ブックマーク / prozorec.hatenablog.com (16)

  • 呪いを解く者 - 隠居日録

    フランシス・ハーディングの呪いを解く者 (原題 UNRAVELLER)を読んだ。 この物語はラディスという架空の国が舞台のファンタジーだ。ラディスには<原野ワイルズ>と呼ばれる霧に包まれた森が隣接しており、そこには不思議な力を持つ生き物が暮らしている。特に厄介なのは蜘蛛に似た<小さな仲間>で、この生き物は人間に呪いの力を与えるというのだ。誰かを強く憎むことがきっかけで、<小さな仲間>により「呪いの卵」がもたらされ、それがやがて呪の力を持つ「呪い人」を生み出してしまう。呪い人は憎んだ相手を別な生き物や物に変える力を持ち、恐れられている。この国にある政務庁は<原野ワイルズ>を排除すべく100年前に行動を起こしたが、結局混乱をもたらしただけで、原野と和平を結ぶしかなかった。以来協定は守られている。 この世界にひょんなことから呪い人の呪いを解ける者が現れた。それが15歳の少年のケレンである。ケレン

    呪いを解く者 - 隠居日録
  • ヒトはなぜ戦争をするのか?―アインシュタインとフロイトの往復書簡 - 隠居日録

    アインシュタインとフロイトの往復書簡 ヒトはなぜ戦争をするのか?を読んだ。 講談社のサイトにこのの紹介があって、興味を持ったので読んでみた。 この二人が書簡を交換し、究極的な「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」への回答が得られているのなら、その後の戦争を回避し、我々は平和に暮らしていただろう。しかし、そうはなっていないので、人間を戦争から解放する方法は二人の間では見つからなかったという事は明白で、それはこのを読む前からわかっていた。何の驚きもない。むしろ、この書簡の注目すべき点は、解説で養老先生が指摘しているが、時代性だろう。我々はその後何が起きたのか知っているので、そのことを踏まえてアインシュタインの身に何が起きどう行動したのかを見ると、何とも言えない気持ちになる。 1932年 「ヒトはなぜ戦争をするのか?」の書簡を送る 1933年 ナチスが権力を握る。ナチスから

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  • 津田梅子 科学への道、大学の夢 - 隠居日録

    古川安氏の津田梅子 科学への道、大学の夢 を読んだ。以前から不思議に思っていたのだが、明治政府は5人の少女をアメリカ留学に送り出したが、これは明治政府の中の誰の案なのだろう?どういう組織がかかわっていたのだろう?そして、その目的あるいは期待していたのは何なのだろう?これらのことが疑問ではあったが、なんとなく調べずに今まで来てしまった。そして、たまたまこのが出版されているの気づいたので、疑問点が解消するかもしれないと思い読んでみた。 女子を官費留学としてアメリカに派遣することを建議したのは北海道開拓使次官の黒田清隆だった。黒田はアメリカを視察したときに、アメリカ女性は教養があり、社会的地位が高いことに驚き、それは教育によるものだと考えたようだ。黒田は特に就学前児童にとって母親の家庭のおける影響を重視し、賢母養成のための女子教育・家庭教育の必要性を訴えた。 1871(明治4)年秋、黒田の建議

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  • AI監獄ウイグル - 隠居日録

    ジェフリー・ケインのAI監獄ウイグル (原題 The Perfect Police State)を読んだ。数年前から新疆ウイグル自治区で行われていると言われている著しい人権侵害について書かれているだ。色々な所から入ってくる情報を見ていて、なんとなくわかっているつもりでいたが、このを読んで、一体ウィグルで何が起きているのかよくわかった。そこは正にあのジョージ・オーウェルの「1984」の世界だ。 町中におびただしい数の監視カメラがあり、そのカメラはスタンドアローンではなくネットに接続されて、ほぼリアルタイムで画像処理されている。しかも、当局が必要と判断すれば、一般家庭のリビングにまでカメラが設置できるのだ。これこそまさに「1984」の世界だ。そして、移動の度にIDを確認され、スキャンされる。DNA、血液、顔写真などの身体情報を取得され、拒むと何が起きるかわからない。いつもと違う行動をすると

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  • 同志少女よ敵を撃て - 隠居日録

    逢坂冬馬の同志少女よ敵を撃てを読んだ。書は第11回アガサ・クリスティー賞受賞作で、北上ラジオの第40回で紹介されていた。 甘さが微塵もなく非常に緊密な冒険小説『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬(早川書房)の登場に驚愕すべし!【北上ラジオ#40】 - YouTube アガサ・クリスティー賞というのが存在しているのも知らなかったし、それがもう10回以上の続いていることも知らなかった。北上氏はこの賞の選考委員でもあるようだ。アガサ・クリスティーの名を冠してるが、純粋なミステリーだけではなく、冒険小説、スパイ小説、サスペンス等も対象となっているようで、書はどちらかというと冒険小説の範疇なのだろう。復讐の物語でもあるが。 物語の時代は第二次世界大戦中であり、ソ連で大祖国戦争と呼ばれている、対ナチス・ドイツとの戦争の時代の女性狙撃兵小隊の物語だ。主人公のセラフィマはモスクワの近くにあるイワノスカヤ村

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  • 消失の惑星 - 隠居日録

    ジュリア・フィリップスの消失の惑星ほし(原題 DISAPPEARING EARTH)を読んだ。書はロシアのカムチャッカ半島を舞台にしている小説なので、ロシア人の作家が書いた小説だと思っていたのだが、作者のフィリップスはアメリカ人だ。高校生の頃からロシアに興味を持ち、大学生の時に四カ月ロシアに留学したり、奨学金を得て書の執筆のためのリサーチをカムチャッカ半島で2年間行ったようだ。 物語の最初は8歳と11歳の姉妹がカムチャッカ半島ペトロパヴロフスク・カムチャツキー市で何者かに誘拐されるところから始まる。それは後にゴロソフスカヤ姉妹失踪事件として知れることになる。目撃者がいたので、最初は誘拐事件として捜査されるのだが、犯人の痕跡が乏しく、やがて警察は事故で溺れたのだという結論に達し、事件の捜査自体縮小されていく。この事件が起きたのがある年の8月で、この物語はそれから一月毎13人の女性が語り手

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  • 空のあらゆる鳥を - 隠居日録

    チャーリー・ジェーン・アンダーズの空のあらゆる鳥を (原題 All Birds in the Sky)を読んだ。書は2016年に刊行され、翌年ネビュラ賞長編部門、ローカス賞ファンタジー部門、クロフォード賞を受賞している。これだけの賞を受賞しているのだから、それなりに面白いのだろうと思って読み始めたのだが、自分にはあまり合わなかったようだ。 書はSFというよりはファンタジー寄りの作品だと思う。だとしても、ちょっとリアリティに欠けるような気がする。物語の時代は現代とさほど変わらない時間だと思われる。魔法使いの少女パトリシアと天才的な少年エンジニアのローレンスが出会ったことで、やがて世界が滅亡するような危機が訪れることになりそうだという事を謎の殺人結社の男が知るところになる。未成年を殺してはいけないという謎の掟のため、彼らを暗殺することはできないので、彼らの仲を引き裂き、別々な道を歩ませよう

    空のあらゆる鳥を - 隠居日録
  • 暗闇にレンズ - 隠居日録

    高山羽根子氏の暗闇にレンズを読んだ。書は一言でいうなら加納照に繋がる一族の物語だ。物語はSide Aで語られる現在とさほど遠くない時代の物語とSide Bで語られる加納照に繋がる一族の映像にかかわる物語が交互に現れる。ただし、Side Bには明治の頃からの加納照達の物語だけではなく、映像に関する歴史的な説明や挿話が差し込まれる場合もある。Side Aは二人の女子高生が作った映像作品にまつわるストーリーになっているが、その世界では今の我々の世界よりも監視カメラが至る所にあり、彼女らはその監視カメラをもスマートフォンで撮影して、自分達の映像作品に組み込んでいく。監視カメラのレンズをカメラでとらえるのだ。Side Bでは我々の知る歴史とはちょっと違うようなことも語られていて、特に兵器としての映像の話が興味深かった。どこかで、この映像兵器の話が膨らんでいって、Side Aにある監視カメラのような

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  • 麻薬と人間 100年の物語 - 隠居日録

    ヨハン・ハリの麻薬と人間 100年の物語(原題 Chasing the Scream: The First and Last Days of the War on Drugs)を読んだ。 このに書かれていることは自分がなんとなく麻薬について理解していたことと全く違っていて、読み終わってもちょっと頭の整理がついていない。麻薬には常習性を引き起こす作用があり、繰り返し使っていると常習者になると思っていたのだが、それは間違いだった。 麻薬戦争語のタイトルには100年の物語と書かれていて、麻薬なんてもっと昔から存在するのになぜ100年なのだろうと思ったら、それは1914年にアメリカで麻薬を禁止した法律「ハリソン法」が制定されてから約100年という事で、この「100年」の意味するところは英語の原題にある麻薬戦争が100年続いているという事だ。しかも、100年も戦い続けているのに、未だに勝利の

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  • へんぶつ侍、江戸を走る - 隠居日録

    亀泉きょう氏のへんぶつ侍、江戸を走る。作の主人公は明楽久兵衛で、将軍様の駕籠担ぎである御駕籠之者組に属する御家人なのだが、今でいうところのアイドルオタクで、深川芸者の愛乃に入れ込んでいる。なので組中の同輩からは変物と呼ばれている。今日も今日とて、剣の稽古も四半刻で終えて、いそいそと深川に出かけていったのだが、どうしたことか目当ての愛乃はついさっき亡くなったという。一体何がどうしてそうなったのかわからない久兵衛は、愛乃の住んでいた長屋に行き、行きがかり上愛乃の亡骸を叔父という茂吉の所まで早桶代わりの油桶を担いでいくことになってしまった。そして、そこで愛乃が実は毒を盛られて殺されたのではないかという疑いが出てきたのだった。 物語はこの愛乃の殺害をめぐる事件に久兵衛が巻き込まれていくのだが、その裏には幕政を揺るがすような大悪事があったという風につながっていく。前半から中盤までは愛乃の殺害の謎を

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  • 約束の果て 黒と紫の国 - 隠居日録

    高丘哲次氏の約束の果て 黒と紫の国を読んだ。この小説は南朱列国演義と歴世神王拾記と青銅器の物語。あるいは、梁親子から田辺親子に託された偽史と小説をめぐる物語だ。事の発端は伍州の南端で発掘された矢をかたどった装身具のような青銅器であった。それを調べていた考古学研究所の梁斉河は、青銅器の軸の部分に「壙国の螞九、臷南国の瑤花へ矢を奉じ、之を執らしむ。枉矢、辞するに足らざるなり、敢えて固く以て請う」と書かれているのに気づいた。しかし、伍州には壙という名の国も臷南という国も歴史的には存在していない。付属図書館で調べると「南朱列国演義」と「歴世神王拾記」という二書の中に壙と臷南の名前を見つけたが、「南朱列国演義」は小説であり、「歴世神王拾記」は偽史であるとされている。 物語は三つの軸で進んでいく。一つは梁斉河が調べていた「南朱列国演義」、「歴世神王拾記」と青銅器が息子の梁思原から日の田辺幸宏へ、そし

    約束の果て 黒と紫の国 - 隠居日録
  • 泳ぐ者 - 隠居日録

    青山文平氏の泳ぐ者を読んだ。 書は半席に登場した片岡直人を主人公とするミステリーで、前巻同様に事件の裏に潜む「なぜ」をあぶりだすのが物語の肝になっている。前巻は短編集だったが、作は長編で、中に2つの「なぜ」が含まれている。 一つ目は、六十歳の武家が重い病にかかり、隠居した。そのような状況にもかかわらず、なぜかを離縁した。理由は同じ墓に入りたくないからとだと息子には明かしたらしい。それから三年半後、離縁されたが武家を懐剣で刺し殺した。殺した者も、殺されたものも明らかだが、なぜ殺したのかは離縁されたが秘して語らないのでわからない。 もう一つは、直人がたまたま行き会った男の事件。大川橋の傍の駒形堂から対岸の多田薬師の辺りまで大川を泳いで往復する男がいた。それももう冬になろうという十月の頃だから不思議だし、男の泳ぎも達者には見えないので、猶更不思議な事だった。直人は男を蕎麦屋に誘い仔細を

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  • 宇宙の春 - 隠居日録

    ケン リュウの宇宙の春を読んだ。書は短編集だが、アメリカで出版されたを翻訳したというわけではなく、日で収録作品を選定して出版したオリジナルの短編集のようだ。収録作品は「宇宙の春」、「マクスウェルの悪魔」、「ブックサイヴァ」、「思いと祈り」、「切り取り」、「充実した時間」、「灰色の兎、深紅の牝馬、漆黒の豹」、「メッセージ」、「古生代で老後を過ごしましょう」、「歴史を終わらせた男――ドキュメンタリー」の10編。 「マクスウェルの悪魔」は沖縄出身の日系二世の女性が、第二次世界大戦中のアメリカの日人収容所からスパイとして日に送り込まれ、沖縄で極秘に開発されていた画期的なエネルギー装置の開発に触れる話で、それがマクスウェルの悪魔で、霊を悪魔の代わりにしているというところが一つの肝。確かに霊的なものならどこからもエネルギーを得る必要がないからマクスウェルの悪魔になりうるか。しかし、この話は非

    宇宙の春 - 隠居日録
  • 隠された悲鳴 - 隠居日録

    ユニティ・ダウの隠された悲鳴(原題 The Screaming of the Innocent)を読んだ。アフリカのボツワナのハファーラという村でネオという名の12歳の少女が行方不明になった。村人や警察が1週間かけて捜査したが、行方はつかめず、死体も発見できなかった。その後、血の付いた少女の服が発見され、警察に届けられたが、その証拠品は忽然として警察からなくなり、事件はライオンにより襲われたという結論をもって、捜査は終了した。しかし、遺体や骨の一部も見つからなかったのだ。だから、村人は納得できなかったが、それ以上なすすべがなかった。それから5年後、国家奉仕プログラムの参加者としてアマントルはハファーラにある診療所に派遣された。彼女は診療所の助手として働けると思っていたのだが、割り当てられた仕事は倉庫の片付けだった。だが、アマントルはその倉庫で、紛失されたあの少女の服を発見したことで、止まっ

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  • オーブランの少女 - 隠居日録

    深緑野分氏のオーブランの少女を読んだ。著者のデビュー短編集で、「オーブランの少女」、「仮面」、「大雨とトマト」、「片思い」、「氷の皇国」の5編が収録されている。それぞれ、異なった味わいの短編なのだが、あえて言えば、最初の「オーブランの少女」と最後の「氷の皇国」は小説の構造が似ている。 前者の「オーブランの少女」はオーブランという庭園の管理人の姉妹が相次いで死んだ。姉は謎の老婆に殺され、妹は自ら命を絶った。妹の残した日記には、このオーブランという庭園の秘密が書かれていて、何があったのかが明かされる。後者の「氷の皇国」はある港町で猟師の網に干からびた死体がかかった。その死体はどこか河の上流から流れ着いてきたようなのだという話になり、かって上流にあったユヌースクという皇国の物語を吟遊詩人が語り始めるのだった。つまり、死体が現れ、何が起きたのかが次に明かされるという構造だ。この2つは面白かった。そ

    オーブランの少女 - 隠居日録
  • 夜の声を聴く - 隠居日録

    宇佐美まこと氏の夜の声を聴くを読んだ。この作品は北上ラジオの第23回で紹介されていた。 宇佐美まこと『夜の声を聴く』(朝日文庫)は、つらく悲しいドラマの先に素晴らしい読後感が待っている魔法のような小説だ!【おすすめ/北上ラジオ#23】 - YouTube ラジオの中でも言及されているが、不思議な構成のミステリーだ。連作短編のような感じの作りになっているのだが、それぞれのエピソードにタイトルがついてない。代わりに1、2、という章番号がついているが、章の区切りがエピソードの区切りにはなっていないのだ。前半にある色々なストーリーは全て後半にあるメインのストーリーのためのお膳立てなのではないかという感じがした。前半には3つのエピソードが用意されている。「飛び降りと死んだカブトムシの幼虫」、「タヌキになって帰ってきた死んだ息子」、「別れた母と妹」。前半2つはミステリーになっているが、最後のはミステ

    夜の声を聴く - 隠居日録
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