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先進各国のインフレ退治の金融引締めで実質成長が一斉に抑圧されてきた中、2024年に入ってから米国の実質GDPコンセンサスだけが急に景気後退スレスレから盛り返し、一転して実質2%成長に戻っている。これは――日本は言うまでもなく――欧州と並べても飛び抜けて高く、米ドル全面高に繋がった。米国だけがどうやら景気後退の回避に成功(ノーランディング)したらしい背景はAI需要が招いた半導体産業の活況、財政出動を伴う工場建設ブーム、一向に失速しない個人消費などが挙げられる。 市場参加者やエコノミストの予想がガラッと変わったのは米国の製造業景況感が2022年に金融引締め以来の低迷から反発し始めたためである。現在のGDPデータはバックミラーのデータでしかないが、製造業の景気サイクルが底を打って再び回り出したとなると、現在のGDP水準が巡航速度になってしまう。それでもFedは昨年12月に遠くない利下げを示唆して
パンデミック後の中国経済の不確実性の捉え方は極めて難しい課題になっている。チャイナショックの時と違って、中国がデフレーションに転落したという事象は先進諸国にマクロなインパクトをほとんどもたらさなかった。中国からのデフレ輸出や不況輸出も目立って観測されておらず、先進諸国の経済を分析する際にどのように中国ストーリーを添加すればいいのか手探りになっている。本ブログなどは「影響は非連続的に発現するだろう」と言葉を弄しているが、とにかく「中国は案外デフレを輸出しない」は2023年後半以降のマクロ予想の精度を問う試験の中で重要な設問だったに違いない。 中国経済の動きが先進諸国に与える影響について何かオーソライズされた見方はないものか。NY Fedの調査部門のエコノミスト達が執筆しているブログ"Liberty Street Economics"が中国経済の予想外の回復とクラッシュが2年程度のスパンで米国
日本株のパフォーマンスがいい中、歴史的には日本株と同様の傾向を示してきたはずのJREITが大きく取り残されている。それどころか2~3月には大きく売り込まれており、利回りを求めて保有する投資家は厳しい試練に晒された。日本株とJREITは歴史的なまでにパフォーマンスが乖離した。 株式指数対比ではJREITは利回り商品の側面が強く、また地銀などが債券と共に投資しているため、値動きも大なり小なりと債券に似て来る場面が出て来る。それがゆえに「JREITは債券」と言われることもある。それがどれだけ適切な言い方かはともかく、実際に債券として捉えていれば、度重なるYCC修正に加えマイナス金利政策撤廃が前倒しされる中、JREITの弱いパフォーマンスをある程度は予想できただろう。 JREIT売却の犯人 東証のサイトから投資部門別の2月分までの月次REIT売買動向を見ると、2024年に入ってJREITを大きく売
中国経済については昨年厳しめの記事を連発してから力尽きていたが、この間に一度財政拡張の期待というものが盛り上がっていた。2023年10月24日に中国の全人代(国会みたいなもの)常務委員会は財政赤字の拡大を可決した。前回の記事では「確かに理論的には春の全人代会期以外でも2ヶ月に一回開かれる全人代常務委員会(次回は10/20 -24)で補正予算を組むことは可能であるが、ある程度の埋蔵金的な資金を使える可能性はあるものの、財政赤字拡大まで踏み込む可能性は高くない。2023年暮れにあえて財政拡張を行うとすれば、それは2023年の成長目標の5%達成が危うくなった時である。しかし、2023年はゼロコロナ政策からのリオープン効果があるのでさすがに5%成長は余裕である」とスケジュールまで調べてあったにもかかわらず、まさか本当に財政赤字が年末に引き上げられるとは思っていなかった。全人代が開かれる春まで待てず
新NISAのインパクトの定点観測。新NISAが始まって1ヶ月余りで既に1兆8千億円以上の資金が流入した。日経の取材記事では投資信託と個別株に分けて紹介しており、海外資産と日本株という切り口では切っていない。1兆8千億円のうち約1兆円が投資信託、残りの約8,000億円を個別株になっている。個別株は証券会社の窓口チャネルが強いということもあり高配当株を中心に日本株が健闘しており、トップ10銘柄はシェアは低いものの全て日本株が占めている。そういう意味では、1兆8千億円のうち過半数は海外資産に向かったと確信できるものの、日本株も案外健闘していると言えるだろう。もっとも新NISAでは個別株は成長投資枠でしか投資できない。積立て投資枠のフローは海外株が8割以上を占めると思われる。投資信託1兆円のうちトップ10投信が全て海外株投信であり、それだけで8,000億円を占めるからである。本ブログが唱えてきた年
12月の政策決定会合で壮大な空振りを演出した日銀の金融政策のその後について。植田日銀がマイナス金利政策の早期撤廃期待をにべもなく否定した後、年末にかけて米金利が更に大きく低下するなど外部環境も怪しくなり、年が明けるとすぐ能登半島地震が続き、1月会合の展望レポートで2024年物価見通しを引下げる観測まで出て来ており、いよいよマイナス金利政策撤廃も覚束なくなった。しかし1月会合は12月会合とまたまたガラッと雰囲気が変わった。 12月のチャレンジング・ショックでチャレンジングがどうマイナス金利撤廃を意味するのか全く付いていけなかったのと同様、1月会合が具体的にどのようにタカ的だったかも個人的にはよく分かっていない。1月会合の展望レポートが 「消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、見通し期間終盤にかけて物価安定の目標
中国で上場する日本株ETFの乱高下が話題になっている。日経平均指数は年末から年初にかけて連日上昇してきたが、その指数を追い越す形で中国上場の日本株ETFが更に高騰し、日経平均指数から離れて勝手に乱高下を繰り返した。年初来の日経平均指数の上げ幅は6%程度であったが、中国上場の日経平均ETFは度々のストップ高を経て一時年初来22%も上昇した。これではもはや日本株のチャートではない。 一般的にETFはファンド価値が原資産指数の値動きに連動するような原資産のバスケットを保有しており、一方で取引所では投資家の売買(需給)に基づいた価格が形成される。原資産の日本株はその間上昇はしたものの、極端には上昇していないので、直近の中国上場の日本株ETFの上げの大半は、ファンドが保有する原資産のフェアバリュー(1口当たり純資産価格、1口当たりNAV)対比の上海市場での需給由来のプレミアム拡大と解釈される。 1口
本ブログが昨年末に取り上げた新NISA開始に伴う海外株投資についての考察が世間にも広がっている。日経新聞も新NISAが招く円安圧力を取り上げた。その記事内で「(松井証券の)窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは"これを前提にすると年間5兆円規模の円売り・外貨買い需要が発生し、これまでより年2兆〜2.5兆円ほど円売りが増える可能性がある"と指摘」しているが、これは本ブログが「年間5兆円の海外投資フローを想定するのはかなりフェアではないか」としていた数字とぴったり一致する。その後この金額を日本の経常収支と比較する発想も前回の記事と同様である。ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは積立てフローを「為替の相場観とは関係なく機械的なドル買い・円売りを生むため、岩盤的なドル買い需要になる」と表現している。それに対する異議は少ないだろう。実際、我々が多くの識者から今年はドル安円高が進むとロジカルに
2024年1月から始まる新しい少額投資非課税制度(NISA)で、これまでマックスで年間120万円だったNISA枠(非課税枠)が積立ての120万円、成長投資枠の240万円の計360万円まで拡充される。我々個人投資家にとっては非課税枠が広がることは当然有利であり、当局が妙に勧めるなら何かトラップがあるなどと考えるのは合理的ではない。ここでは一歩先を読んで新NISAブームが為替市場に与えるインパクトを推定してみたい。新NISAには既に旺盛な申込みが入っており、「現行NISA口座数で証券会社の6割強のシェアを持つネット証券5社合計の積み立て投資の予約額は20日までで月間2,300億円」とのことであるが、月間2,300億円と言えば年間2兆7,600億円であり、それが引続き6割のシェアなら10割は4兆6,000億円となる。 月2,300億円のうちトップ3つの人気投信は海外株ファンドであり、それらだけで
6月から始まったRRPの取り崩しは、一旦始まると止まらなくなっている。我々は債務上限問題で連邦政府がFedに置いていた政府預金(TGA)を極限まで取り崩し、6月初に債務上限が一時停止された後に国債増発を通してTGAを復元しにかかったことを学んできた。その過程は1兆ドルの資金吸い上げになるという憶測があったが、1兆ドルをRRPプールが供出するので民間にとっては影響がないと本ブログは予想し、実際にそうなった。半年経ってTGAは8千億ドルほど積み上がったところで一段落した。2020年の残高が非常用であることが分かっており、2022年のピークが1兆ドル弱だったので、TGAの積み直しプロセスはこのあたりでほぼ終了したと見てよい。本ブログの見立て通りにRRPの減少はTGAの減少を埋める形で行われ、増発されたBillに置き換わった。1兆ドルの流動性吸上げを警戒する声は、聞いて無視できないなら知らなかった
新たに始まったハマス・イスラエル戦争の影にすっかり隠れてしまったウクライナ戦争。前回の記事で取り上げた、西側の訓練と装備を利用したウクライナ軍の反攻作戦は、当初の宣伝よりやや遅れつつも、半年前に本ブログが予想した通りの戦場ザポリージャ州で大々的に始まった。反攻作戦について前回の記事では「今後の戦局としてはどちら側の攻勢も効果を挙げづらく、合計100万人以上が1000キロにわたってばら撒かれた戦線で長い消耗戦に陥ると思われる。前線の兵力が多ければ多いほど、凡ミスを挽回する機会が増えて膠着に陥りやすいのである」「ロボットアニメと違って陸戦では少数の新兵器が戦況を大きく変えることはない」と予想していたが、そこから更新する必要もないほど、戦局はその通りになった。 ザポリージャとは「急流を過ぎた(beyond the rapids)」の意味である。キエフから南東に向けて流れるドニエプル川はドニプロと
直近の株式指数の値動きを最も綺麗に説明する切り口の一つが「S&P 500の債券化」であることに異論は既に少ないだろう。S&P 500のフォワードEPSから計算される益回り(フォワードPERの逆数)と10年国債利回りを比較したエクイティ・リスクプレミアム(ERP)はGFC後の全ての領域を下に抜け、GFC前の2000年代の水準と比較しても低くなっている。特に2023年に入ってからはこれが著しく、GFC前の200bpを抜けたと思ったら数ヶ月でわずか25bpまで縮小している。10年後に必ず返って来る安全資産である10年国債と比べてS&P 500で様々なリスクを取っても利回りが25bpしか増えないのである。 ERPの急激な縮小は、2023年に入ってから株式指数が国債をアウトパフォームし続けた、具体的には株式指数が債券ほど値下がりしなかった結果である。2022年はTLTとQQQが似たような値動きになっ
前回の記事では中国の8月の限界的な景気回復が内需ではなく外需回復主導のものであったとの仮説を立てたが、9月のデータはその見方に沿ったものになっている。中国のPMIは国家統計局(NBS)版、財新(Caixin)版の二つがあり、それぞれ製造業とサービス業で合わせて4つあるが、9月分はNBS製造業PMIが緩やかに回復、財新製造業PMIが横ばい、NBSサービス業PMIが少し反発、財新サービス業PMIが続落となっている。製造業が極めて緩やかながらも上向き(景況感下げ止まり)になっており、中でも輸出に携わる大企業が多いNBSの方がその傾向が強く、一方でサービス業はリオープン効果を食いつぶす形で明瞭な減速が続いている。サービス業主導の回復は存在せず、外需しか戻っていないことがPMIからも分かる。 中国の消費者物価(CPI)もコンセンサスを下回る0%近辺の推移が続く。生産者物価(PPI)はエネルギー価格上
中国景気の悪化は続いており、それに対して政府は連日刺激策を打ち出しているが、本ブログの読者であれば全ての刺激策に共通点があると思いながら眺めていることだろう。規制緩和はまだよい方で、それ以外は号令ばかりで中央政府は全くお金を出さないのである。景気悪化に気付いたとしても脊椎反射で「従って景気刺激策が出て成長を下支えするだろう」と書いてきたエコノミスト達のシナリオから着々と遠ざかっている。中国景気の急速な悪化の起点を不動産バブル崩壊に結びつけ、また不動産バブル崩壊という共通点をもとに「日本化」を論ずる声が多いが、本ブログが中国民間企業の日本的な「バランスシート不況」を否定したように、中国と1990年の日本との共通点は限られている。中国経済の問題はあくまでもこれまで「バランスシート不況よりも猛なり」と表現してきた習近平政権の苛政である。 2023年8月までのいかなる時点でも中国には不動産バブルが
日本銀行は7/28の金融政策決定会合で2018年から続けてきたYCC(イールドカーブ・コントロール)政策をあっさりと「柔軟化」した。本ブログとしては植田総裁の就任時点から一貫して「YCCの余命は長くない」「7月会合に限らず、全ての会合でYCC修正がライブであるとの従前のビューはまだ維持している。レビュー期間が1年〜1年半だからと言って期間中に金融政策を変えないとは誰も言っていない」と数ヶ月以内のYCCの再修正や撤廃を唱え続けてきた。更に「3月会合ではたとえ政策修正があったとしても海外の投機筋を儲けさせないせこい戦術とのパッケージになる」「4月会合ではもとより劇的な政策変更を打ち出すのは難しい」「±0.75%幅への修正だけはない」と意味もなく細かい決め付けをしたところまでが完璧に実現した。 この政策修正は十分なコミュニケーションを経て実行に移されたものであり、全くサプライズではなかった。にも
本ブログが様々な視点から見てきたように中国経済はますますデフレーショナリーになっている。そのモヤモヤ感はどうもいわゆる「バランスシート不況」ではないかと思えてきた中、バランスシート不況の大家である野村総合研究所のリチャード・クー氏が中国の東呉証券の招待で香港で講演を行ったのが中国で大きな反響を呼んだ。講演の内容どころか、最終的にはスライドまでインターネットで出回った。それ自体が既にデフレーショナリーである。バランスシート不況と最近流行っている「日本化」はほぼ同義である。バランスシート不況とは バランスシート不況はクー氏が数十年にわたって推してきた有名な議論であり、筆者の手持ちの氏の著作、『陰と陽の経済学』からの丸写しで簡単に紹介する。本当は『The Holy Grail of Macroeconomics: Lessons from Japan’s Great Recession』の方が有
中国のパンデミック後の雇用情勢について既に一度ふんわりとは触れたが、ちょうど定量的に試算する論文がSNSで出回ったので取り上げてみたいと思う。著者は「王明遠」氏であり、北京改革発展研究会の研究員である。つまりアカデミックな人間であり、この論文には政治的な意図はない。前回のパンデミック直後には中泰証券のレポートを引用しており、あの時は7,000万人の失業者がいると結論付けていたが、あれからリオープンを経て何か変わったのだろうか。緑色は引用である。 歴史的に穴だらけの失業統計 歴史的に「政府工作報告」ではオフィシャル失業率に都市部登記失業率を用いていたが、2018年以降はこれを調査失業率に置き換えた。登記失業率があまりにも使えないので調査失業率へのシフトは大きな進歩であったが、調査失業率にも欠点がある。例えば2023年4月の全国都市部調査失業率は5.1%でしかなく、パンデミック前の2019年と
前回の中国の記事は様々なテーマを広く浅く取り上げたが、中でも不動産市場と地方財政についてもう少し詳細に見ていきたい。21世紀に入って以来どんなにゴーストタウンと笑われようと中国に不動産バブルは存在しなかったし、不動産バブル崩壊懸念も陰謀論の範疇を出なかった。しかし2021年に始まった民営不動産企業の迫害に加え、ゼロコロナ政策とハイテク企業の迫害が招いた不況はいよいよ不動産市場に影響を及ぼし始めている。 他の多くの経済指標と同じように新築住宅販売件数(左)にもリオープンは存在せず、パンデミック中と変わらないペースにとどまっている。これはパンデミックで新築住宅の供給が限定的だったのと、習近平政権の民営不動産企業引締めで引き渡しまでにデベロッパーが倒産する懸念(カウンターパーティ・リスク)が燻るためであるが、純粋に住宅市場のセンチメントを表現する中古住宅販売件数(右)も、確かにパンデミック中より
S&P 500はボトムから20%上昇してブル・マーケット入りしたが、過去の多くのラリーがそうであったように幅広く納得はされていない。特に何かにつけて「債券投資家と株式投資家の温度差」が取り上げられてきた。曰く、米国債のイールドカーブがインバート(長短金利逆転)しているのは債券投資家がリセッション(景気後退)を織り込んでいるから、というのである。本来この話題は本ブログで何度も取り上げてきた陳腐なものであり、金利カーブのインバートを見て「リセッションが来るから」と直近の株高に乗り遅れることなど投資家としてはあってはならないことであるが、思ったより至るところでこの論理が生存し使われているようなので、過去の記事からコピペしながらもう一度念押ししてみたいと思う。そんな理論に毒されているようでは、最初から金利とは何ぞやなど一切何も知らない方がマシだったというものである。 確かに昔からイールドカーブがイ
5月の相場は米国の債務上限問題に振り回されてきた。米国では政府が発行できる国債総額の上限が法律によって定められており、これを債務上限(Debt Ceiling)と呼ぶ。債務が上限にぶつかると財政省は一部の支出を制限しなければならず、政府の一部閉鎖や、既存国債償還の資金不足リスクに晒される。債務上限の引き上げは米国議会(上院と下院)が法案を通過し、大統領が署名することによって実現する。その時の両党の力関係次第ではあるが、このプロセスにおいて引き上げ承認とバーターに支出抑制の要求も出される。債務上限は1960年以来78回引き上げられており、今回が79回目となる。直近ではオバマ政権下の2011年8月に連邦議会がデフォルト直前に債務上限の引き上げに合意したが、S&Pがデフォルト発生リスクの上昇を踏まえて米国債の格下げを発表し、金融市場が大きく混乱した。その後2013年には実際に政府の一部閉鎖に追い
パンデミックが明けた中国経済のリオープンは2023年の一大テーマになるとされてきたが、その失速が明らかになってきている。リオープンがインフレを輸出するなどという話もあったが、現実には消費者物価(CPI)は前年比でわずか +0.1%、生産者物価(PPI)は -3.6%と、中国は急速にデフレーションに向かいつつある。パンデミック後の世界の大半でインフレが続いているのとは全く異なる光景である。2020年頃からの本ブログの読者であれば、パンデミック中に主要経済体の中で中国だけがほとんど給付金を大々的に配らなかった(移転所得がなかった)ため、中国だけは余剰貯蓄が少なく消費と物価が戻らずむしろデフレを輸出すると何度も主張してきたのが記憶が残っているだろう。これはリオープンしたところで変わらない。逆に物価変動、特にインフレがいかに給付金(移転所得)のみによって規定されるかも、先進国と中国との比較で答えが
すっかり注目度が下がってしまったウクライナ戦争について久々に。セベロドネツク・リシチャンシク戦役の後の情勢は圧倒的にロシア軍優勢、ウクライナ軍劣勢であった。しかしロシア軍と政権の戦争指揮はまたしても本ブログの予想の斜め上を行ったため、前回記事の敗北主義は滑稽なものになった。敗走する敵を追ってスラヴャンスク・クラマトルスク方面へと戦果を拡大するわけでもなく、セベロドネツク・リシチャンシク戦役に参加した部隊を中心にロシア軍は休息(Operational Pause)に入ったのである。 志願兵の契約期間は3ヶ月であり、2ターム目までは多くの兵士が強制的に契約させられたが、2月の開戦から半年も経つと多くの将兵がロシア国内に引き揚げた。犠牲に敏感すぎるロシア当局はウクライナ戦争のシリア化を画策したようである。つまり攻勢継続をドネツク軍、ルガンスク軍、そしてワグネル軍に委ねてロシア軍はあくまでも支援的
今年に入ってから0DTEがバズワードになっており、指数や個別株の変動のドライバーとしてマーケットニュースでちょくちょく登場するようになっている。0DTEとは"zero-Day-To-Expiration"であり、一般的に24時間以内にエクスパイアする超短期のオプションを指す。昨年の記事でも一度取り上げた通り、SPXオプションのうち24時間以内にエクスパイアを迎える物の出来高は全体の4割を超える。0DTEの流行は2022年後半以降の出来事であり、恐らくは取引所が短期オプションの上場を増やしたことなどをきっかけであり、かつて個人投資家の間での給付金を使ったMeme株投資の流行とはだいぶタイミングがずれている。原資産は指数であったり、テスラ株などポピュラーな個別株だったりする。 主な参加者については個人投資家と決めつける声もあれば、個人投資家の取引に占めるウェイトは実は高くないとするデータもある
問題が発覚してから秒速で破綻したSIVBに続いて、創業167年の名門投資銀行クレディ・スイスも話題になってからわずか一週間で同業UBSに身売りさせられた。クレディ・スイス(CS)はG-SIBs(Global Systemically Important Banks, グローバルなシステム上重要な銀行)の一角であり破綻させるには巨大すぎると思われていたにもかかわらずである。一連の目まぐるしいニュースフローは世界中の投資家を翻弄した。スイス当局によって進められたCSとUBSの合併(Government-brokered deal)はすんなりと成立したが、欧州時間のリスクオフネタは尽きることがなく、更にドイツ銀行まで巻き込まれている。一体市場参加者は何を見て動いていたのだろうか。 CSの経営状況がG-SIBsの中でも頭ひとつ抜けて悪いことはここ数年続いた流れである。脱・投資銀行依存に苦労したドイ
3月FOMC直前のブラックアウト期間に、シリコンバレー銀行(SVB, SIVB)の破綻が金融システムを震撼させた。話題になり始めてから一週間以内に資産規模で全米16位であったSIVBは破綻した。2008年のワシントン・ミューチュアルに続く大型破綻となった。シリコンバレー近辺の生態系との関係については詳しい人間に譲るとして、本記事ではマクロ環境と金融政策への影響を中心に取り上げる。 SIVBの栄枯盛衰 2021年のIPOバブルをきっかけにSIVBのバランスシートは爆発的に拡張した。圧倒的な金余りを背景にシリコンバレーのスタートアップにVCファンドなどからの投資資金が集中したが、その多くはSIVBに預けられた。VCファンドの投資が着金するまでのブリッジローンや、自ら貸したベンチャーデットを両建てで預金してもらっていた。急増した預金をSIVBは米国債やMBSなどの債券で余資運用していたが、202
最後まで決まらなかった日銀の次期総裁がようやく発表された。元々2/10に発表予定だったものが2/14に延期になり、そして結局2/10午後に「日銀新総裁に植田和男氏を起用へ 初の学者、元審議委員」というヘッドラインでリークが流れた。市場参加者の反応はまず数日前に日経が既に「リーク」した筆頭候補の雨宮氏でなかったところにサプライズを感じて円高が進み、ただ(山口氏のケースと違って)政策変更を直ちに意味する人事ではないと分かったところで全戻しした。 植田教授は直前まで候補には全く上がっておらず、(ダークホースになりそうな予感がしたのか)明らかに関係ない人まで何人も候補を並べた観測記事でさえ触れることがなかったネームだったため、ファーストリアクションは「誰」であった。経済学部出身なら知っているべき学者とされているが、非経済学部出身の本ブログには当然「そういうゼミがどうもあったようである」程度の認識し
パンデミック後の一時的な(Transitory)インフレが何とか鎮火に向かいつつある中、それでもFedは引締めスタンスを変えないと主張する際にちょいちょい持ち出されるのはGreat Inflationとも呼ばれる1970年代のインフレの前例である。これはジャクソン・ホールでのパウエル総裁のスピーチでも登場しているし、1970年代のインフレ退治失敗の背後霊は今サイクルの引締めに纏わりつき続けている。この記事では1970〜1980年代の米国のインフレ退治を振り返ると共に今との共通点を点検していく。 1970年代とは 1970年代のインフレの根源はベトナム戦争と米ドルの信認の揺らぎ、そして二度の石油ショックである。ベトナム戦争は数百万人の動員、巨額の戦費と南ベトナムへの経済支援を通して米国の財政と生産能力を圧迫した。ジョンソン政権は戦費を増税によって賄おうともせず米国の「双子の赤字」体制が定着し
12月に突如行われた日銀のYCC許容幅拡大について、この話はそれで終わったと思っていたのだが、すっかり甘かったようで、1月に入っても日本の国債市場は荒れている。気付いたらわずか1ヶ月でYCC許容幅の再拡大が議論されている。反省と共に、真面目に日銀の金融政策を取り巻く環境を再点検してみたいと思う。 経済的にはまず、すっかり形骸化してきたが物価目標との関係が重要になる。日本のコアCPIは3%に乗っており、欧米ほどではないにしろ「インフレ・ターゲット」の2%を大きく上回るのは今更取り上げるまでもない。日銀は今の物価上昇は一時的なものであり、今の水準から2023年には1.6%に急低下する見通しと言い張り、金融緩和継続の根拠にしてきた。この試算はどう見ても無理があると話題になっていたが、大晦日に日本経済新聞は日銀が1月会合で物価見通しを「22年度を3%前後、23年度を前回の1.6%以上で2%には届か
明けましておめでとうございます。新年一発目は偏ったビューを開陳する代わりに、グローバルの機関投資家大手が公表している2023年のアウトルックの取りまとめた。ゴールドマンなどのウォール街のセルサイドのレポートもリンクが出回っているが、そちらより優先度が高くしたのは、バイサイドの方が当たるからということでは全くないが、セルのレポートがどちらかというと投資家にリスクとポジションの点検を促すものであるのに対し、バイは戦略に共感してもらってお金を集めるのを目的としており、個人投資家から見てもバイサイドの方が多少なりとも相性がよいと思われるためである。「じゃお前がそのポジションを張ってみろ」という話になるので極論も排除されている。 ブラックロックの大局観から始めよう。過去40年間の大安定期(Great Moderation)が終わり、今後の新レジームでは先進国は①高齢化に伴う人手不足②地政学的な緊張③
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