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ブックレビュー
www.newsweekjapan.jp/kaya
<経営者の個人責任がここまで大きいと明確になったことで、サラリーマン感覚から抜け出せない経営者たちに「改革」を迫ることになった> 東京電力福島第1原子力発電所の事故をめぐる裁判で、東京地裁が旧経営陣4人に対し、東電に13兆3210億円を支払うよう命じる判決を言い渡した。この判決が日本経済に与える影響は大きく、長い目で見れば賃金の上昇にもつながると考えてよいだろう。 東電の裁判と聞くと、原発事故の被害者が賠償請求を行っているとイメージする人も多いだろうが、この裁判全く異なる。旧経営陣が経営者としての義務を怠り(津波の発生が予見できていながら対策を講じなかった)、会社に対して多額の損失を与えたとして、会社への賠償を求めた株主代表訴訟である。 仮に判決が確定した場合、東電の旧経営陣は会社に対して13兆円を支払うことになる。現実に13兆円を支払うことはできないと思われるので、自己破産という形で終了
<人件費の高騰で安い製品の大量生産が難しくなった中国は、安い製品を「買う」側の国に。すでに日本国内で生産した方が安くなるケースも> このところ、全世界的なインフレ懸念が高まっている。2021年後半から原油価格が大幅に上昇していることや、ウクライナ情勢を受けて食糧不足が深刻になっていることなどが背景とされる。確かに両者がインフレの主犯であることは間違いないが、今後、さらに大きな要因が加わる可能性が高まっている。それは中国の構造転換である。 中国は過去10年、平均7%の成長を実現しており、多くの調査機関が2030年前後に米中の経済規模が逆転し、中国が世界最大の経済大国になると予想している。 一方で、中国は成長率の鈍化という大きな問題に直面しつつある。成長率が鈍化しているのは、社会が豊かになり、途上国としての成長力が失われたからである。社会が成熟化し、成長率が鈍化することを「中所得国の罠」と呼ぶ
<円安は日本企業の輸出に有利になるとされてきたが、現在の円安で日本経済はメリットを享受できていない。その構造的な問題とは> 円安が急速に進んだことで、「悪い円安」論に注目が集まっている。円安は日本経済にとって追い風になるというのがこれまでの通説だったが、今回はそれとは真逆の反応となっている。 理由の1つとされているのが、製造業の現地生産化による相対的な輸出の減少である。現地生産化によって円安メリットが減っているのであれば、生産拠点を日本に戻せばよいという見方も出てくるかもしれないが、そう単純な話ではない。 日本の製造業は1990年代以降、コストが安い中国や東南アジアに生産拠点をシフトしてきた。2020年度における日本企業の海外生産比率は22.4%となっており、90年度(4.6%)と比較すると大幅に増えている(内閣府調べ)。海外生産比率が上昇すると、日本からの輸出が減るので、円安のメリットを
<「大人になったらなりたいもの」調査で、1位が「会社員」に。何より問題なのは「職種」ではなく「就業形態」でしか答えられないことだ> 生命保険会社が全国の小中高生を対象とした「大人になったらなりたいもの」調査で、2年連続で1位(小学生・男子)が「会社員」だったことが話題となっている。一部からは「夢がない」「日本の将来を暗示している」といった意見も聞かれるのだが、実はこの結果にはカラクリがある。 2021年から選択肢の中に「会社員」という無難な項目が入ったことで、これが1位になりやすくなった。ちなみに2位はユーチューバーで、かつて1位の常連だったサッカー選手や野球選手も相変わらず上位に入っている。 従って、「最近の子供は閉塞感が高まっている」というような安易な解釈は禁物だが、筆者はこの結果について別の面で懸念している。それは「会社員」という仕事についてである。 諸外国で「あなたの仕事は?」と質
<順調に給料が上昇する諸外国と比べて、日本の賃金低迷はいよいよ顕著に。企業への賃上げ要求では解決不可能な根深い原因とその処方箋> 日本人の賃金が全くといってよいほど上昇していない。賃金の低下は今に始まったことではないが、豊かだった時代の惰性もあり、これまでは見て見ぬふりができた。だが諸外国との賃金格差がいよいよ顕著となり、隣国の韓国にも抜かれたことで、多くの国民が賃金の安さについて認識するようになっている。 OECD(経済協力開発機構)によると、2020年における日本の平均賃金(年収ベース:購買力平価のドル換算)は3万8515ドルと、アメリカ(6万9392ドル)の約半分、ドイツ(5万3745ドル)の7割程度。00年との比較では、各国の賃金が1.2倍から1.4倍になっているにもかかわらず、日本はほぼ横ばいの状態であり、15年には隣国の韓国にも抜かされた<参考グラフ:各国の平均賃金(年収)の推
<岸田政権が企業の人的資本に関する開示指針の作成に乗り出したが、諸外国に比べて日本企業はこの分野で著しく遅れている> 政府が企業の人的資本に関する開示指針の作成に乗り出している。日本企業は人材投資水準が諸外国と比べて著しく低く、これが低成長の原因の1つとなっている。政府が指針を作成しなければならないという状況自体が問題ではあるが、少なくとも指針が策定されれば、投資の活性化にはつながるだろう。 日本企業における人材投資水準(対GDP比)はアメリカの20分の1、ドイツの12分の1となっており、しかも1990年代以降、投資金額を毎年減らし続けている。日本は過去30年間ほぼゼロ成長だったことに加え、GDPに対する人材投資水準を低下させており、諸外国との差は拡大する一方だ。 供給側のモデルを用いた成長理論によると、ある国の経済水準を決定付けるのは資本投入と労働投入の2つである。だが同じ資本と労働を投
<テレワークの進展によって郊外に転居した人がいるのは確かだろうが、そうした「前向き」な理由での転出はむしろ少数派と見るべきだ> 東京23区が転出超過になったことが話題となっている。テレワークが普及し、都心から人が出ていく動きが加速しているとの解釈が一般的だが、統計をより細かく見ると、そうではない可能性が高い。筆者はかねてからテレワークを推奨してきた立場だが、願望が先走ってしまうと実態を見誤る。 総務省が発表した2021年の住民基本台帳の人口移動報告によると、東京23区の転出超過は1万4828人となり、現在の統計になってから初めて転出が転入を上回った。各種メディアには「東京一極集中の是正が進む」「テレワークの進展で田舎暮らしが現実に」といった見出しが並んだが、これは実態を表していない。 確かに23区は転出超過だが、東京都全体では5433人の転入超過。さらに東京圏に視野を広げると8万1699人
<ウクライナ危機は、政治的には「ウクライナの欧州化を防ぐ」のが目的だが、背景には世界的な再生可能エネルギーへのシフトで追い詰められるロシア経済の現状がある> ウクライナ情勢が切迫している。2月17日時点でまだ侵攻は行われていないものの、ジョー・バイデン米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領が電話会談を行うなど、ギリギリの交渉が続いている。 今回の出来事は、政治的に見ればウクライナの欧州化をめぐるロシアと欧米の争いだが、再生可能エネルギーへのシフトとそれに伴う原油価格の動きという経済的な問題も絡んでいる。 ロシアはアメリカとサウジアラビアに次ぐ産油国であり、天然ガスの産出量も世界第2位である。ロシア経済は完全に原油に依存しており、原油価格が下落すると財政赤字と経常赤字に、逆に原油価格が上昇すると財政も国際収支も黒字に転換する。ロシアにとって原油価格は高めで安定していることが望ましいわけだが
<セブンが百貨店事業から撤退したのは、コンビニ事業に集中するためだけではなく、日本の国内市場が限界に達していると見たからでもある> セブン&アイ・ホールディングスが傘下の百貨店「そごう・西武」の売却を決めた。不振が続く百貨店事業を切り離し、コンビニ事業に集中するのが狙いと考えられる。セブン単体ではそうした解釈が成立するが、さらに視野を広げると、百貨店という事業形態の終焉と、人口減少に伴う国内市場の限界という問題が見えてくる。 セブンは2006年、そごう・西武(当時はミレニアムリテイリング)を約2000億円で買収した。もともとそごうと西武百貨店は別々の企業であり、旧そごうグループの経営破綻や西武百貨店の業績低迷などを受けて04年に経営を統合した。 その後、セブン傘下で本格的な再建を図るはずだったが、業績は思うように伸びていない。そごう・西武は買収当時、28の店舗を抱えていたが、不採算店舗の縮
<世界的な物価高騰は「コロナからの回復」という単純な要因によるものではない。日本経済が前提としてきた状況が一変する時代に備えよ> 原油を中心に多くの商品が値上がりしており、全世界的にインフレ懸念が高まっている。新型コロナウイルス危機からの景気回復期待が価格上昇の理由とされるが、背景には構造的な要因もあり、状況はそれほど単純ではない。 年初に1バレル=50ドル前後だった原油価格は一気に上昇し、一時、80ドルを突破した。アメリカが各国に備蓄放出を呼び掛けたことから60ドル台に下落したものの、長期的には上昇傾向が続くとみる専門家は多い。原油だけでなくあらゆる商品価格が高騰しており、アメリカにおける10月の消費者物価指数は前年同月比で6.2%もの上昇となった。 コロナ禍からの景気回復期待を背景とした需要増はあくまで短期的要因にすぎない。近年、東南アジアを中心に新興国の経済成長が顕著となっており、エ
<日本の格差拡大はアメリカなどと違って中間層が貧困に転落する「下向き」型。そのため格差是正の取り組みもより難しくなっている> このところ格差問題や分配政策が話題となることが増えている。アメリカではバイデン政権が富裕層課税の強化を打ち出しており、日本でも岸田首相が一時、金融所得課税の強化に言及した(その後、先送りを表明)。富裕層への課税強化は、格差縮小や税収増加につながるのだろうか。 アメリカは激しい競争社会であり、競争に勝ち残った人は多くの富を得られる。所得税も日本ほどの累進課税になっていないので、高額所得者の場合、アメリカのほうが手元に残るお金が多い。経済が好調であることから、減税が何度も実施されており、多くの富裕層が恩恵を受けた。 加えてアメリカでは株式投資が活発なので、多くの国民が株式投資を行っている。株価が上昇すると彼らの資産は一気に増える。 このところアメリカの株価が大きく上昇し
<財務省の矢野康治事務次官による寄稿で、財政破綻に関する議論が再び盛り上がっているが、現状は両極端な主張ばかりで現実的なリスクが見落とされている> 財務省の矢野康治事務次官が、「このままでは国家財政が破綻する」という記事を月刊誌に寄稿したことが波紋を呼んでいる。日本の財政については「破綻の危機に瀕している」「全く問題ない」という両極端な意見が対立しており、神学論争のような状況である。極論ばかりを戦わせ、歩み寄りが見られないという状況も、ある種の現実逃避である。日本の財政破綻よりも短期的で重大な問題があり、これに対処するためにも財政の健全化が必要だ。 矢野氏は記事中で、日本の政府債務残高のGDP比は先進各国の中でも突出して高く、「どの国よりも劣悪な状態」だと指摘している。日本の政府債務のGDP比は約2.5倍となっており、アメリカ(約1.3倍)、ドイツ(0.7倍)などと比較するとかなり高く、財
<岸田首相が「1億円の壁」の是正のために検討していた金融所得課税の強化だが、実施されていれば最大の被害者は富裕層ではなく中間層になっていた> 岸田文雄首相が所得再分配政策の一環として検討を進めていた金融所得課税の強化策について先送りを決めた。市場の反響があまりにも大きかったことが原因だが、この施策のマイナス面は株価への影響だけではない。一律に施行した場合、富裕層だけでなく中間層にも増税となる可能性が高いという欠点がある。 現在、株式などから得られる配当や売却益には一律で20%の税金がかかっている。日本の所得税は収入が多いほど税率が上がる累進課税となっており、高額所得者ほど税率が高い。だが所得が1億円を超えるような人の場合、給与所得や事業所得よりも金融所得(売却益や配当益)の比率が高くなる。この部分には20%しか税金がかからないため、実質的な税率はむしろ下がってくる。岸田氏はこの状況を「1億
<バブルの指標となる総融資残高の対GDP比は危険水準を大幅に超えるが、日本でのバブル後の処理とは大きく異なりそうだ> 中国で大手不動産会社の破綻が取り沙汰されていることから、バブル崩壊懸念が台頭している。中国は基本的に社会主義経済なので、仮にバブルが崩壊しても、場合によって民間企業は救済せず、国有企業を救済する折衷型の処理となる可能性が高い。 不動産大手・中国恒大集団が経営危機に陥っており、同社の破綻と中国版リーマン・ショックへの警戒感から、世界的な同時株安も発生した。中国はこれまで著しい経済成長を実現してきたが、不動産価格は経済成長をさらに上回るペースで上昇を続けてきた。同社は積極姿勢が裏目に出て過剰債務の状態に陥っており、資金繰りが厳しくなっている。本社には理財商品(中国の金融商品)の償還を求める投資家が押し掛けるなど混乱が生じているもようだ。 中国の不動産バブルは80年代に発生した日
<為替相場は動いていないが、実は日本円の価値はどんどん低下している。それが意味するのは、日本人が貧しくなっているという現実だ> ここ数年、日本円の為替レートに大きな変動が見られない。だが現実には実質的な円安が進行中で、日本人の購買力は年々低下している。物価の違いを考慮すると日本円は1970年代の水準まで(名目上の取引レートとしては1ドル=250円程度)円安になったと考えることも可能だ。 一般に為替レートは物価水準に応じて変化するといわれる(購買力平価)。だが、為替レートは物価だけでなく、投機的な需要や通貨全体の信頼度、輸出入に伴う実需などさまざまな要因で決まる。何らかの理由で為替レートが大きく変動しないこともあり、今の日本円はまさにそうした状況といってよい。 通常、為替が円安になれば輸出金額が増えるので海外に製品を販売する企業は有利になる一方、輸入金額も増えるので輸入する企業にとっては不利
<五輪開幕前、迷走に迷走を重ねた日本。その根本にある「病理」は太平洋戦争を避けられなかった当時から変わっていない> 東京五輪は、国民から100%の支持が得られないという状況下での開催となった。コロナ危機という要因があったとはいえ、ほとんどの国民が支持するはずのイベントがここまでネガティブになってしまったのは、政府の意思決定が迷走に迷走を重ねたことが大きい。 順調に物事が進んでいるときには大きな問題は発生しないが、非常時になると全く機能しなくなるという日本社会の特質を改めて露呈する形となったが、一部からは太平洋戦争との類似性を指摘する声が出ている。80年前と今を比較するのはナンセンスという意見もあるが、事態の推移を考えるとこの類似性を否定するのは難しそうだ。 今回の五輪は当初から問題が山積していた。2015年7月、新国立競技場の建設費が当初予定を大幅に上回ることが判明したが、政府がうやむやに
<経産省の試算で、ついに太陽光発電のコストが原子力を抜いて最安となったが、これから重要となるのはむしろ風力だ> 最も安価とされていた原子力発電に代わって、太陽光発電のコストが最安という試算結果を経済産業省が公表した。ようやく世界標準の認識に追い付いた形だが、中身をよく見るとまだ課題は多い。 試算では太陽光のコストだけが著しく安くなっているが、太陽光発電所ばかり建設することには弊害がある。洋上風力発電のコストを欧米並みに下げなければ日本の脱炭素政策はうまくいかないだろう。 経済産業省は2021年7月12日、30年時点の電源別発電コストの試算を発表した。それによると大規模太陽光発電のコストは1キロワット時当たり8円台前半~11円台後半となり、最も安いエネルギーとなった。15年の試算では太陽光は12.7~15.6円だったので大幅に安くなっている。 再生可能エネルギーの発電コストが圧倒的に安いこと
<オリパラアプリをめぐる平井大臣の疑惑は、個人の問題では収まらない構造的な問題が表面化したものと捉えるべき> 平井卓也デジタル改革担当相が、東京五輪向けのアプリ発注に関して、受注企業への恫喝を示唆する発言を行ったことが問題視されている。平井氏への批判が高まっているが、少し視点を変えるとさまざまなことが分かってくる。 発言は4月に行われた内閣官房IT総合戦略室における幹部会議のもので、本来は非公開だが、音声が外部に流出した。平井氏は「NECには死んでも発注しない」「象徴的に干すところを作らないとなめられる」「脅しておいたほうがいい」などと発言しており、相手を恫喝するよう職員に指示したとも受け取れる。 直接、事業者を脅したわけではないが、大臣として不適切であることは言うまでもない。だが、この発言を少し角度を変えて眺めてみると、さまざまな解釈ができる。 「事業者からなめられる」「脅しておいたほう
<水道料金は43%の値上げが必要との調査結果が出たが、このショッキングな結果はインフラ問題の氷山の一角でしかない> 各地域の水道料金が近い将来、平均で43%の値上げが必要になるというショッキングな試算が出ている。今後、日本では急激に人口減少が進む一方、高度成長期に整備したインフラの更新費用が重くのしかかる。 試算を行ったのはEY新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構で、将来の人口推計や各自治体の減価償却費の推移などを基に、2040年時点において水道事業が赤字にならないための料金について算定した。それによると、全体の94%の自治体で値上げが必要であり、18年を起点とした値上げ率の平均は43%にも達する。 現時点(18年)における水道料金の全国平均(平均的な使用量の場合)は月額3225円だが、43年には4642円になる計算だ。人口が少ない自治体ほど、人口密度が低い自治体ほど値上げ率が高く
<東証が上場企業に対して開示要請するとみられる「スキルマトリックス」は、企業の評価に大きな意味を持つ> 日本の上場企業の経営陣の能力を一覧表にした「スキルマトリックス」が注目を集めている。投資家にとっては、経営陣がどのような能力を持つのか一目瞭然なので有益な情報源となるのは間違いない。一方で、学校の通信簿のような画一的な評価は経営者にはなじまないとの意見もある。 スキルマトリックスは、経営陣が持つ経験やスキルなどを一覧表にして取りまとめたもの。明確な書式が決まっているわけではないが、縦軸に取締役名、横軸に経験やスキルについて記したものが多い。 具体的にはグローバル経営、技術開発、財務、IT、リスク管理、M&A(合併・買収)、法務といった項目が並ぶ。この一覧表があれば、取締役の誰がどのような能力を持っているのか、各役員の経歴を詳細に調べなくても理解できる。また、スキル項目にどのようなものを盛
<9615億円の赤字から純利益5兆円に。この数字が示す企業の在り方の劇的変化と、企業間の格差拡大> ソフトバンクグループ(SBG)が、過去最大の赤字から一転して5兆円の純利益を上げた。日本企業としては前人未到の水準であり、同社は特異な存在となりつつある。 SBGが発表した2021年3月期決算は、純利益が4兆9879億円という驚異的な数字になった。昨年度は9615億円の赤字だったことを考えると、V字回復どころではない。 だが不思議なことに、同社の売上高は約5兆6000億円しかなく、純利益の金額が売上高に迫る状況となっている。一般的な事業会社の決算書を見慣れている人は不可解に思うだろうが、このような数字になっている最大の理由は、SBGが事実上の投資会社に変貌しているからである。 同社は孫正義会長兼社長が1981年に創業した企業だが、当初は出版やソフト流通を手掛ける地味な事業会社であった。ところ
<十分な内需があるはずの日本が、他の先進国のように成長できない大きな要因は、日本人のメンタルにあった> 日本経済はバブル崩壊以降、30年にわたってほとんど成長できない状況が続いている。日本が成長できなくなった最大の理由は、経済の屋台骨だった製造業がグローバル化とIT化の波に乗り遅れ、国際競争力を失ったことである。 だが、成熟した先進国は豊かな消費市場が育っているので、輸出競争力が低下しても国内消費(つまり内需)で成長を継続できるケースが多い。実際、アメリカやイギリスは、製造業の衰退後も内需を原動力に高成長を続けている。 日本は他の先進諸国と同様に、十分な内需が存在しているはずだが、どういうわけか日本の国内消費は低迷が続いており、これが低成長の元凶となっている。 一部からは消費増税が原因であるとの指摘も出ているが、税は経済学的に見て成長を根本的に阻害する要因ではなく、しかも欧州各国が15~2
<ミャンマーの高度経済成長を支えたのは日本と中国の積極投資だが、クーデターにより決断が迫られている> ミャンマー情勢が混迷を極めている。アメリカはミャンマーとの貿易投資協定を見直すとともに、各国に対して制裁強化を呼び掛けているが、中国は内政干渉だと反発している。日本は中国と並んでミャンマーへの経済支援を続けてきた国の1つだが、経済と政治は別という理屈はもはや通用しなくなっている。 ミャンマーでは長く軍政による弾圧が続いており、アメリカは1997年からミャンマー制裁を行ってきた。2015年の総選挙でアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が勝利し、スーチー氏が事実上の政権トップに就任したことから16年に制裁は解除されたが、その後も実権は軍が握っていたとされる。 今回のクーデターでスーチー氏が完全に排除されたことで、結局は元の状態に戻った格好だ。 完全な民主化が実現していないため、アメ
<楽天と日本郵便の大型提携というニュースに隠れ、消費市場で着々と進む「日中の一体化」は何をもたらすか?> 楽天と日本郵政が資本・業務提携に踏み切った。市場の関心は両社の協業内容に向かっているが、実は楽天は中国のIT大手テンセント(騰訊)とも資本提携を行っている。大きなニュースにはならなかったが、メルカリも中国のIT大手アリババとの提携を発表したばかりだ。これは何を意味しているのだろうか。 楽天は日本郵政とほぼ同じタイミングでテンセントから出資を受ける。日本郵政とは異なり、資金を受け入れること以外に具体的な協業内容は明かされていないが、その狙いが越境ECであることはほぼ間違いない。 越境ECというのは、国境をまたいだネット通販サービスのことであり、アジア地域では越境EC市場が急拡大している。東南アジアの通販サイトで販売される商品を中国の消費者が購入したり、中国の商品を東南アジアの消費者が購入
<全人代で公表された5カ年計画からは、超大国として世界に君臨する野心が明らか。世界一の経済大国という「隣国」と日本はどう向き合うか> 中国で第13 期全国人民代表大会(全人代)が開催された。採択された第14次5カ年計画では改革開放路線以来となる大きな政策転換が盛り込まれたほか、長期目標として1人当たりのGDPを中等先進国並みに引き上げるという目標も掲げられた。中国は超大国に向けて舵を切ったということであり、日本にとっては大きな脅威となるだろう。 全人代は中国の国会に相当する機関で、年1回、開催される。法律上は中国における最高権力機関と位置付けられているが、中国は革命国家であり、政府は共産党の統制下にある。現実には党の方針を追認する役割を果たしているにすぎないが、それでも全人代での決定は極めて大きな影響力を持つ。 特に今年は第14次5カ年計画が公表される年であり、諸外国はその内容に注目してき
<人民元が米ドルに代わる基軸通貨になるには2要件を満たす必要があるが準備は着実に進んでいる> 中国がデジタル人民元の大規模な実証実験を開始するなど、人民元のシェア拡大に向けた動きを活発化させている。現時点では人民元の存在感は薄く、ドル覇権が揺らぐ兆しはないが、筆者は中長期的には人民元がドル覇権を脅かす可能性はそれなりに高いとみている。 ある国の通貨が基軸通貨となるには、2つの要件を満たす必要がある。1つは輸入大国として世界からモノを買い入れ、対価として自国通貨を世界にバラまいていること。もう1つは、金融取引の市場において高いシェアを維持していることである。 米ドルは誰もが認める世界の基軸通貨だが、アメリカ経済はドルが基軸通貨になるための要件を完全に満たしている。アメリカは世界最大の消費国であり、全世界から大量のモノやサービスを購入している。同国の貿易収支は一貫して赤字が続いており、2019
<森元会長の女性蔑視発言について「外国にも差別はある」と考える人は、国際交渉の冷酷な現実が見えていない> 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」など、女性蔑視の発言をしたことが各方面から批判されている。 政府が男女共同参画を重要政策として掲げる今の日本において、この発言が論外であることは言うまでもないが、森氏に限らずこうした差別発言を行うキーパーソンは多い。そして、一連の発言は日本経済に莫大な追加コストをもたらしている。 「ガラパゴス」という言葉があることからも分かるように、日本社会は海外から隔絶されている面があり、国際交渉における冷酷な利益獲得競争に無頓着な人が多い。こうした発言が問題視されるたび国内では、欧米にも男女差別があるのに、なぜ日本人の発言ばかりが問題視されるのかという批判の声が出てくるが、これはあまりにも
<今年のGDP成長率予測で、日本が他の主要国に後れを取っている実態が浮き彫りに。コロナ感染は少ないのになぜ?> 新型コロナ危機後の世界経済において、日本の出遅れが顕著となっている。日本は諸外国と比較して感染者数が少なく推移していることに加え、GoToキャペーンなど大々的な景気刺激策まで実施して経済を回そうと試みてきた。それなのに、なぜ日本だけ景気低迷が深刻なのだろうか。 IMF(国際通貨基金)が今年1月26日に発表した世界経済見通しによると、2021年における全世界のGDP成長率は、物価の影響を考慮した実質値でプラス5.5%となっている。新型コロナウイルスに対応するワクチンが開発されたことで感染の克服が進むと予想されるため、前回(20年10月)の見通しから0.3ポイント上方修正された。ポストコロナ社会に向けて期待が持てる内容だが、国別の予想を見ると少し状況が変わってくる。 アメリカはプラス
<テスラによるエアコン事業参入は、同社が持つ中核技術と将来的な狙いを考えれば何の不思議もない> コロナ危機の深刻化で各企業は業績低迷に苦しんでいるが、こうした状況にもかかわらず、水面下では想像を超えるイノベーションが進行している。気が付いたときには、多くの業界で主役が交代しているかもしれない。 電気自動車(EV)大手のテスラは、家庭用エアコン事業への参入を検討している。正式発表はないが、イーロン・マスクCEOは「家庭用エアコン事業を2021年に始めるかもしれない」と発言しているので、何らかの準備をしているのは間違いないだろう。EVメーカーのテスラがなぜ家電に進出するのかいぶかしむ声もあるが、マスク氏の本当の狙いが分かればその意味もハッキリしてくる。 EVの基幹部品であるバッテリーは、かつて日本メーカーの独壇場だった。だが厳しい使用環境に耐える大容量バッテリーの開発は難航し、この壁を乗り越え
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