たとえば鳥類のモズは、「モズのはやにえ」として知られているように捕獲した昆虫やカエルなどの餌を木の枝に刺してストックしておくのですが、その記憶力があまりに精密で写真的であるために、葉っぱが1枚落ちただけで同じ木であることが認識されず、結局取りに戻ることができずに刺しっ放しのままになってしまうことが多い。これが、人間のように曖昧で抽象化された記憶力であれば、葉っぱ1枚違っていても、それに惑わされたりせずに同じ木であると認識できる。このように、精密で正確な記憶力というものが、むしろ人間ならではの高度な知性に反するものであることを、池谷氏は指摘しているのです。 確かに、鉄道路線の駅名を丸暗記できたり円周率を随分な桁数まで覚えることができたりするのも、子供の頃には案外珍しくない特技ですが、大人になるとそんな丸暗記はすっかり苦手なことになってしまうものです。しかし、それこそが知性の成熟の証しでもある