『春にして君を離れ』 アガサ・クリスティー ☆☆☆☆ 再読。アガサ・クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で発表した普通小説の一作目である。つまり、これはいわゆるミステリではなく、殺人事件は起きない。とはいってもそこはミステリの女王クリスティー、きわめてミステリ的な作品である。広義のミステリと言っていいと思う。非常にユニークな小説で、これに似た小説はちょっと他に思いつかない。 主人公のジョーン・スカダモア夫人は娘夫婦が住むバグダードからロンドンに帰る途中、交通機関の支障のため砂漠の町で足止めをくらい、ありあまる時間をもてあまし、砂漠を散策しながらこれまでの自分の人生をとりとめもなく振り返る。夫、子供たち、友人たち、彼らとのやりとり、交わされた言葉、態度。自分は何を恐れているのか、何が自分を不安にさせるのか。自分をよき妻、よき母と信じるジョーンの自己イメージは揺らぎ始め、やがてがらが
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