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ブックレビュー
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前回の記事では他の先進国の住宅ローンの変動比率を見て来たが、投資とは別に我々の実生活に最も関連が高い日本はどうだろうか。日本はリーマンショック前は米国と同様、固定金利住宅ローンが大半を占めていたが、リーマンショックを経てかなり長い期間にわたって低金利政策が続くとの見方が圧倒的になると変動金利住宅ローンのシェアが上がって来た。マイナス金利政策導入後はその傾向が更に加速し、変動金利住宅ローンのシェアはフローベースで7割まで上昇した。海外ではカナダのようにパンデミック後の低金利時代に目先の金利に釣られて変動金利化が進んだケースがあり、それが利上げサイクルに入った今になって裏目に出ている。日本銀行も既にYCCを撤廃しており、次は利上げ(マイナス金利政策撤廃)をも警戒する必要が出てきたが、住宅市場には住宅ローン金利急上昇による激震が走るのだろうか。 変動金利の決まり方と短プラ 本ブログは例のごとく極
年末を前に日本銀行が唐突に今までのイールドカーブ・コントロール(YCC)政策における10年国債金利の誘導幅を±0.25%から±0.50%まで拡大した。今まで誘導幅上限の+0.25%に張り付いていた10年国債利回りは直ちに+0.50%に近付いた。金利スワップ市場は既にこの修正を事前にフル・プライスインしていたが、アキレスと亀のように国債金利が近付いて来るとスワップ金利は更に上昇した。2016年のYCC導入以来6年余りにわたって10年国債金利が概ね±0.25bpの50bp幅の水準で変動していたのに対し、20日の1日で20bp上昇した時の日本国債市場(排他的である上で参加者が減ったので村と呼ばれる)への衝撃は推し量れる。為替相場もドル円の1日の下落幅が前回の為替介入の日をわずかに上回り、20世紀で最大の単日値幅となった。ドヤ 本ブログなどは4月の時点でYCCの持続可能性に疑問を呈してきた。もっと
This is why Facebook $META is down 70% in a year and 20% today. 23 year old product manager just took the stock down to the ground. pic.twitter.com/OvnBPC44PL — Inflation Tracker (@TrackInflation) October 26, 2022 ここ数年米国のGAFAMをはじめとするメガテックの待遇のよさは話題になってきた。製品の競争力が強すぎて一旦入社すれば馬車馬のように働かなくても高給にあり付けるということで憧れの的だったし、2022年にテック株がクラッシュしてもそのカルチャーはしばらく変わらなかった。10月の決算期になると株安でピリピリしているところにMetaの23歳のプロダクトマネージャーがアップした優
世界中が一斉に金融引締めに差し掛かる中、不動産市場への打撃の懸念が話題になっている。長期金利の上昇に連動する形で住宅ローン金利が上がれば、当然借りる人は減るし、借りられる金額も減って来るので住宅価格はその分ディスカウントになりやすい。住宅価格の調整のペースや調整幅は国によって異なっており、日経新聞などは「利上げで先んじた国や市場が過熱していた国」ほど調整が深刻としており、また家計債務の大きさに注目している。それでは利上げが遅れた国々も遅れて調整がやってくるのか。 本ブログは先立って米国の不動産市場について調査していたが、一度消費者が大挙して固定金利で30年以上借りてしまい金利リスク(及び金利上昇後の損失)を世界中の機関投資家に転嫁してしまった後の、不動産市場の引締めの効きづらさにはため息が出るばかりであった。固定金利住宅ローンの金利を引き上げたところで新たにローンを組みづらいだけで既に借り
本ブログは長らく新型コロナウィルスについて触れないできたが、その間新型コロナウィルスはほとんど中国だけの問題になっている。2020年の武漢でのブレイクアウトがグローバル・パンデミックに繋がり、2年の時を経て一周して出発点に戻って来たのである。これもまた以前の記事の見立て通りだったのだが、直近になって急に中国のリオープン(経済再開・正常化)の話題が盛り上がっている。成長が鈍った、また世界経済のサイクルからデカップリングされているとはいえ中国経済の存在感はいまだに大きく、そのリオープンには注目が集まっている。人の移動が戻れば消費と所得のサイクルが戻ってくる。一方で世界中に大挙して旅行客が溢れ出た場合はインフレの再燃を招きかねないとも警戒されている。 今回のリオープン相場は完全に投資銀行が主導したものである。出所不明のリオープン計画スクリーンショットの流出に続き、中国疾病予防抑制センターの疫学首
先進各国が金融引締めを加速させる中、黒田日銀が頑なにYCCと金融緩和を止めないことから円安が加速した。その過程でまず山崎・元財務官が為替介入の可能性を警告し、その後9/22夕刻についに24年ぶりの円買い介入が決行された。ほとんどリアルタイムで神田財務官が為替介入の実行を通告した。ドル円レートは一時5円以上下落したが、当日を底に徐々に水準を回復し、10月に入ってから新高値を取っている。結果的に為替介入は一時的に押し目を作っただけという形となるが、これだけの米金利上昇があってもドル円が高値回復に数週間も要したのは為替介入の効果と言えるだろう。 為替介入の正式名称は「外国為替平衡操作」であり、財務省が決定し、日銀が代理人として民間銀行との為替取引を行う。その原資は日本の外貨準備の大半を占める財務省の外国為替資金特別会計であり、他にも日銀が過去に受け取った米ドル利子をプールしたものも外貨準備に数え
久々にドンバス戦線について。前回の記事はマリウポリ陥落の直前にあたる3ヶ月ほど前になるが、その後3ヶ月の戦闘の様子は前回の記事の描写の域から逸脱していない。前回の記事を繰り返すだけでその後のドンバス前線の展開の描写になる。 「(ウクライナ軍が)ここまで善戦できたのは8年間のドンバス紛争への輪番参加で鍛えた練度に加え、恐らく市街地に籠って防御に徹し、マンションを含むコンクリート建造物を利用して数と火力の不利を補ってきたからであり、それは防御で発揮した強さが都市の外に討って出る野戦では必ずしも再現されない可能性を示唆する」 「ドンバス前線は8年にわたる紛争の間にウクライナ軍によって野戦陣地が至る場所に築城され、要塞化された村とそれらを繋げる塹壕の集合体となっている」「陣地防御への依存は諸刃の剣になり得る」「近付いてきた敵に一撃与える→反撃を呼ぶ→トーチカ破壊」の繰り返しではどんな優秀な将兵も消
月末月初に発表された米国経済指標はデフレーショナルなものが続いた。コアPCEデフレーターの前年比伸び率は3ヶ月連続の減速となりピークアウトが鮮明になっている。サンフランシスコ連銀が分析を始めたコアPCEの要因分解ではコロナ後のインフレは供給要因(サプライチェーンの制約)と需要要因が半々ずつということになっている。需要要因は年初をピークに緩やかな低下が始まっており、残りの供給要因(制約)は高止まりつつもマージナルに改善している。 次にこれまで妙に堅調だったISM製造業は一気にデフレーショナリーに振れた。サプライヤー・デリバリー(入荷遅延)の急降下が話題になった。これはサプライチェーンの逼迫度合いを象徴するシグナルとして知られており、一般的に経済が過熱すると注文に生産が追い付かない工程が増えて来るため、入荷遅延が増える。入荷遅延が長期化すると値上げ圧力に結び付きやすく、同じ議論は2018年の利
仮想通貨コミュニティで互いに関連がある大惨事が同時に2つ起きた。時価総額ランキングトップ10圏内でもあったLunaコインの価格が99.99%以上下落した。またLunaによって価値を1ドルに保証されていたステーブルコインTerraUSD (UST)も米ドルとのペッグを失い0.1ドル台で推移している。2つのコインで合わせて600億ドル近い時価総額が吹き飛んだ。ステーブルコインのデペッグへの懸念は更にT-Bill, CD, CPを大量に保有しているステーブルコイン・Tetherにも波及したため、あやうくグローバル金融市場に波及するところとなり、イエレン財務長官も連日コメントすることになった。 ステーブルコインとは安定した価格を実現するように(より具体的には米ドルなどにペッグするように)設計された仮想通貨であり、仮想通貨投資家の余資運用や、銀行決済を回避しながらの貿易代金決済などに用いられる。一口
やや緊張感をもって迎えられた4/28の日銀金融政策決定会合では「連続指値オペを毎営業日行う」というギャグのような政策が発表された。YCC(イールドカーブ・コントロール)の持続可能性への疑念がこの会合で直ちに対処が必要なほど深刻であったことは間違いなかったようで、「それを断つには黒田日銀名物の逆切れ追加緩和しかない」と本ブログもギャグとしては辿り着きかけていたものの、さすがにそれ以上具体的な想像は進まなかった。ハトかタカかという切り方では180度真逆の答えが返ってきたことになる。 毎営業日連続無制限指値オペが「逆切れ」から導入されたことは、記者会見で市場の臆測、余計な臆測、無用な臆測などと「臆測」という言葉を7回も使っていることから分かる。「日本銀行の金融政策としては、10年物金利をゼロ%程度に維持すると、それはプラスマイナス0.25%の範囲内であるということを非常に明らかにしているにもかか
前回の記事ではロシア軍のキエフ近郊からの全面的な撤退の開始、マリウポリの攻防そしてドンバス戦線へのシフトを描いた。攻勢でも勝てなかったキエフ近郊からの撤退に際し、もしウクライナ軍が反撃、追撃に出たら無理に突出していたロシア軍が壊滅的な打撃を受ける可能性まで考慮していたが、現実にはドニエプル川両岸のロシア軍は共に素早い撤収に成功したようである。 ドニエプル川西岸では最後尾の第35諸兵科合成軍がベラルーシに帰投する直前にようやく追い付いた第44砲兵旅団の観測砲撃を食らった程度で、この方面のロシア軍はベラルーシまで逃げ切りそのままロシア領内を鉄道で東に移動した。略奪したTVや大量の服を故郷シベリアに郵送するほど余裕があったようで、ベラルーシを出撃した時から言われ続けた兵站機能に欠陥があったわけでも、大損害を受けたわけでもないことが伺える。「第二次世界大戦後ここまでソビエト・ロシア軍の主力機甲部隊
ロシア・ウクライナ紛争は意外な長期化を見せている。戦局自体は前回の記事の延長上で推移している。キエフ~チェルニーヒウ~ハリコフ間について本ブログは早々に「これ以上の戦闘継続はロシアにとって困難かつ無益である」としていた。またキエフ戦線が主戦場でもなくなっており、南部ではロシア軍による占領地拡大が進んでおり、特にマリウポリの攻防が今後の停戦を含めた戦局の鍵を握るとしていた。マリウポリは今でも激戦が続いており、本ブログが懸念していた人道危機は激しくなりつつある。そしてキエフ~ハリコフ間のロシア軍はもう詰んでいるので早期停戦を期待していたのだが、その後半月経っても停戦協議こそ頻繁に開かれたものの停戦とはならず、かと言ってその間何か打開策を講じたわけでもなかったので、キエフ~ハリコフ間で停滞していたロシア軍はただの反撃の目標に落ちぶれている。 前回の記事では「いずれやってくるこのタイミングでの定石
ウクライナ紛争についての前回の記事は大恥をかいた。「引続きキエフをはじめとするウクライナ本土は安全である」とした翌朝からキエフが空爆を受けたのである。もし現地に住んでいてそのような判断をしていたら死ぬところであった。ドンバス戦線への介入に続き、プーチンは2/24に「特別軍事作戦」と称してウクライナに全面的な宣戦布告を行った。前回の記事でドンバス紛争介入について「落としどころに到達したわけではない」「(そのままでは)ウクライナの大勝利である」までは分かっていたのに、プーチンが怒りに任せて更に全面戦争を仕掛けて来るとまではまさか思わなかったのである。前回の記事ではロシアの言い分にもそれなりの紙面を割いたのだが、どれを取ってもウクライナが全面的な侵略を受けなければならない理由にはならず、侵略戦争には旗幟を鮮明にして反対していかなければならない。当然ロシアはその後SWIFT締め出し、中銀資産凍結を
原油高で元気があり余っているロシアがウクライナを軍事的に圧迫している。2021年後半から断続的にウクライナとの国境地帯に軍隊を集結させ、ベラルーシも巻き込んで演習を続けてきた。集結した軍隊の数は10万後半と言われており、これは旧ソ連末期の東欧に駐留していない二流非駐師団で言うと40個師団にあたり、第二次世界大戦終結後では最大規模の兵力動員である。そしてウクライナを散々包囲した後、ロシアはウクライナ東部の「ドネツク人民共和国とルガンスク共和国」の独立を承認し、ロシア軍が平和維持の名目で進駐した。一連の危機について基本的に日経新聞のまとめで十分だが、絡まっている問題がノルドストリーム2、ドンバス紛争、ドイツの天然ガス、NATO東方拡大とあまりにも多いので整理しようと試みた。整理しないと落としどころも分からない。 背景① NATOの東方拡大 NATOの東方拡大問題抜きにウクライナ問題を語ることは
コロナショック以来、日本人の外株シフトが止まらない。日本の公募投信へのフローを見ると2020~2021年は外株しか増えていない。DCには辛うじてバランスファンドにも資金が入っているがやはり外株ほどではない。一方国内株式は全く見捨てられてしまっている。本来なら日本株が最も馴染みがあるにも関わらず、である。その辺のアンテナが高い港区女子ですらだいたいS&P 500投信か、GAFAMとNVDAを保有している。 ホームアセットバイアスとは国際資本移動が自由化され、国際分散投資に対する障壁が除去されているにもかかわらず、ついつい自国のアセットに優先して投資してしまう、非合理的な行動の一つとされる。とは言っても「他国のことは言語の壁もあってよく分からないのでαを取れそうにない」という判断が背景にあるなら非合理的とは必ずしも言えない。個別株投資をするなら、馴染みのある本国の銘柄にしたくなってしまうのは人
ただでさえグローバルでサプライチェーン寸断が話題になる中、9月後半あたりから急に中国の電力使用制限がとどめを刺す勢いで飛び込んできた。工業が発達している沿岸部を中心に多くの工場や取引先が証言するように紙ペラ一枚の通知で計画停電に伴う工場の操業削減を命じられた。中国の電力不足はそのサプライチェーンに占める地位から世界中の幅広い製品に影響を与える。アップルのサプライヤー達も減産リスクを警告したのが話題になった。 電力不足は一義的には火力発電用の燃料炭の不足が背景である。旺盛な輸出需要に引っ張られる形で沿岸部の発電などの石炭消費量(上図)はコロナ前の2019年対比でも高かった。冬の暖房需要(それもどうも寒冬になるらしい)が控えている中で、世界的なコモディティ高の影響もあり石炭価格は大きく上昇した(下図)。 発電所の石炭在庫もインドを巻き添えにする形で低迷した。 昨年以来、米中対立の煽りで豪州に経
本ブログが夏以降に断続的に取り上げたエバ―グランデ(恒大集団)のデフォルトがいよいよ近付いてきた。負債総額が33兆円と破綻当時のリーマンブラザーズの半分もあるので、一部でリーマン・モーメントとさえ取り沙汰されている。本ブログが早々とToo big to failの恐喝が通用せず当局の救済はなく、債権者はリストラクチャリングを受け入れることになるだろうと記していたのに対して、当局の一存で何でも自由にできる計画経済なのでなんだかんだ救済措置が出てくるだろうという声が主流であったが、結局救済はされなかった。 事態は本ブログが想定していた展開よりも更に悪く、リストラクチャリングすらはたしてまとまるのかに疑問が付くようになっている。先週になって中国当局(住宅都市農村建設省)が「中国恒大集団は主要債権銀行に今月20日期限の利払いを行わない」と銀行団に宣言するに至り、事態は急速になし崩しなデフォルトに傾
中国株への当局の圧政と並行して、華融(Huarong)と恒大(Evergrande)の債務危機も中国市場をリスクに晒してきた。どちらもToo big to failと言われてきた巨大債務企業であるが、先月の記事ではLGFVと華融の騒ぎは当局の火遊びにすぎず、中国のクレジット市場で最も注目すべきはあくまでもエバ―グランデと不動産業界であると既に述べた。実際、華融の方は8/31の期限を前にしてようやく2020年12月期の決算を提出する予定が決まり、1029億元の最終赤字を提出するようである。同時に中信集団(CITIC)率いる国有企業連合からの資本調達も発表されており、これまで額面の50%や70%まで売られていた短期社債は急速に満額償還を織り込むことになった。 500億元(≒8bn USD)の規模を今後満期を迎える社債残高と見比べてみるとこの資金だけで来年半ばまでの社債元本を返済できることになる
中国景気について先月の記事では「どの切り口から見ても中国からはデフレーショナリーなストーリーしか出てこない。そもそも外需依存なので、レポートなどで惰性で「米中が牽引する経済回復」というワーディングを用いている人はそろそろ「中」の文字を削除すべきである」と散々こき下ろしてきたが、その後も新型コロナとの肉弾戦と洪水もあって景気悪化がいよいよ勢いづいている。元より世界主要国で唯一コロナショックを緩和する給付金ばら撒きをケチったせいで需要が減り続けており、その上で更に指導部がデレバレッジ運動再開と政策規制で追い打ちをかけてきており、救いようがない形となっている。消費、投資、輸出という三台の馬車が一斉に転覆している。 鉱工業生産は前月の前年比+8.3%から+6.4%(コロナ前の2019年対比では年率+6.5%から+5.6%)まで大幅に減速しており、これはパソコンや通信機器を除く様々な分野が一斉に悪化
やはり触らない方がよかったと言うしかない。本ブログがDIDIについてようやく調べ終わったところで、更に教育機関やデリバリー業界への圧政第二弾、第三弾が続いている。本ブログは当局の圧政の流れを5月から取り上げ続けたのに、やってきたバーゲンセールで目が眩んでしまったのは失敗であった。何ならバーゲンセール後の下落幅の方が大きい。 7/24に中国国務院は学校教科の個別学習指導を提供している全ての機関が非営利団体として登録され、新たな営利団体としての設立を禁止するなどの新規則(关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见)を地方政府に通知した。教育機関はストーリーも描きやすく海外投資家にも注目されていたセクターの一つであったが、「意見」一枚で痛みを感じる暇もなく即死した。中国が人口減に転じたのではないかという観測が4月にあって衝撃が走ったのは記憶に新しい。翌月には子供3人目まで容認する
米国で巨額の給付金が配られることによる短期資金市場への潜在的なストレスは長らく議論を呼んできた。米国財務省は昨年から巨額の資金を調達し、その現金をTreasury General Account(政府預金口座)と呼ばれる口座を通してFedに直接預けてきた。昔は大半を商業銀行に預け、それを商業銀行が使ったりFedに超過準備として預けたりしていたのが、リーマンショック後にFedの政府預金口座が大々的に利用されるようになった。2020年の調達時は深刻な景気後退まで備えていたため、またトランプ政権下での失業給付第二弾が遅れたため財務省が貯め込んだ現金は余っており、今回のバイデン政権の給付金は大半が国債発行ではなく政府預金から払い出されることになった。TGAの規模はピーク時の1.8兆ドルから今年6月末には5000億ドルまで圧縮される方針であり、1.3兆ドルあまりの現金の「津波」がTGAから給付金の支
8/27にジャクソンホールでパウエル議長が今後数十年間の金融政策の行方を示唆する重要な講演を行った。雇用、物価というFedのダブルマンデートの両輪それぞれについて総括と新枠組みが提示された。またその新たな枠組みは9/16のFOMC声明文に落とし込まれている。 ジャクソンホール講演はまずリーマンショックに始まり数ヶ月前に終わった前サイクルを以下の4点にまとめている。 1) これまでの数十年と比べても人口動態などを背景に長期的な潜在成長率が低下 (FOMCメンバーの推定中間値は2012年の2.5%から1.8%へ) 2) 自然利子率(中立金利、均衡実質金利)も低下 (FOMCメンバーの推定中間値は2012年の4.25%から2.5%へ) 3) 一方、前サイクルにおける雇用情勢は事前の予想よりも遥かに堅調なものとなった 4) にもかかわらず2%インフレが継続的に達成されることはなかった (俗に言うフ
米国の10年実質金利(青)が2012年以来の深いマイナス幅になっている。これは10年ものの物価連動国債(TIPS, Treasury Inflation-Protected Security)が取引されている利回りであり、10年名目金利(普通の10年国債利回り)との差が大雑把に10年期待インフレ率(BEI, Break Even Inflation rate)と言われる。TIPSはインフレ率(CPI-U :Consumer Price Index for All Urban Consumers)を見て元本が調整されるため、将来実現されたインフレ率がBEI通りであったなら名目債で運用しても物価連動債で運用してもリターンは変わらない(ブレークイーブン)。 インフレ期待の推移は国債とTIPSの参加者が決定する形となる。TIPSは相場が荒れるほど流動性が低下するし、挙げ句の果てにFedも買っていた
先進国株が「割高」と「過剰流動性相場が来る」のせめぎ合いで高値圏でグダグダしているところに、中国株と香港株の暴騰がやってきて真面目に考える意味を消し去ってしまい、全てを喜劇に変えてしまった。本ブログは5月時点で少なくとも香港株については内憂外患で怖いとわざわざ記事を書いていたが、完全に底値圏での売り煽りになってしまった。唯一の救いは「何かの拍子で24,800をブレイクしたらブル転する」としてあったことだ。 香港株の視点から見ると大きいのは6/30に導入された「国家安全法案」のおかげで、香港株の上値を抑えてきたデモ騒ぎが急速に鎮火しつつあることである。法案そのものはもちろん厳しく抑圧的であり、香港の「アジアの金融センターとしての地位」への悪影響ばかりが議論されてきたが、それはあくまでも外の視点であり、それでも暴徒にのさばらせ続けるよりは本土絡みのお金とビジネスが帰って来そうなだけマシ、という
コロナショック以来急速なペースで拡大してきて、異論なく足元の株高の背景になったFedのバランスシートは、6/17までの週で初めて縮小に転じている。背景としては、非常時に導入されたいくつかの流動性供給措置が役割を終えつつあることが挙げられる。 減り始めたのはまず国債を担保に貸出を行うレポオペレーション残高である。6/11にFedはレポオペレーションをやや引締めており、オーバーナイトレポオペ金利と1ヶ月物タームレポ金利をIOERフラットからそれぞれIOER +5bpとIEOR +10bpまで引き上げた。それを受けて資金調達する側にとってレポオペレーションの使い勝手は落ちている。 海外中銀向けの米ドルスワップ供給残高も減り始めている。こちらは国際市場での米ドル逼迫に対して拡充され、Fedから各国中銀、更に米ドル供給オペで各国の金融機関の米ドル不足を埋めさせたものであるが、国際市場での米ドル調達環
新型コロナのロックタウンから真っ先に脱却したものの経済回復に苦労している中国について、本土系の中泰証券が「我が国の新規失業は7,000万人を超え、失業率は20%程度」とするレポートを発表して大騒ぎになっている。公式アカウントからレポートは削除されてしまったが、このブログで供養してみようと思う。曰く、1)公式失業率は経済指標からあまりにも乖離している 2)二種類の公式失業率はどれも改良が必要 3)失業率は20%前後 4)落込みには乗数効果がかかるのでV字回復どころではない である。 登記失業率の統計の取り方は同じ中泰証券のレポート内でも「企業や雇用主の報告」と「公的機関への失業届け出の統計」の二通りがあるが、特に後者の使えなさは以前より話題になっている。特に失業保険の額は最低賃金よりも低く、後で登場する農民工などは最初から雇用主に加入してもらえていなかったりするので、わざわざ届け出るインセン
米株がクラッシュすると共に、社債市場も再びストレスに晒された。特に原油安が直撃するシェールガス企業が発行したハイイールド債を保有するとされるハイイールド債ETF(例としてBlackrockが運用するHYG, 上図)などは当たり前のように15%程度下落したが、今回興味深かったのは投資適格債ETF(例としてBlackrockが運用するLQD, 下図)も同じくらいクラッシュしていることである。投資適格債の方が安全そうなのに、むしろこちらが震源地になったようにすら見えた。前回2018年12月のクラッシュでは本ブログが「ジャンク債ETFのパニックと流動性イリュージョン」記事を仕立てたが、もう一度この流動性イリュージョンが一部で話題になった。もはや今後クラッシュするたびに起きるのかもしれない。 Blackrockが更新するLQDが保有する資産価値の合計(NAV, Net Asset Value)はET
中国経済が長い春節から目を覚ましつつある。図の石炭消費量や住宅取引件数、道路混雑指数を筆頭に中国各地の企業活動をトラックしようとする日次データは10数種類あるそうで、これは世界でも稀に見る透明性ではないかと思われるが、それをクオンタメンタルにたくさん集めても結局報道通り「いまはあまり生産活動が戻っていないが少し戻り始めた」以上の話はない。それよりもこの戻りを左右する新型コロナの伝染状況の方が重要である。伝染が止まりそうになければ活動再開はどんどん後倒しになるだろう。幸いにして患者数も日次で公表されており高い透明性が確保されている。とはいえ統計は複雑であり、更に少なくとも2度もの基準変更が加えられているため注意して読まないと現状を掴みづらい。 図はTencentが公式発表を拾って集計している日次患者数の推移である。中国は2/8に新型コロナの患者数の定義に一回めの変更を加えている。変更が行われ
貿易戦争で緊張感が続く中国で、中小銀行の事故が相次いだため銀行間流動性にやや不穏な雰囲気が流れた。今のところは当局の素早い対処療法で流動性危機の芽は押さえ込まれているが、長期的に見て中小企業への効果的なクレジット供給が続くかが怪しくなっている。 中国のメガバンクは預貸率が低く、図体の割りには取れるクレジットリスクも小さい。国有企業などに一通り貸して余ったお金をインターバンクに流し、それを中小銀行が借りて更にリスキーな貸出し先を探すという、誰かが「車のディーラー網のように」、また「昔の日本のように」と形容していたが、そういうウォーターフォール状にクレジットが社会全体に供給されることになっている。ということは上の方で金融緩和を行ってもウォーターフォールの一番下に流れるまで時間がかかるし、そもそも一番下までコントロールできない可能性もある。その間に国有企業や大手不動産企業が横からチープクレジット
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