日本最古の登山の痕跡(こんせき)はいつの時代のものか。なんと、縄文時代にさかのぼる。1930年に考古学者、藤森栄一(ふじもりえいいち)が八ケ岳連峰南端の編笠山(あみがさやま)の海抜2400メートル付近で見つけた黒曜石(こくようせき)のやじりである▲縄文人の石器が「狩猟」でなく「登山」の痕跡だというのは、そこがシカやイノシシの生息する標高をはるかに超えていたからだ。貧弱な石器で原始林を切り開き、山頂近くまで達した努力は「当然、登山史の第一ページにあげられてしかるべき」だと藤森は記した▲小(こ)泉(いずみ)武栄(たけえい)著「登山の誕生」から孫引きさせてもらったが、「そこに山があるから……」の名言を思い起こさせる。ともかく山地が7割超を占める日本列島である。住民のなりわいや暮らしにおいても、宗教や精神生活においても、歴史の始まりから山はそこにあった▲で、きょうは新たに設けられた祝日「山の日」で