『この世界の片隅に』が描かなかったもの 2016年に公開されたアニメーション映画『この世界の片隅に』(片渕須直監督)は、観客から絶大な支持を集めた作品として今も記憶されています。なぜ、戦争をテーマにしたこの作品が支持を集め、ロングランのヒットとなったのか。当然ながらこの映画の内容に多くの人が共感したからにほかなりません。 満州事変から敗戦に至る十五年戦争を背景に、主人公の少女すずさんが成人して結婚し、戦争が激化する中で苦難に耐え、明るく希望を失わず夫や家族と共に生きてゆく姿に感動を覚えた人も多いことでしょう。この作品のヒットは、木下恵介監督の『二十四の瞳』(1954年)や市川崑監督の『ビルマの竪琴』(1956年)が当時の観客から絶大な支持を集め、今も日本における反戦映画の名作として位置づけられていることの延長線上にあります。 映画『この世界の片隅に』チラシ その一方で、日本では、ホロコース