編集者にとってはありがちな話だけど、たまに「つまらない原稿」に直面することがある。 編集者がリライトできる場合ならまだいい。問題は「あなたの考えや意見を書いてください」と有識者的な存在として寄稿をお願いしていたり、著名だったり大御所だったりする書き手から、それをいただいてしまうときだ。 僕自身、何度か経験がある。 それは、あるビジネス系の雑誌の企画で、こちらでテーマを設定して有識者に寄稿をお願いするという原稿だった。 お願いしたのは、わりと著名な書き手だった。いろいろな媒体で記事を書いていたこともあり、事前に打ち合わせはせず、メールだけのやりとりでざっくりテーマのみを伝えていた。 予定の締め切りから少し遅れて届いたメールには「書けました。相当面白いと思います」という言葉とともに、原稿がワードで添付されていた。 自分からハードルを上げてくる人がたまにいる。たしかにそれだけ自信を持って原稿を送
小田嶋氏が語る、EDGEofの思想 小田嶋 Alex 太輔氏(以下、小田嶋):小田嶋と申します。よろしくお願いします。 まず、EDGEofという会社自体があまり馴染みのないところなので、ものすごくざっくりとご紹介いたします。基本的にやっているのは、いろんなプロジェクトを生み出していくイノベーションプロジェクトのスタジオをまわすことです。 そのために、クリエーター、研究者、スタートアップ、メディア、大企業とのネットワークを構築しています。渋谷のタワーレコードの隣に8階建てのビルをリノベートして、ラウンジがあったり、ルーフトップバーだったり、イベントスペースのような空間を作って、そこでコミュニティを活性化させる活動をやっています。 その活動の一環として、自分たちのネットワークを海外展開させ、海外のイノベーションを日本に持ち込むために、今はパートナーを世界中に作っています。マレーシア、シンガポー
2021年9月8日に開催された新型コロナウイルス感染症対策分科会で「緊急事態措置解除の考え方」が発表された。 緊急事態宣言の解除基準 これは、緊急事態宣言の発出や解除について、感染状況と医療提供体制の負荷の両面を考慮していたものを、主に医療提供体制の逼迫を重視していくことに転換することを示したものだ。高齢者のワクチン接種が進み、感染者の中心が若年層になってきたため、感染者の多くが軽症者や無症状者になってきたことを反映している。また、有効な治療薬が普及し始めたことも感染者数から医療提供体制の逼迫度を重視するようになったことの理由である。 日本でのコロナワクチン接種の開始は、アメリカやヨーロッパ諸国と比べると遅かった。しかし、高齢者への接種が開始された5月以降、職域集団も加わり、ワクチン接種率は早いペースで上昇した。9月10日時点で、1回以上接種した人は61.9%、2回接種完了者は49.8%に
介護という「仕事」を、私たちはどれだけ知っているのだろう。そしてコロナという未曽有の災禍が人と人との距離感を変えてしまった今、その「仕事」はどのような形になってゆくのか。民俗学者から介護職に転身、聞き書きという手法を取り入れた『驚きの介護民俗学』著し、実践してきた著者が、かつてない変化を余儀なくされた現場で立ちすくんだ。けれどそんな中で見えてきたのは、人と人との関係性そのものであるという介護。その本質を、今だからこそ探りたい――。介護民俗学の、その先へ。 ◆ ◆ ◆ 星に願いを 6月中旬、七夕祭に向けて、スタッフたちは利用者さんたちと準備を始めていた。まずは、折り紙で天の川や笹の葉、星等の色とりどりの七夕飾りを作り、デイルームの天井を飾った。スタッフのカイさんは、トウコさんが折り紙で作った八角形の箱を上手に使って、吹き流しを作って飾ってくれた。箱以外の使い道を考えつかなかった私は、「なるほ
男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望― 作者:イヴ・K・セジウィック 発売日: 2001/02/20 メディア: 単行本 近頃では、「これからは男性同士でもケアし合わなければならない」と言った主張がちらほらとされるようになっている。 この主張がされる文脈は様々だ。「これまでの社会は女性にケア役割を押し付けていたが、これからは男性も平等にケア役割を担うべきである」という問題意識に連なる主張である場合もあるだろう。 また、女性の恋人や妻がいないことで「女性からの承認」を得られないと悩んだり「孤独」になることを恐れる男性に対して、「そもそも"自分は異性のパートナーにケアしてもらうべきだ"という発想を捨てて、同性との相互にケアし合う関係を築く可能性に目を向けてみるべきだ」という批判込みのアドバイス的な意味合いで、「男性同士のケア」が提唱される場合もある。 そして、「マウントを取り合う」「
制作費が下がったら、肌荒れが減った ーー先ほど戸田さんが「芸能人というだけで特別扱いをされる」という話をしていましたが、警察官も、それだけで嫌われ役になってしまうなど、ちょっと通じるところがありますよね。 泰:そうですね。ただ、そういう辛い中でも、やっぱり漫画に描かれているような警察官としてのやりがいとか喜びみたいなものはあります。お二人は芸能界で働いていて、幸せを感じる瞬間はありますか? 戸田:美味しいご飯を食べているとき、ですかね。 永野:確かに!私もそうです。 泰:すごい、私でも共感できる回答ですね。 戸田:警察の方とかも、時間がないからパンとかおにぎりとかそういうコンビニのもので軽く済ませるっていうじゃないですか。撮影現場では美味しいお弁当を用意してくださっているんですけど、美味しいご飯を食べに行ったり、家でご飯を作ったりする時間がないので、そのような普通の生活がすごく幸せだなって
ポリコレへの反発 筆者のツイートに寄せられた批判的なリプライを動機づけているのはおそらく、ナチスを「絶対悪」としてきた「政治的正しさ(ポリコレ)」の専制、学校を通じて押し付けられる「綺麗事」の支配への反発である。ナチスの「良い政策」をことさらに強調することで、彼らは自分たちの言動を制約する「正義」や「良識」の信用を貶め、その「抑圧」からの脱却をはかっているのである。 こうした姿勢には、ポストモダン的な価値相対主義の影響を認めることができるかもしれない。事実、筆者に寄せられた批判のなかには、中国の人権問題などを持ち出して、ナチスの戦争犯罪を相対化しようとする主張が数多く含まれていた。 「ナチスを批判するのに中国を批判しないのはおかしい、ダブルスタンダードではないか」というわけだが、中国がいかに酷い弾圧を行っているからといってナチスの悪行が免罪されるわけではなく、両者はあくまで別個の問題である
本連載は2022年9月に書籍化されました。 コリン・ターンブル『ブリンジ・ヌガグ――食うものをくれ』幾野宏 訳(筑摩書房、1974年) 民族誌には、調査に裏付けられた客観的な記述・分析だけでなく、人類学者自身が長く現地に住み込んで人々の知恵や生き方に触れるなかで、魅せられたり心動かされたりした率直な思いが吐露されることが多い。盗みや暴力、紛争などをテーマとする民族誌も多々ある。だがどれほど過酷な状況や露悪的な事態があっても、人類学者はそこに「社会」があり、それを成り立たせる独自の論理や実践、人間性があることを見いだしてきた。実際、民族誌は、国家なき社会とは、トマス・ホッブスが述べるような「万人の万人に対する闘争」ではないことを明らかにしてきた。 そうした民族誌の中で『ブリンジ・ヌガク――食いものをくれ』(1974年、原著は1972年)は、異彩を放つ。本書は、「人間性」として現代の私たちが一
内田樹先生と三砂ちづる先生の往復書簡による、旧くてあたらしい子育て論。ともに離婚により、男手で女の子を育てあげた内田先生と、女手で男の子を育てあげた三砂先生。その経験知をふまえた、一見保守的に見えるけれども、実はいまの時代にあわせてアップデートされた、これから男の子・女の子の育て方。あたらしい世代を育てる親たちへのあたたかなエール。 第2便・A なぜすべてにそう悲観的なのか? 内田先生 お便りありがとうございます。 ご多用な中、往復書簡企画をお受けくださいまして、あらためてお礼申し上げます。便箋を取り出してペンを取っているわけではありませんが、こうして落ち着いてパソコンに向かって内田先生にお便りを書く、ということに喜びを感じます。どうぞよろしくお願いいたします。 お便りっていいですよね。メールもSNSもなかったころ、って、誰かに親しく文章を送る方法は手紙しかありませんでした。それって、20
フリーランスは、70、80まで働くことを想定しないといけない ――それでも倉田さんはいま「描く人」が一番の目標ということですよね。フリーランスで長年仕事をやり続けるための極意も、Twitterで発信されていました。 倉田 20代の人が「ちょっとフリーでやってみようかな」って言う「フリーランス」って、10年先も見てないことが多い。大体3、4年後とかね。でも違うんですよ! われわれは退職金がないから、その分まで働かなきゃいけない。 だとすると70、80まで働くことを想定しないといけないわけですけど、漫画業界でそこまで息長く描き続けるためには相当いろいろやらないと生き残れないです。特に私がやってるギャグ漫画というジャンルは寿命が短い。やっぱりギャグのキレって若いほうが面白いし、絵柄も感覚も古くなってしまうから。 漫画は『鬼滅の刃』みたいに一発当たるとデカイんだけどね。小学生のランドセルに鬼滅のキ
文:岩本恵美 写真:有村蓮 島田潤一郎(しまだ・じゅんいちろう) 1976年、高知県生まれ。大学卒業後、アルバイトや派遣社員をしながら小説家を目指していたが挫折。2009年9月に33歳で夏葉社を起業し、ひとり出版社のさきがけ的存在に。著書に『古くてあたらしい仕事』(新潮社)、『あしたから出版社』(晶文社)、『90年代の若者たち』(夏葉社 岬書店)がある。 Twitter 夏葉社 島田潤一郎さんが選んだ「はたらく」を考える本 1. 『銀座界隈ドキドキの日々』(和田誠、文春文庫) 2. 『誰がアパレルを殺すのか』(杉原淳一・染原睦美、日経BP社) 3. 『チボー家の人々』(ロジェ・マルタン・デュ・ガール[著]/山内義雄[訳]、白水Uブックス) 仕事は遊び場。和田誠さんに教えてもらったこと 1. 『銀座界隈ドキドキの日々』(和田誠、文春文庫) 夏葉社を始める前だから、30代前半のころに読んだ本で
そうしたオンラインサロンで何かを獲得し、当のインフルエンサーを凌ぐほどに成長した人材を私は寡聞にして知らない。 他方、オンラインサロンの活動の一環として宣伝に努める人やオンラインサロンを脱会した人の話はよく聞こえてくる。彼ら・彼女らの話を聞く限りでは、オンラインサロンが実際に参加者を「何者か」にする場所として、つまり実用的な技能習得やコネクション獲得の場として機能しているようには思えない。 しかし、オンラインサロンには「何者かになりたい」と願う人や「何者にもなれない」と悩んでいる人を惹きつけ、一時的にせよ願望を充たし、代償を支払わせる機能があるのは間違いない。オンラインサロンにいれば、「○○の身内である自分」「みんなと一緒に○○を担ぎ上げている自分」といったアイデンティティを(一時的にせよ)獲得できるからだ。 オンラインサロンのなかには参加者に人生の大きな決定を促し、その結果、会社員や公務
寺子屋ネット福岡の代表として、小学生から高校生まで多くの十代の子供たちと関わってきた鳥羽和久さんの連載です! 十代の子供たちが学校や家庭で直面する諸問題について、見て見ぬふりをせずに根掘り葉掘り考えます。 この連載は大幅に加筆し構成し直して、『君は君の人生の主役になれ』(ちくまプリマー新書)として刊行されています。 刊行1年を機に、多くの方々に読んでいただきたいと思い、再掲載いたします。 いきなりですが、これを読んでいる皆さんは学校が好きですか? 友達に会える場所だから好きだという人もいれば、めんどくさいから嫌いだという人もいると思います。もっと具体的な理由、たとえば、担任の先生が苦手だとか、友達と最近うまくいっていないという理由から、好きになれない人もいるかもしれません。中には、好きになれなかったから学校に行かなくなった人もいるでしょう。 いま学校が楽しい人は、とても運がいい人です。しか
カナダのブリティッシュコロンビア州で、先住民向けの寄宿学校の跡地から215人の子供の遺骨が発見された。過去の記録によれば、この宿舎学校で命を落とした先住民の子供の数は51人とされていたが、レーダーを使って学校の跡地を捜査したところ、記録の4倍以上もの遺骨が見つかった。カナダに住んでいても、先住民向けの宿舎学校がそもそもどんな場所で、そこでどんな酷いことが起きていたのか、知らない人が多い。 宿舎学校とは、19世紀後半から近年まで、先住民の子供に同化教育を提供するために設立された施設で、キリスト教会によって運営されていた(もっと詳しく学びたい人はこちら)。宿舎学校の目的は、先住民の子供を家族、コミュニティ、言語、文化から切り離し、白人キリスト教を強要させ、「先住民としての資格」を剥奪するためにあった。宿舎学校に連れて行かれた子供たちは身体的虐待、心理的虐待、性的虐待を受け、劣悪な生活環境の元で
メディアなのか? プラットフォームなのか? 「個人」で発信する“こわさ”。 それは記事を書く時にいつもつきまとうものだった。 「Yahoo!ニュース個人」の場合、発信する「場」が提供されているものの、発信の責任は最終的に自分自身に返ってくるという“こわさ”があった。 そこが従来のメディアとは決定的に違う点だった。 従来のメディアであれば「編集部」が原稿などの記事内容を「事前」にチェックする。たとえば新聞やテレビ、雑誌では「編集者」「デスク」「プロデューサー」などという役割の人間が事前に原稿に目を通してチェックして最終的にOKを出したものだけが世の中に出る。 何か問題があった場合の「責任」も編集部が引き受けてくれる。 そうした行為がそれぞれの媒体における「編集」という役割だが、それが「Yahoo!ニュース個人」には事実上は存在しなかった。責任を組織ではなく、書き手が一人で引き受ける。 毎回、
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