精神論は有害だ 心がけで背は伸びない。以前、養老孟司さんから聞いたことばだ。ぼくの座右の銘にしている。世の中、精神論は役に立たない。 長谷川眞理子と山岸俊男の『きずなと思いやりが日本をダメにする』を読んで、精神論は有害だとあらためて思う。 テーマとなるのは、少子化、空気といじめ、差別と偏見、グローバリズムと雇用など。並べるだけで気分がめいる。 これを長谷川は進化生物学の知見で、山岸は社会心理学の知見で読み解く。聞き手・話し手の切り替えぶりが巧みで、一気に読ませる。 人間が知性を持ったのは社会なしに生存できないから。人間の脳は他者の心を読もうとしてしまう。周囲の視線を気にしたり、集団内の裏切り者を見つけ出したりする能力を持つ。ふたりの対話からこうした特性が見えてくる。その起源は有史以前、農耕・牧畜をはじめた1万年前にさかのぼる。 脳は心がけでは変わらない。ぼくたちの脳に染みついた特性に従って