妻に「おまえ漢字の筆順めちゃくちゃだな」と言われる。 そのたびにちゃぶ台をひっくり返し、「ばかやろう! 書ければいいんだよ!」などと大声でわめき散らし、挙句の果てに妻の頬をしたたかに打擲する。歔欷する妻を背中にして「文句があるならこっから出て行け」と堅く言放つ。天井からぶらさがった裸電球だけが静かに揺れている。なんてことはけっしてないけれども、「あはは」と笑ってなんとか胡麻化している。 小学生の砌、「漢字ノート」という、西洋文明がしぶしぶ漢文化を迎合しました、みたいな、これぞ敗戦国たる象徴の帳面があった。当時はそれに漢字を書きつけ、漢文字を学習するというスタイルがスタンダードであったのである。 おもにこの漢字ノートというのは、授業で使用するものではなく、家庭における学習、すなわち宿題において用いられる。 はっきり言うが、おれは宿題なんてものをしたためしがない。だいいち宿題というのは勉強ので