として掲げた。 県民健康調査のあり方の議論および結果の分析については、これを検討する専門家会合(「県民健康調査」検討委員会。以下、検討委員会)が設置され、議論が続けられてきた。 今回、2013年から2022年まで、検討委員会の委員を務めた稲葉俊哉氏にお話を伺った。稲葉氏は、広島大学原爆放射線医科学研究所がん分子病態研究分野教授であり、専門は放射線医学、
今、政治と宗教の関係が問われている。 政権与党の政治家が、次々と特定の宗教団体との関係を明らかにした。霊感商法などの活動が問題視される団体である。野党は、これを追究していたはずだった。しかし、野党の政治家もまた、同じ宗教団体と関係を持っていたことが次々と明らかになった。政治家を批判する報道が続くものの、何が問題なのかははっきりしない。 政治家が特定の宗教団体と関係することの何が問題なのか。その本質は曖昧なままである。 過度な献金を求めるなど、反社会的な活動を行なう宗教団体をカルトと呼ぶことがある。またカルトは、宗教の初期形態を指すともいう。 宗教は、人間にとって、行動を決める考え方そのものである。 日本人の多くは特定の宗教を信仰していない。それにもかかわらず、なぜカルトは日本で力を持ち続けているのだろうか。 今考えるべきことは、特定の政治家と特定の宗教団体との特定の関係性に留まらない。日本
ロシアによるウクライナ侵攻に直面する隣国ポーランド―ドゥダ大統領の歴史認識を基礎とした対露強硬論の形成― 市川顕 EU政治 、グローバル・ガバナンス論、国際関係論 国際 #安全保障をみるプリズム 1:長期化するロシアによるウクライナ侵攻と隣国ポーランド 2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻から6か月が経過しようとしている(注1)。筆者は7月下旬にポーランドを訪問し、政府系および民間シンクタンクとの意見交換を持つ機会を得た。そこでの中心的な話題は、EUおよびEU加盟国による経済制裁を中心とした「脱ロシア化(De-RussianizationもしくはDecoupling Russia)」についてであった。この侵攻開始から、新聞報道や政府要人のスピーチなどを参照してきた身としては、第二次世界大戦でソ連とナチス・ドイツに挟まれ辛酸を舐めたポーランドにおける対露強硬姿勢について
アベノミクスは、十分な回顧や総括がなされないまま、突然の出来事によって終焉を迎えた。その大枠は岸田内閣の経済政策に引き継がれているから、アベノミクスは今も続いているということもできるが、主役のいなくなったドラマがこれまでと同じように続けられていく保証はない。円安と物価高への懸念から、金融緩和の見直しを求める声も高まっている。 一歩引いたところからアベノミクスを冷静な視点で歴史の中に位置づけるにはまだ相当の時間の経過を要するが、記憶が薄れないうちに、これまでの軌跡を時代の雰囲気とともに記録しておくことには一定の意義があるだろう。本稿ではその作業に向けたささやかな試みとして、この10年ほどの経過を振り返る。 1.2013年のアベノミクス 2012年のアベノミクス アベノミクスはいつ始まったのか。これは難しい問いだ。第二次安倍内閣が発足したのは2012年12月26日だから、アベノミクスが正式にス
思いつきや俗説でなく、データに基づいた教育格差の議論を――『教育格差の診断書 データからわかる実態と処方箋』 川口俊明 教育学・教育社会学 教育 教育格差は社会の大きな関心事だが、実態やデータを踏まえていない議論や是正案も多い。教育格差の典型例である学力格差の実態についても、全国学力テストをはじめ様々な調査が行われているものの、そもそも「どのような学力を測るのか」という基本的な部分でさえ曖昧である。 こうした問題に早くから着目していた福岡教育大学の川口俊明氏らは、児童生徒の学力調査を蓄積し、個人の変化を捉えることのできるパネルデータを作成・分析することで、教育格差の変化や要因・背景に関する様々な知見を明らかにしている。 そこで編著『教育格差の診断書』の刊行を機に、学力調査のずさんな設計やデータの死蔵といった日本の教育におけるデータ軽視の現状、変化を追跡するパネルデータの意義について川口氏に
発言を恣意的に切り取った報道 日本銀行の黒田東彦総裁がきさらぎ会での講演【注1】の中で「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言したことへの批判が広がっている。総裁は庶民の苦しみをわかっていない、総裁は買い物をしたことがあるのかといった怒りの声が上がり、黒田総裁も謝罪に追い込まれた。与野党の政治家からも批判が相次ぎ【注2】、共同通信の世論調査でも黒田総裁を不適任とする回答が6割となった【注3】。黒田総裁は猛烈なバッシングを受けている状況である。 しかし、黒田総裁がどんな文脈で値上げ許容度が高まっていると発言したのか、読者は正確にご存じだろうか。怒りに身を任せる前に、きちんと情報を確認してほしい。 きさらぎ会での黒田総裁の講演は、現在の資源高を乗り越えるには賃金上昇が必要であることを訴えたものである。黒田総裁は、資源高の下で消費者が値上げを受け入れているのだから、賃上げが必要であり、日銀は企
教師はなぜ苦しい職業になってしまったのか――給特法の矛盾に迫る 『聖職と労働のあいだ』著者、髙橋哲氏インタビュー 教育 教育現場の厳しい状況や教師たちの疲弊が報道されるようになって久しい。また昨今、教師のなり手不足も懸念されている。こうした現状の原因として指摘されるのが、教師の給与に関して定めた「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)である。本記事では新著『聖職と労働のあいだ――「教員の働き方改革」への法理論』で給特法の構造や矛盾、教師の労働条件の変遷等を論じた、埼玉大学の髙橋哲氏(教育法学)に、給特法の概要や問題、進行中の給特法を巡る教員超勤訴訟の論点を中心にお話を伺った。(聞き手・構成 大竹裕章(岩波書店)) 教師の時間外労働を認めない「給特法」 ――まず給特法とは、どういった内容の法律なのでしょうか。 給特法の要点は、公立学校の教員を対象に、労働基準法
話題の映画「君たちはまだ長いトンネルの中」の公開が始まった。反緊縮の立場から経済と社会の問題を描くこの映画の原作が刊行されたのは2019年の夏。当時は低インフレ、低金利と低成長の併存を基調とする長期停滞が現実のものと認識され、デフレへの逆戻りが大きな懸念材料となっていた。 そこからコロナ禍を経て2022年。米国では消費者物価指数の上昇率が8%を超え(40年ぶりの出来事)、各国において「物価高」が大きな社会問題となりつつある。コロナ前には「長期停滞論」を唱えていたローレンス・サマーズ元財務長官(当時はハーバード大学教授)が、昨年(2021年)春頃からインフレの高進への懸念を表明し続けてきたことは、その象徴的な出来事といえるだろう。 もっとも、物価高の様相は国によって区々だ。米国では食品とエネルギーを除いた指数でも消費者物価指数(前年同月比)が6%台となっていることからもわかるように、資源高だ
「アルジュンさんはなぜ、取り調べ中に突然死したのか?」ーー警察による制圧行為の責任を問う 丸山央里絵 公共訴訟プラットフォーム「CALL4」副代表 社会 #法と社会と自分ごとをつなぐパブ 天井に設置された監視カメラの映像が映し出すのは、留置所にある保護室だ。窓はなく、ごく狭い。その四角い箱のような空間に人がひしめき合っている。 ネパール人のアルジュンさんを警察官16人が取り囲み、執拗(しつよう)に体を押さえつけている。両手首、腰、膝、両足首を特殊な拘束具で縛られたアルジュンさんは、まともな身動きがとれずに床に転がっている。何かを必死に訴えているようにも見える。彼はその時、ネパール語の敬語を使い、このように繰り返していたことが後日の翻訳で分かっている。 「痛い、痛い、やめてください。」 「私は過ちを犯していません。誰か人間的な人はいないのか。ああ、やめてください、旦那様。」 しかし、映像の警
世界的に新型コロナの感染者数は落ち着いてきており、経済活動は再開されつつある。そのなかで、日本が大きく欧米と異なるのはマスクをつけ続けていることである。すでに政府は屋外で会話がない場合ははずしてもよいと述べ、熱中症の危険からむしろマスクをはずしてはどうかという意見もある。しかし、現状でほとんどの人がマスクをつけている。マスクはいつまで続くのだろうか。今後の見通しはどうなのだろうか。 日本ではそもそもマスクをすることは公式な義務ではなく、政府・医療者・マスコミからの推奨として出され、それにこたえる形で自主的に行われた。欧米ではマスク着用が義務であったため、義務が解除されると一斉にマスクをはずす行動が見られた。しかし、日本は自主的に行っているためマスクをつけるのも、はずすのも人々の気持ち次第である。いくら政府が屋外ではずしてもよいと言っても人々がつけたければつけ続ける。 ことの推移は人々の意識
日本の財政をめぐる議論には時としてユニークな見解が登場する。「増税をすると将来不安が消えて消費が増える」がその代表例であるが(この点については後半で詳述)、「財政ファイナンス」をめぐる議論もそれと並んで興味深いものだ。安倍元総理の「日銀は政府の子会社」という発言をうけて、このところまた財政ファイナンスという言葉をよく見かけるようになったが、その意味するところは必ずしも明らかではない。 そこで、以下では財政ファイナンスというキーワードをもとに、政府と中央銀行の関係や財政政策・金融政策の運営のあり方について考えてみたい。 1.「財政ファイナンス」と中央銀行の「独立性」 データを確認することの重要性 経済政策をめぐる議論については、それぞれの人の政治的・社会的な立場によって意見が分かれることが少なくない。財政ファイナンスをめぐる議論も2013年以降に採られてきた経済政策の枠組み、すなわちアベノミ
ターリバーンの統治下、アフガニスタン国家建設はどこへ向かうのか 青木健太 国際安全保障、現代アフガニスタン・イラン政治 国際 #安全保障をみるプリズム 1.はじめに:アフガニスタンの現状はどう位置付けられる? ニュース等でたびたび目にするように、現代の世界では、人々の生命や財産を脅かす紛争や政変に苦しむ国家が、依然数多く存在している。アフリカではソマリアやスーダン、中東ではイエメンやシリアやリビア、アジアではミャンマーなどが一例として挙げられる。これらの国々は「失敗国家(failed state)」や「脆弱国家(fragile state)」のように分類されることも多い。 「失敗」や「脆弱」といった言葉は、主権国家が治安、法の支配、福祉などあらゆるサービスを一手に提供するという国家の理念型を前提にしている。しかし、現実の世界では、そうした理念型に沿った国家建設がうまく機能しないケースをたび
UNSCEAR最終報告・福島の住民への放射線被ばくによる健康影響は見られない――明石眞言氏インタビュー 服部美咲 フリーライター インタビュー・寄稿 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)は、2021年3月9日、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「福島第一原発事故」)の影響に関する報告書(以下「2020/2021年報告」とする)を公表した。 UNSCEARは、放射線が人や環境に及ぼす影響についての重要な事項を網羅的に調べ、国連に報告する役割を持つ。科学的な報告のみを行い、他の国際機関や各国などに対する提言や勧告は行わない。(UNSCEARの報告を受けて、IAEAやWHO、ICRPなどの国際機関は各々の分野における提言や勧告をし、ガイドラインを作成する。各国はこれらを参考に政策をつくる。下図参照。) UNSCEARは、2013年に福島第一原発事故の報告書(以下「20
はじめに ロシアによるウクライナ全面侵攻から3カ月弱が経過した現在、ウクライナ軍は首都キーウに迫るロシア軍を押し返したものの、東部ドンバス地方や南部では激しい戦いが続いている。陸・海・空・宇宙に次ぐ、第五の戦場「サイバー空間」や第六の戦場「認知空間」【注1】でも、ウクライナとロシアの戦いが繰り広げられている。ロシアの「情報安全保障」という枠組みの中で「サイバー空間」「認知空間」が峻別されているかどうかは別として、これまでのところ認知空間での戦いはウクライナや米欧が明らかに優位に立つ【注2】。 日本でも情報戦への関心が高まっている。防衛省が2022年4月1日、防衛政策局調査課に「グローバル戦略情報官」を新設し、偽情報や対外発信の戦略的意図を分析するという。 そこで本稿はウクライナ戦争をもとに、情報戦・認知戦で用いられる情報の一種である「ナラティブ」および「ナラティブ優勢(narrative
1.2020年、二つの事件 一昨年、韓国で「衝撃的」と評された事件が二つ起きた。一つは、5月の二度の記者会見を通して行われた、元「慰安婦」李容洙による「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連。旧「挺対協」)および、その運動の中心にいた尹美香(同年4月、国会議員に当選)への痛烈な批判と告発だ。 もう一つは7月、当時ソウル市長だった朴元淳が20代の女性秘書へのセクハラで提訴された事件である。この事件では、セクハラもさることながら、告訴の動きが事前に朴の知るところとなり、それを朴に漏洩したのが南仁順・与党「共に民主党」議員(前女性団体連合代表)、金英淳・女性団体連合常任代表(正義連理事)、林純伶・ソウル市ジェンダー特別補佐官(南仁順の前補佐官でもあった)ら女性運動関係者だった事実が12月に公となり、韓国社会を揺るがせた。 この立て続けに起きた二つの事件は一見、別個のもののように扱わ
2022.05.12 歴史修正主義とウクライナ戦争――『歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』(中公新書) 武井彩佳(著者)ドイツ現代史、ホロコースト研究 #「新しいリベラル」を構想するために いま、ロシアによるウクライナ侵攻で、耳を疑うようなやりとりが繰り広げられている。ロシア政府を代弁する人々が、これは戦争ではなく、ウクライナをナチから解放するための軍事作戦であり、民間人の虐殺はウクライナ側による「でっちあげ」であると主張している。通りに放置された遺体も、集団埋葬地も、ウクライナ軍がロシア軍の仕業に仕立てるためにどこかからか運び込んだとさえ言う。 衛星写真やスマートフォンなどによって、世界の片隅で起こっていることが瞬時に拡散する時代に、きわめて根拠のない主張が、例えば駐日ロシア大使のような公人の口から発されている。こうした状況に私たちは絶句し、深い無力感を感じる
このところ、「物価高」が大きな社会問題となりつつある。「値上げの春」を迎え、食品や日用品の値上がりがさらに目立つようになった。生活に車が欠かせない地域では、ガソリン価格の高止まりが家計の負担に追い討ちをかけている。 こうした中、輸入物価の値上がりをうけて円安の進行に対する懸念が高まり、金利を極めて低い水準で推移させている日本銀行の金融政策を見直すべきとの声も高まっている。もっとも、食品、日用品やガソリンなどの値動きに左右されやすい「体感物価」をもとに金融政策の運営を論じてよいかとなると、判断は大きく分かれるだろう。 本稿ではこれらのことを踏まえつつ、足元の物価の動きと今後の金融政策の運営のあり方について考えてみることとしたい。 1.まだら模様の日本経済 体感物価と消費者物価指数の乖離 今後の物価の見通しを問われたら、「当面は物価上昇が続く」と答えておくのが現時点では最も無難な対応ということ
開催日時 2022年5月7日(土)14:00~15:30 講師 井上達夫 ホスト 橋本努 場所 Zoom【後日、アーカイブの視聴も可能です】 料金 1500円(税込) ※高校・大学・大学院生は無料です。 ロシアのウクライナ侵略は、独裁者プーチンの暴挙であります。かつて「絶対的な権力は絶対的に腐敗する」と指摘したのは、イギリスの自由主義者、アクトン卿(1834-1902)でした。絶対的な権力の腐敗を防ぐために、そして独裁者による戦争を防ぐために、私たちは自由民主主義の体制を、国際的な規模で頑丈(レジリエント)なものにしなければなりません。この問題を社会哲学の観点から捉えると、一つには、法治国家という場合の「法」をどのように捉えるべきか、という問題にいたります。 法は、法実証主義がいうように、実定法以外の規範を法的考察の対象から排除してよいのでしょうか。あるいは自然法の発想に従って、法を実質的
NHKスペシャル「東京ブラックホール」は、時代の転機となった年(終戦直後の1945~46年、東京オリンピックのあった1964年、バブルの1989~90年)をとりあげて、それぞれの時代について一般に広く持たれているイメージとは異なる時代の側面を見せてくれるよい番組だ。5月1日に放送された「東京ブラックホールⅢ 1989-1990」も、バブルの頃のさまざまな出来事を描いて、面白いものであった。 ただ、バブルの時期を1986年~1989年として、1990年をバブル崩壊後の時期として描くというのは、当時の実際の状況や世の中の雰囲気からすると、ややずれが生じているようにも思われる。1990年10月にはNHKスペシャル「緊急土地改革・地価は下げられる」という番組が5夜連続で放送されたが、そのサブタイトルには「土地本位制を崩せ」「(東京)一極集中の排除」といった文字が並んでいる。となると、1990年はま
はじめに 2022年2月24日に始まったロシア軍のウクライナ侵攻から約2ヶ月が経過し、戦争被害の悲惨さが連日報じられている。この間、さまざまなところで「プーチンの狙いは何か」が議論されてきた。本当の「プーチンの狙い」を知るのはプーチン自身のみであり、どのような議論も結局は推測の域を出ないものになってしまう。しかし、この小論では、次の2つを目標に定めて議論を展開することで、「プーチンの狙い」に接近していきたい。1つ目は、「プーチンの狙い」は合理的には説明できないという点を明らかにすることであり、2つ目は合理性に基づかない決定が今回の悲劇を招いているとすると、何がそのような決定をもたらしていると考えられるかを検討すること、である。 ここでの仮説は「利益」ではなく「価値」の実現こそがプーチンの目指すものではないかということである。これはあくまで仮説に過ぎない。しかし、ロシアの行動を合理的に説明で
切り札は「瞬間英作文」? ほかのスクールではどうやって「英語の話し方」を教えているのだろうか? こうした疑問をもって、某有名コーチングスクールを調べたことがあります。そこでは、スピーキングのためのトレーニングとして、「瞬間英作文」を学習者にやらせていました。ちなみに、「瞬間英作文」とは、与えられた日本語の文章を瞬時に英作文することです。 このスクールにかぎらず、「瞬間英作文」をスピーキング力向上の切り札だとするスクールは多いようです。 というよりも、スピーキングについては、「瞬間英作文」以外にはめぼしいトレーニングはあまり見当たらない、というのが実情でしょう(最近、ふたたびはやり始めた「パターンプラクティス」については、また別の記事で評価したいと思います)。 しかし、この「瞬間英作文」、ほんとうに言われるほどの効果があるのでしょうか? TOEICが900点代あり、CNNも完璧に聞き取れるの
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『SYNODOS -シノドス-』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く