「とても大きい」のような「とても」の使い方は、昔は間違いとみなされていたと聞きました。本当でしょうか。 1. 「とても」の歴史 「とても」という言葉は、古代から現代に至るまでに意味や用法の大きく変わった語として、しばしば研究で取り挙げられてきました(涌井澄子「程度副詞「とても」の研究―陳述副詞から程度副詞への用法の変化を中心に―」、吉井健「「とても」の語史」等)。国立国語研究所コーパス開発センター編の『日本語歴史コーパス』注1を使って、「とても」の流れを確認してみます。 まず「とても」の語源ですが、「とてもかくても」を略したものと見られています。中世ごろには、現代の「大変」「非常に」のような程度副詞的な意味ではなく、「どうせ」「いずれにしても」「どうあろうと」のような意味を表す陳述副詞として用いられていました。次の例は、室町時代の話し言葉を反映する資料とされる『虎明本狂言集』のものです。