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イギリスではあらゆる土地が住宅地に作り替えられ、問題も噴出している(ロンドンの家並) HENRY NICHOLLS-REUTERS <イギリスで持ち家に住む筆者に、なぜか内見希望者が相次ぎ訪れ、他人宛ての荷物が届き、役所から警告が届いたその理由とは?> 3年前くらいから、僕の家のドアをノックして、中を見せてくれと言う人々が出現しだした。彼らはどうやら、賃貸物件として僕の家に興味があるみたいだった。僕は彼らに、賃貸ではないといちいち伝えなければならなかった。 何かしていて忙しい時にかぎって、思いがけずこういうことが起こった。毎日だったわけではないが、時折あった。毎度、心の準備もないまま対応する羽目になった。 次に起こった時には、なんで僕の家が賃貸に出されていると思ったのか訪問者を問い詰めようと、僕は決意した。インターネット詐欺だったのだろうか? でも「次のチャンス」の際、僕は家の近くの石壁を
スロバキア総選挙でロベルト・フィツォ元首相(中央)率いる親ロシア派政党が第1党に RADOVAN STOKLASA-REUTERS <旅行中に偶然居合わせたスロバキア総選挙では、親ロシアを掲げる政党が第1党に。旧ソ連兵を大事にまつり、欧米に反発するスロバキアの背後にある複雑な事情とは> 僕が英デイリー・テレグラフ紙記者として働いていた時、同僚の1人が「偶然」スクープをモノにする外国特派員、との評判を確立していたのは伝説的だった。 彼はよく道に迷うことで有名で、だから例えば、赴任国の軍隊がいかに戦いを有利にすすめているかを取材してほしいとバルカン半島の前線に招待された場合に、彼なら間違って反対方向に向かってしまい、結果として重要な戦略拠点が放棄され敵国の軍隊に数日前に占拠された様子を目撃する、といった具合だ。 あるいは、戦争捕虜収容所のメディア公開(実際にはニセ捕虜を良好な条件で収容した見せ
当初は手腕を期待されたスナクだったが(9月のG20サミット) MARIA UNGER-UK PARLIAMENT-REUTERS <イギリスのスナク首相率いる与党・保守党は、幅広い有権者に受け入れられる政策を放棄して、コア支持層を熱狂させる政策に走り出した> 英首相に就任した当時、リシ・スナクは手堅い選択肢に見えた。いくつかの事態がうまく運べば、2025年1月までに行われる次回総選挙で保守党を勝利に導くチャンスを辛うじて手にしていた。 スナクは何よりもまず力強い経済回復を必要としていた。その間にジョンソン元首相の「パーティーゲート」への怒りと、トラス前首相の瞬間退陣劇の恥を、有権者に忘れてもらう算段だ。だが前任者らの失態を上書きするどころか、今のスナクはさながら先細りの政権を率いる人物に見えている。 多くの課題において、保守党は自らを「ミドル・イングランド(典型的なイギリス人)」の党たらし
<女子サッカーワールドカップで、準優勝したイングランド代表。女子サッカーの人気は高まり、発展を遂げたものの、まだ男子サッカーと比べるとあり得ないような扱いも残る> 8月20日に閉幕した女子サッカーワールドカップ(W杯)の最後に、奇妙な瞬間があった。準優勝したイングランドのゴールキーパー、メアリー・アープスがゴールデングローブ賞を受賞し、英BBCの解説者が、それでも彼女のレプリカユニフォームを買うことはできない、と今大会で何度目かの指摘をしたのだ。スポンサーのナイキは、大会中に商業的な理由からキーパーのユニフォームを発売しなかった(キーパー以外の選手のユニフォームは発売)。明らかに、男子サッカーならこれはあり得ないだろう。 イギリスでは今回、見ようと思えば女子W杯の試合は全て見られたが、ほとんどは「通常の」テレビ番組ではなくBBCやITV局のストリーミング配信。繰り返すが、男子サッカーならあ
<毎年訪れているイギリス東部ノーフォーク州ノリッジ。イメージ的にはパッとしないがなかなか味わい深いこの都市をお勧めしたいわけ> 年に数回、僕はイギリス東部ノーフォーク州のノリッジを訪れる。本当に好きな街だ。そこはエリートが住んでいない「アンチ・ロンドン」的な場所で、ファッショナブルとは無縁で、イギリス国内で最も人種的多様性に乏しい街の1つでもある。ノリッジはイギリスの「第2の都市」と言えるかもしれないが(ノリッジの資料館は敢えてそう称している)、ノリッジの外から来た人がそんなふうに言うことはないだろう。 僕だったら、個人的にはグラスゴーが「第2の都市」に当たると言う。スコットランドの首都、エディンバラを挙げることもできるかもしれない。多くの人は、「バーミンガム?」とはてなマーク付きで答えるかもしれない(人口では第2位だがあまり好かれていない都市だ)。マンチェスターを挙げる人もいるだろう。こ
手当たり次第に着た物を洗濯するのは環境に悪いしむしろ怠惰、という流れに(写真はイメージです) karenfoleyphotography-iStock <環境考慮か、コロナで働き方が変化したせいか、服を「洗わない・あまり洗わない」ことが突如トレンドになったが、僕はずっと前から実践している> どうやら僕は、流行の最先端を行っていたらしい。もう何年もの間、僕は、服を洗わないことに関して、もしくは無駄に・習慣的に服を洗わないということに関して、「哲学」を持つ(僕の知る限りで唯一の)人物だった。 でもイギリスではここ数カ月で、「no wash(洗わない)/low wash(あまり洗わない)」スタイルがむしろファッショナブルになってきたようだ。この「動向」についてさまざまなメディアで目にしたし、世間は僕がこれまでいつも言っていたような論調に帰結しているが、とはいえこの流行を支持する最近の人々は僕より
イングランドでは通報を迷う機会があまりに多く、多忙な警察の手を煩わせるのがためらわれる POOL NEW-REUTERS <「これは通報しなければ」というタイミングは、日本では明らかなのにイングランドでは一筋縄ではいかない> イングランドと日本には「明らかな」違いがある。でもどちらの国でも暮らしたことがある僕は──どちらにも精通していると自任している──細かくて予測不能な違いにとても興味を引かれる。 僕は時々、「今のこの状況に出くわしたら日本人ならどう思うだろう」と、ついつい考えてしまうことがある(例えば、知らない人が近づいてきて、電車で娘に会いに行くためにあと3ポンド足りないんです、と訴えた場合。日本人は、彼が作り話をしているだけの物乞いであって、目標の3ポンドを達成した後だって次から次へと通行人に近寄っては同じ話を繰り返していると、理解できるだろうか)。 そして日本にいるときには、「イ
<公然の秘密ながら日本の大手メディアは決して深入りしない、ジャニー喜多川の疑惑を取り上げたBBCの番組は、世界共通のエンタメ界の闇と、日本社会の問題を投げかける> 東京でイギリスの新聞の特派員をしていた頃、外国から有名ジャーナリストがなだれ込んで来ては、日本ではとっくに常識と思われるようなニュースを大々的「スクープ」として報じているのに驚かされた。日本経済はもはや世界の先頭を走っていない! 日本でもホームレスが問題化している! 日本の司法制度は過酷すぎる! そしていま加わったのが──ジャニー喜多川は連続性加害者だ! イギリスで3月7日、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』が放送された。ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川を取り上げたものだ。公平を期すために言うと、番組を担当した記者モビーン・アザーはこのスキャンダルを新事実として報じたわけではない。むし
EU残留派はコロナやウクライナ戦争の影響などそっちのけで、イギリスの苦境の原因は全てブレグジットにありと訴えている(写真は2022年10月、ロンドンで行われたEU再加盟を求める人々によるデモ) Toby Melville-REUTERS <イギリスの現在の苦境を全てブレグジットのせいにする論調があるが、これは典型的な「EU残留派」のやり口だ> 最近、とあるジャーナリストがブレグジット(イギリスのEU離脱)の悲惨さを書いた記事がたまたま送られてきた。僕はその日のほとんど、この記事の数々のおかしなところを考え込んで過ごしてしまった。 そのうちいくつか、例えば今のイギリスよりも、ロシアの侵攻を受けているウクライナのほうがよほど仕事をしやすい環境だった、などといった奇妙な記述は独特のもので、他にも例えば、今のイギリスでは(サプライチェーンの問題で)ジャガイモも卵もひどく不足しているなどといった奇抜
<低賃金でつらい「3K」の仕事はもちろん小売業や接客も不人気。人手不足の要因には、大学や専門学校を出たあまりに多くの若者たちが仕事を選り好みしていることが挙げられる> いまイギリスには、多くの問題がある。なかでも大きいのが、労働力不足と若者の高い失業率だ。この2つを組み合わせれば同時に解決するように思えるが(不足している労働力を、職に就いていない若者が埋めればいい)、物事はそれほどシンプルではない。若者が人手不足の分野の仕事をできないか、やりたがらないからだ。 労働力不足を声高に訴えているのは、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に反対していた人々だ。「ほら、言った通りじゃないか! ブレグジットでEU域内の移動の自由がなくなって移民が減ったために、労働力が不足している」と彼らは言う。 この主張は的外れだ。多くの人がEU離脱を望んだのは、貧しい国から流入する安価な労働力を中心に築かれた経済に嫌
女性をレイプした後に女性に性別変更し、女性刑務所に送られたアイラ・ブライソン(元アダム・グレアム、写真は性別変更前の姿) Police Scotland/Handout via REUTERS <トランスジェンダーの権利擁護のため性別変更を容易にする法案を進めるスコットランドで、2人の女性をレイプした男が裁判中に女性に性別変更するという珍事が> 時折、気味が悪いほどものごとが同じようなタイミングで起こることがある。たった今、イギリス政府はスコットランド自治政府による「性別変更手続き簡易化」法案と論争を繰り広げているところだ。 イギリス政府はスコットランド政府より「上位」におり、スコットランドのこの法案を阻害しているのだが、今のところイギリス政府がスコットランド人とスコットランド議会の意志を妨害していると捉えられ、論争は続いている。同時に、スコットランド政府は自身を思いやりある未来志向の政府
<Jリーグ発足の年から日本サッカーを見守り続けた「イングランドの日本ファン」が断言、日本は名実ともに世界のサッカー強豪国になったが......> 僕が日本に来て最初の年に、Jリーグは発足した。ラッキーなことに、短期間ガンバ大阪のインターンシップを経験して、この黎明期を間近で見ることができた。 僕の最初の感想は、興味をそそられるほどの才能が全チームに満遍なく存在するわけではないな、ということ。ファンはサッカーを「分かって」いなかったし(例えば選手がただロングキックを蹴っただけで歓声が上がったし、今となってはあの騒がしい「チアホーン」を覚えている人すらいないだろう)、1年目のド派手さは泡のごとく立ち消え、日本は「アジアのベストチームの1つ」以上に行くことに苦戦していた。 経営危機に陥るクラブが出てきて、スポンサーが撤退し、観客数が落ち込み、経営陣がJリーグのフォーマットをいじくり続けるなかで、
そろそろ首相就任が視野に入ってもおかしくないのにイマイチ存在感に欠ける野党・労働党のキア・スターマー党首(9月24日、リバプール) Henry Nicholls-REUTERS <英トラス政権の支持急落のおかげで急浮上の野党・労働党。保守党の長期政権にイギリス国民はうんざりし始めているものの、野党党首のキア・スターマーはあまりに生真面目で地味> 大学で歴史を学んでいた時に僕が読まなければならなかった記事の1つが、「労働党党首としてのアーサー・ヘンダーソン」だった。それを覚えているのは、絶望的に面白くなさそうなタイトルだったから。「1924~1940年のジョージア(グルジア)におけるリネン生産」とか「アイルランド独立後の郵便制度改革」などと同じような感じだ。 ヘンダーソンは決して首相にはなれず、魅力的な人物でもなかった。僕が思うにこの記事の筆者は、ヘンダーソンがイギリスの主要政党で長年重要な
今年で在位50年を迎えたデンマークのマルグレーテ女王は今やヨーロッパで最長在位を誇る君主に(写真は9月10日、コペンハーゲンの王立劇場で開催された記念式典にて) Ritzau Scanpix/Ida Marie Odgaard via REUTERS <英エリザベス女王の訃報で不運にも在位50年を祝うゴールデン・ジュビリーの催しが大幅に縮小されたデンマーク女王マルグレーテ2世は、実はこんなに偉大な人物> たまたま僕は英エリザベス女王の訃報を聞いたときドイツを旅行中で、その後は旅程どおりデンマークに向かった。だから僕がその瞬間のイギリスの「国全体を覆う雰囲気」を推し量ることはできない。 代わりに僕はたまたま、デンマークの人々のちょっとした不運を目にすることになった。デンマークの女王マルグレーテ2世は今年で在位50年を迎え、そのゴールデン・ジュビリーを祝う催しの準備が国を挙げて進められていた
<近しい同僚たちがこぞって反旗を翻し、辞任に追い込まれたジョンソン英首相。エネルギッシュで一見、人を引き付ける力にあふれているようだが、親しくなるほどに人が離れていく傾向がある> 若者にも伝えたい僕の人生最大の教訓の1つは、長年の友人に恵まれていなそうな人は警戒すべき、というものだ。僕自身は19歳頃にこれを悟った。実のところ僕は、疑いの目を向け始めたある身近な人物について他の友人と話し合ううちに、だんだんとこの洞察を導き出していった。 なぜ彼は高校時代からの友達が1人もいないのだろうと、僕と友人はいぶかしんだ。なぜ彼は半年前に知り合ったばかりの人々を「親友」と吹聴するのか。なぜ彼が「いい友達」と話す人々は彼の周囲からすぐに離れていくのか。 人々が時とともに彼の本質を見抜くか、あるいは彼が長年の友情を大事にしないのか、またはその両方なのだろうと、僕たちは結論付けた。いずれにしろ、僕たちはこれ
<平均約800万円もの借金を背負って社会人生活をスタートさせる現代のイギリスの大卒者。学資ローンの制度変更で、彼らの状況はさらに悪化したうえ、学費無料だった年配者世代との格差はますます顕著に> 新型コロナウイルスの混乱とウクライナ危機の陰でいつの間にか、イギリスではやや小粒でよりステルス的な惨事が起こっていた。もう何度目になるか分からない学資ローンの制度変更が行われ、またも大学教育に進む若者の状況を悪化させることになったのだ。 改正により、ローンの返済期間(期間終了後は負債は政府によって帳消しになる)は30年から40年に延長される。加えて、学資ローンの金利は今年、12%に達する見込みだ。個人差はあれど、単純に考えれば大多数の若年層がより多く、より長期にわたってローンを払うことになる。 それでも多くの人が、退職年齢ギリギリまで払い続けて完済するだろう。近年大学を卒業する人々は、返済の始まる前
ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問しゼレンスキー大統領(右)と会談したジョンソン英首相(4月9日) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE-HANDOUT-REUTERS <新型コロナウイルスの規制を破ってのパーティーでイギリス国民から完全に嫌悪されたと思われたが、もっと嫌悪すべき相手(ロシア)の登場でむしろウクライナ対応の適切さが際立つジョンソン英首相> 現時点では、ジョンソン英首相の最大の味方は「相対評価」だ。イギリスの人々は、ロックダウンで国民に課された規制を彼が破ったことを今もまだ怒っているし、この件で彼は罰金も科された。だがロシアがウクライナを侵攻する前でさえも、ロシアのプーチン大統領が黒海沿岸に1億ポンドの宮殿(資金源は1つしか説明がつかない)を建てても許されている一方で、ジョンソンがバースデーケーキにありついただけで窮地に立たされるという
チェンバレン元英首相(前左)はドイツに対する宥和政策でヒトラーの要求を認めた(1938年9月) By Bundesarchiv, Bild 183-H12751 / CC BY-SA 3.0 de <ヒトラーを勢いづかせた、当時の英首相ネビル・チェンバレンの「宥和政策」はあまりに非難されているが、現代の国際社会はプーチンに対して何をしてきたのか> 僕は大学で歴史を専攻したから、ちょっとした歴史オタクだ。そんな僕が気になって仕方ないことの1つが、ネビル・チェンバレン元英首相と、彼のヒトラーに対する「宥和政策」が、いかに誤解され不当に非難されてきたか、という点だ。 彼の宥和政策は、何があろうと疑いなく間違った政策だった。だがそれは、主に歴史を振り返る中で明らかになった。宥和政策が第2次大戦を止められなかったこと、そして実際にはヒトラーの攻撃性と拡張主義を助長するだけだったことを、僕たちは今よく
オーナーを務めるチェルシーFCの試合を観戦するアブラモビッチ(2017年5月) Hannah McKay Livepic-REUTERS <何十年もの間イギリスは、ロシアの飛び地さながらにプーチン取り巻きの怪しいロシア大富豪を受け入れ、豪遊させ、不動産を買い占めさせてきた。ウクライナの悲劇を前に、イギリスはじめ問題を放任し続けた各国は猛省すべきだ> ウクライナの悲劇によって、世界中の国々はこれまでの政策と前提を考え直さざるを得なくなっている。イギリスは、ロシアのプーチン政権を成立可能にしてきた自らの役割を真剣に反省するべきだ。 何十年もの間、ロンドンは出所の怪しいロシアマネーの逃避先だった。僕たちイギリス人は、説明不能なほどに裕福なロシア人富豪がイギリスで不動産を買うのを許し、彼らの子息をイギリスの名門私立校で学ばせ、彼らが重要施設を買い占めるのさえ放任してきた。石油王のロマン・アブラモビ
イギリス中で多くの郵便局長が横領の罪を着せられてから20年。裁判では無罪が証明されつつあるが Sky News-YouTube <イギリスの地味で真面目な郵便局長たち700人以上が、ソフトウェアのバグのせいで横領の罪を着せられていた──20年たっても解明されず、知れば知るほど不快な史上最悪の冤罪事件の公聴会がイギリスで始まった> ほとんどいつも僕は──心のほんの片隅で、ではあるが──「自由社会」に暮らしていることをありがたく思っている。選挙権を行使でき、法の支配があり、自分たちの人生については概して自分に決定権がある社会だ。 だが時折、その前提に不快な衝撃がもたらされる。自分で自分をだましているように感じられ、巨大な力に牙をむかれ、どうあがこうと太刀打ちできない「カフカ的」悪夢にいつ落ちてもおかしくないと思わずにはいられないような出来事だ。 「ウインドラッシュ・スキャンダル」は、そんなゾッ
ロンドンで行われたエイメスの追悼集会(10月18日) HESTHER NGーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES <人種差別と言われかねないから誰も口にしないが、イギリスは明らかに移民の問題を抱えている> 僕の地元の英イングランド東部エセックス州で10月15日、デービッド・エイメス下院議員が刺殺された事件は、イギリス全土に衝撃と悲しみをもたらした。だがその後、殺人とテロの容疑で逮捕された男がソマリア系英国人だと分かったことには、さほど驚きの声は上がらなかった。 イギリスには、誰の目にも明らかなパターンがある。戦争で荒廃した国やイスラム諸国から来た移民が、その人口比に見合わずあまりに多くのテロ攻撃に関与しているということだ。 過去20年に起こった数々の事件はどれも重大で、ここではほんの端的な概要を挙げることしかできないが、それぞれの事件の影には深い悲劇があ
イングランド・プレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドFCがサウジアラビアの政府系ファンドに買収され、喜ぶファンたち(10月7日) Action Images via Reuters/Lee Smith <体制批判で言論の自由を守り続けたジャーナリストのノーベル平和賞がニュースになるのと同時に、ジャーナリスト殺害で悪名高きサウジアラビアによる英プレミアリーグのクラブ買収が歓喜とともに報道されるイギリスの耐え難き矛盾> 人生は皮肉になることもある。いつも「笑える感じに」皮肉になるとは限らない。この24時間というもの、英BBCニュースは2つのニュースを行ったり来たりして絶えず放送している。 1つは、専制主義的体制の下でジャーナリストたちが抑圧され、殺害すらされている国において言論の自由を守り続けたとして、2人のジャーナリスト――フィリピンのマリア・レッサとロシアのドミトリー・ムラートフが、
<英王室で起こった過去の「ふさわしくない結婚」と同じく眞子内親王も皇室を追われ、亡命のように国を出るようだが、王室(皇室)由来の資金援助を受け続けるだろうこともお約束どおりだろう> 君主制は、本質的に不公平なものだ。ある特定の一家が複数の宮殿に暮らし、国民の税金で特権的な生活を送り、大イベントに出席し、着飾り、晩餐会に参加する......。もちろん、そこにはマイナス面もある。着飾らなければならないし、大イベントに出席しなければならないし、大抵は大衆の注目にさらされる。王族であることの代償の1つは、私生活が必ずしも私生活ではないこと。国事になってしまうのだ。 有名な話だが、1936年のイギリスで、当時の国王エドワード8世は、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンと結婚するために退位を余儀なくされた。英君主、ひいては英国国教会の最高権威者として、存命中の2人の元夫がいる女性との結婚は、
イギリスの電気料金はこの1年ほどで劇的に上昇した(英南部フロームの建物に設置されたソーラーパネル) Toby Melville-REUTERS <イギリス政府が太っ腹な補助金を出していた7年前に、損得を綿密に勘定してソーラーパネルを諦めたが、低金利と電気代高騰とコロナ禍のいま思う「やっときゃ良かった」> 僕のように「数字遊び」的なものが好きな人なら、今回の記事は説明過剰に聞こえるかもしれない。でもあまり数学好きじゃない人にとっては、分かりにくい話かもしれない。今回記す話は、政府がいかに下手なやり方で矛盾だらけの政策を取ることがあるかのお手本みたいな例だ。 7年前、僕はわが家の屋根にソーラーパネルを導入しようかと検討した。あの時やっておくべきだったのではないかと、その後も折に触れて試算を見直してみた。一見したところ、当時はソーラーパネル設置は名案のように見えた。かなり太っ腹な政府補助金が出た
<ここ20年以上、イギリスの住宅価格は信じられないほどに上がり続け、新たに家を購入するのは日々難しくなっている。単なる経済格差だけではなく世代間格差も発生し、社会の分断の原因に> イギリスのトニー・ブレア首相(当時)はかつて、政権の優先事項は「教育、教育、教育だ」と言った。くどい言い回しにはイラついたが、彼の意図するところは理解できた。教育の向上はおおむね全てのイギリス人が支持する政策であり、票を稼げるのだ。さて、ブレアっぽいと思われるのを承知で言うなら、現在イギリスが直面する最大の社会的問題は、「住宅、住宅、住宅だ」。 イギリスはここ20年以上「住宅危機」の渦中にあり、改善することは一度もなく悪化する一方に見える。住宅価格は信じられないほどに上がったから、ついに限界点に達したに違いないと思ったことが2度もあった。そんな僕の考えは誤っていただけでなく、とんでもない誤りだった。過去1年だけで
<新潟県で生まれ、ロンドンで育った新世代のシンガーソングライター。世界中に熱狂的なファンを獲得し、エルトン・ジョンも称賛する。この夏には「イギリス人」の定義をも塗り替えることになった> ※8月10日/17日号(8月3日発売)は「世界が尊敬する日本人100」特集。市川海老蔵、CHAI、猪子寿之、吾峠呼世晴、東信、岩崎明子、ヒカル・ナカムラ、菊野昌宏、阿古智子、小澤マリア......。免疫学者からユーチューバーまで、コロナ禍に負けず輝きを放つ日本の天才・異才・奇才100人を取り上げています。 悪夢のようなデートだ。男性はつまらないことをだらだらとしゃべり、食事のマナーは最悪で、無自覚に侮辱的な発言をしては女性の話を遮る。ついに女性がキレて、黙れと言い放つ。 それはそれでカタルシスに満ちた瞬間だが、リナ・サワヤマ(30)の才能にかかればとてもスタイリッシュで、たまらなく面白い映像になる。 これは
<イングランドでは新型コロナウイルスの規制が7月19日にほぼ全て解除され、「自由の日」になった。それでもまだロックダウンを続けるべきだと主張する人も多いが、この対立構図はブレグジットの時とそっくりだ> 理論上は、新型コロナウイルスの残りの規制もほぼ全て解除された7月19日は、イングランドにとっての「自由の日」になった。「理論上は」と言ったのは、大多数の人々は既にやりたいことはしていたからだ。 例えば、(7人以上の集会を禁じた)「6人ルール」の延長の是非を英政府が議論していたその日、サッカー欧州選手権でイングランドがウクライナに勝利しベスト4進出が決まったことで、僕の住む街でも何百人もの人々が路上で歌い踊り、抱き合って騒いでいた。彼らが道路をふさがないようにと警察が駆り出されていたが、群衆を追い払おうとも距離を取らせようともしていなかった。 イギリスの度重なるロックダウン(都市封鎖)や規制は
<北アイルランドの人にはタブーな質問から独特のなまり、南北が唯一結束するあの分野まで北アイルランドの基礎知識、その後編> 北アイルランドについて興味を持ってくれた読者のために、もう少し「逸話的な」話を少々加えておきたい。 前回、北アイルランドには民族的マイノリティーが少ないということを書いた。僕の子供時代、こんなジョークがあった――若い男たちの集団がある若者をつかまえて、おまえはカトリックかそれともプロテスタントかと聞いた(自分たちとは「違うほう」だったら叩きのめしてやるつもりだったのだ)。「実は、僕はユダヤ人なんです」と、彼は答えた。男たちの集団は混乱した。それから1人が口を開いた。「ええと、それでお前はカトリック系ユダヤ人か、それともプロテスタント系ユダヤ人か?」 見知らぬ人に囲まれて自分の属性を明らかにさせられることは、北アイルランドでは本当に大変なことだった。でもそれは別にしても、
アイルランドには長年テロや暴力が付きまとってきた(写真は今年4月の抗議デモで炎上するバス) Jason Caimduff-REUTERS <テロと暴力が続くが単純に線引きも解決もできない北アイルランド問題を読み解く入門、その前篇> 英領北アイルランドは、誕生から100年を迎えた。でも、北アイルランドには長年にわたりテロリズムや集団暴力が付きまとい、世界でも問題山積の場所であるだけに、100周年の「お祝いムード」とはとても言えないだろう。比較的平和な期間が長く続いた後、今年に入り新たな暴力が発生しているから、ハッピーな周年記念とは程遠い。 北アイルランドが世界の人々によく理解されているとは思わないから、僕はいくつかの考察を記しておこうと思う。深い分析と言うよりはちょっとした「入門編」のようなものだ。 ところで、北アイルランドの状況は、(北アイルランド以外の)イギリス国内でさえちゃんと理解され
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