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ブックマーク / nowhere-person.hatenadiary.org (11)

  • ケータイ小説『闇夜(やみよる)』44話 - 村上F春樹

    「移動だ、移動がはじまったのだ」と男はポケットを落ち葉でいっぱいにしながら歩道橋の下を絶え間なく走る長距離トラックに向かって呟いた。福島県と山形県をつないだ新国道13号を移動する大きな車体が男の濁った目には、アフリカのサバンナを駆けるヌーの群れに映る。 いま、男は大自然を生きる動物の生態を調査する動物学者だった。トラックのマフラーから吹き出された黒煙は乾いた大地の砂煙、アスファルトとタイヤが摩擦するゴリゴリという騒音は彼らの生命の主張だった。ついさっきまで、頑なに自らを骨相学の創始者であるフランツ・ガルであると言い張ってやまなかったこの男を、誰も気に止めなかった。ましてや彼がかつて、北日独立紛争時の勇士、ブルース・ウェインであることなど分かりようがない。みすぼらしく汚れたコートの袖に収まった腕は醜く萎縮し、薬物の影が彼の全体を覆う。彼の象徴であった巨大な男根さえ、干物のように股の間にぶら

    ケータイ小説『闇夜(やみよる)』44話 - 村上F春樹
  • 闇夜(やみよる)43 - 村上F春樹

    絵里子が十六歳で初めて男を知った次の日の朝、彼女自身が後に「トライブ・コールド・クエスト」と名づける能力が覚醒した。まっ黄色な寂寥の中、目を覚まし、シャワーを浴び、下着を履き、電子レンジで暖めたレトルトのコーンスープに口をつけた瞬間に、舌を火傷する自分自身のビジョンが脳裏に焼きついた。絵里子はシャワーから出ると、下着を履く前にレンジを止め、下着を履き、いい火加減になったところのコーンスープを安心した心持でいきなりゴクゴクと飲んだ。そのことは絵里子にとって、すんなりと受け入れられる事態だった。ジャスト・ファクツ。絵里子は約二分先(実際は、地球が太陽の周りを公転する時間の二十六万二千四百七十三分の一の感覚だが、このときの絵里子にとって知る余地もなかった)まで未来を予知することができるようになっていた。絵里子はハッと思い、額をさわった。が、別にハゲてはいなかった。安心パパ。いや、安心した。 一週

    闇夜(やみよる)43 - 村上F春樹
  • 闇夜(やみよる)42 - 村上F春樹

    暴力は感染する。ひとつの暴力が新たな暴力を呼び起こす。鳥取市郊外で薪割りをしていた田中邦衛は己の身体のなか、意識の底で沈黙していた悪の蘇生を知った。内蔵の内側でうごめきを感じた。俺は…俺は…。田中邦衛は頭を抱え、両の手で顔を被う。赤子のように涙が溢れてくる。こぼれてくる。「これでは…」、田中邦衛は卑屈に笑った。「これではまるで栓の壊れた水道だ」。 東北戦線から帰還した田中邦衛の心と身体は戦争後遺症で蝕まれていた。戦場から戻った邦衛を待っていたのは腐りきった人々の姿。とりわけ戦争などそ知らぬ顔で鳥取砂丘に突き刺さったテポドンを観光名所にしようと企ててる役人ども。田中邦衛は絶望した。俺はこんなもののために命を掛け戦ってきたのか。首を切られ顔を抉られはらわたの浮く血沼で息絶えていった戦友はこんな奴らのために戦っていたのか、と。そして俺も。田中邦衛の顔に一瞬別の顔が宿る。「とっくに死んでいる」。

    闇夜(やみよる)42 - 村上F春樹
    throwS
    throwS 2008/12/24
    人のエントリーを見て、ズーズーしくも嫉妬心を抱く事が在るケド、既にそんなレベルでは無いよ・・・
  • 闇夜(やみよる)40 - 村上F春樹

    犬川隼人は、女を物色している。それは毎日続いた。男の、日課だった。男は東京メトロ渋谷駅銀座線ホームと男子トイレを清掃する仕事をしている。自分を恥じている。当の俺ではない、と思う。当の俺を発揮せねば、と思う。当の俺は世界を動かしうる存在なのだ、と思っている。40を過ぎたころ、男は、あきらめる。認める。自分は敗北者なのだと、知る。知った、と思う。犬川の血筋に、夢(それがなんなのかは犬川自身にもわからないのだが)を託さねばならぬ、と至る。俺にふさわしい、犬川の名にふさわしい女を捜さねばならぬ、と、男は、至る。 それから犬川の女探しがはじまる。犬川は東急田園都市線を使って出勤している。仕事は7時に始まり、16時に終わる。仕事が終わるとスターバックスで18時まで時間を潰し、電車に乗る。 冬のある日、犬川は「これだ!」と自身が感ずる女に出くわす。年のこうは三十くらいであろうか、強いまなざしをして

    闇夜(やみよる)40 - 村上F春樹
    throwS
    throwS 2008/12/08
    片手間の文体演習なのか?(努力しての結果だとしても凄いケド)
  • 闇夜(やみよる)39 - 村上F春樹

    ある朝、MJが子供たちに囲まれた楽園から目をさますと、自分が大きな装置の中で一人の白人に変わっているのを発見した。彼は鎧のように堅い床に背をつけ、あおむけに横たわっていた。鼻の横に幾かの冷たい筋が入っていて、顎のラインは鋭さを増している。鼻の横の厚い皮のような肉はいまにもずり落ちそうになっていた。「これはいったいどうしたことだ」と彼は思った。夢ではない。彼はあの夜を境に変わったのだ。 MJは軍の研究員であった。彼は戦争の後始末に追われていた。偽りの平和と知りながらも任務に忠実に、彼は自分が手を貸した殺人兵器プロジェクトの卵たちを「条約」に基づいて処理していた。ナインインチネイルズ、削除。ヘアカット100、削除。カジャグーグー、削除。モノクロームセット、削除。電脳にインしながら作業を進める彼に部からメールが入った。MJの電脳には攻性防壁「スクリーム」が待ち構えていて侵入者を見張っている。

    闇夜(やみよる)39 - 村上F春樹
    throwS
    throwS 2008/11/15
    器用だなぁ・・・!
  • 闇夜(やみよる)38 - 村上F春樹

    歴史?」 シャマランは聞き返した。あまりにも大袈裟で、概念的過ぎる名を名乗った男の神経が正常なものかどうか測りかねたのだ。 「そう。歴史だ」 男は繰返した。 「気になるか?」 男の問いかけに対して、シャマランは黙ってうなずいた。 「じゃあ、少し俺の話をしてやろう。俺がなぜ歴史なのか。文字通り、俺は歴史なんだよ。今俺たちがいる日列島のなかに2つの国が生み、世界の一部を変えたあの戦争を含んだ歴史は俺そのものなのさ――こんな風に話してもまだお前には理解ができないだろうがな。この話を理解するには、ちょっとした忍耐が必要だ。お前が話を聞いていたあの嘘つき先生には、それがちょっと足らなかった。だから、こんな地下に落ちちまったんだよ。 セカンドインパクトを知ってるか?あの戦争よりも随分前の話になるが、あのとき俺はオホーツク海の蟹漁船の乗組員のひとりに過ぎなかった。しかし、あの日以来俺は一種の予知能力

    闇夜(やみよる)38 - 村上F春樹
    throwS
    throwS 2008/10/27
  • 闇夜(やみよる)35 - 村上F春樹

    28種のスパイスをオリジナルにブレンドして作った看板メニュー「ひよこ豆と鶏肉カレー」は自家製ナンと一緒にべると絶品!トマトとたまねぎをベースに作っているので、辛いものが苦手な方にもオススメ!と鳥取市内のOLの間で評判だったカレー・ショップ「シャマラン」を経営していたデンマーク系インド人、サヴィトリ・ヘルツ・ボーマンシュタイン・シャマランが途方に暮れていたのは、近頃話題のバットマンに10年続けていた店を徹底的に破壊されてしまい見事に生活の基盤が崩壊してしまったからだった。バットマンによって叩き割られたガラスの破片のようにシャマランの生活の術は破壊され、彼は行き場を失ったのだ――6000枚を超えるゴアトランスのアナログ・レコードを保有していたこともあり、鳥取市内のクラブ「フロム・ダスク・ティル・ドーン」で月に一度「シャマラン☆ナイト」というイベントを開催する人気DJとしても活動をしていたの

    闇夜(やみよる)35 - 村上F春樹
    throwS
    throwS 2008/09/27
  • 闇夜(やみよる)31 - 村上F春樹

    オレはツッパリヨシヅミ、つっぱってる。名は斉藤智文なんだけど、みんながヨシヅミって呼ぶのは石原良純ってのに顔がそっくりだかららしい。オレはそのヨシヅミは知らないが、ヨシヅミって呼ばれるのは嫌いじゃなかった。だからヨシヅミだと名乗る。名はいつかその人の質になっていく。今じゃオレはヨシヅミだからオレなんだと思う。 突然だが少しヘビーな話をすると、オレのマブダチでバンドのベースのジョニーの彼女のテルミが始皇帝の連中に姦わされたのが先々週の金曜。テルミが部屋で首を吊ったのが先週の日曜。学校休んでメールも返さないテルミをおかしいと思ってテルミの家に電話してテルミのお母さんの4年ぶりくらいに喋ってテルミが意識不明の状態で鳥取総合病院に入院してるのがわかったのが月曜。オレはすぐにやばいと思ってジョニーを探したが、ジョニーはもう勝手に復讐に行って、あっさりと返り討ちにあってレンチで頭を殴られて頭蓋骨陥

    闇夜(やみよる)31 - 村上F春樹
  • 闇夜(やみよる)30 - 村上F春樹

    羽鳥が失踪したけれど手がかりがないので私はどーんと構えることにした。だいたいキクリンを探すように頼んだのになんで失踪するわけ?ちょーマジムカつく。私はV6(ぶいろく)の岡田の粗末なモノを忘れるためにパパに無理矢理に入会させられたダンス教室「つきかげ」に顔を出した。準備運動をして身体を温める。それから手足に気合を入れて動かす。wiiフィットで鍛えぬいた足を振り上げる。アン・ドゥ・トロワ。アン・ドゥ・トロワ。アン・ドゥ・トロワ。アン・ドウ・トリャー!アン・ドウ・トリャー!私より先に教室に来ていたエリカとアユミが不細工な顔で私の華麗な舞いに我を忘れているのを私は感じる。ふふふふ。まあ私から見てもエリカのフラメンコは顔と同じで学校で飼ってる鶏が飛び跳ねるみたいな不細工な踊りだし、アユミは努力しすぎな感じが見てて暑苦しいのよね。申し訳ないけれど。まあ、とくと見たまえダンス生徒諸君!アンドウトリャー!

    闇夜(やみよる)30 - 村上F春樹
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    throwS 2008/09/12
  • 闇夜(やみよる)28 - 村上F春樹

    おはよう。 こんにちは。 おやすみ。 さようなら。 ありがとう。 それは、ただの挨拶。Just a 挨拶。誰でもする挨拶。愛する人に、友達に、好きでもない人に、送る言葉。声をかけるその行為そのものによって、それぞれの宇宙を流れる星は一瞬でもお互いを認識できる。真っ暗な孤独の中では、それですら充分に救いになる。だが、俺はもはや挨拶をする人間を一人も失ってしまったらしい。いつからか、こうなった。これは俺の望んだことのはずだった。何も悲しくはない、そうだろう。そういうことなのだろう。考えないようにしているが、俺はおそらく同性愛者なのだと思う。思い出すのも嫌になるが、小学生のとき、あの修学旅行の夜、最悪な形でそのことは露呈してしまった。 全員が俺を蔑み遠ざける中、綾香だけは俺の友達でいてくれた。俺はそれから綾香のことは少しだけ信頼していた。バスケ部の試合の応援で、興奮しすぎた綾香が拡声器で「オジャ

    闇夜(やみよる)28 - 村上F春樹
  • ケータイ小説『闇夜(やみよる)3』 - 村上F春樹

    バイクチーム「婆逝句麺」のキクリンこと菊池凛子が鳥取駅南口のトスク駐車場で盗んだヤマハを駆って福井県の西ナントカってところまでツーリングに行ったきり行方不明になったのを私はガソリンスタンド「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」の店長から教えられた。 「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」は私のバイト先で、似非ブルース・リー信者の店長が「ドラゴン」と付いているだけでブルース・リー主演作と勘違いして命名した恥ずかしいというか引っ込みがつかなくなったというか可哀想なほど馬鹿な店。「東洋一巨大なブルース・リーとチャック・ノリスの看板が目印!」と市内で大々的に宣伝しているけれど、その看板で凛々しくポーズをキメているのだってブルース・リャンと倉田保昭だからバイトに行くたびに泣きたくなる。 泣きたくなるけど辞めないのは一時間に一台くらいしか客が来ない上にセルフ給油でやることがなく暇だから。知り合いだって隣のクラスのカネ

    ケータイ小説『闇夜(やみよる)3』 - 村上F春樹
    throwS
    throwS 2008/08/06
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