<つい。> 夏が近づいてくると、毎年のように思い出す小説がある。 アーウイン・ショーというアメリカの作家の 『夏服を着た女たち』という短篇だ。 決して仲の悪いわけではない中年夫婦のダンナのほうが、 つい、夏服を着た若い女のほうに目をやってしまう。 かいつまんで言えば、そういう小説だ。 乱暴すぎるかもしれないけれど、そういうあらすじで、 それがすべてだと、ぼくは思っている。 この、愛情がどうのこうのでなく、 つい、夏服を着た、つまり肌を陽にさらした女たちを 目が追いかけてしまうという経験は、 たいがいの男たちには思い当たることだろう。 ただ、若いうちは、そのことを告白できない。 つい目が追ってしまうことを、恋人なり妻なりに知られたら 愛情の問題として説明しなくてはならなくなって、 大論争になってしまう怖れがあるからだ。 しかし、中年になったら、ちがう。 それは「つい」なのだ、と言えるからであ